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第十四節「獣犬/犬小屋の世界」

24/06/02 修正

……潜伏して十数分ほどが経った。

キョロキョロとしてた獣犬が大人しくなっていた。

新校舎に残っている部活や帰宅間際の生徒たちはこの異常な光景に

誰も気づかない。獣犬の姿は圧巻だったのに。


もし。もし上手くフィエー君がフェデルガ何とかに成功して、

吸収出来たら彼女はどうなるのだろう。

「フィエー君、都合よく恋縫ちゃんと竜地を解放してくれるのかな」

ご都合な事ばかり頭によぎる。

王子は余分な要素は排除したがりそうだけど……。

完全な〈吸収〉は恋縫ちゃんたちの消滅……。

「ごめん……恋縫ちゃん。あたしが追い詰めたんだね」

無自覚に悪い方向へ向かわせていた。その罪悪感で気が重くなる。

いろいろ思索を廻らせていたあたしは油断していた。


「……なに?……なんか頭痛い……ちょっと吐き気が」

体調不良が起きる。

なんで?……ここの空気が悪い(カビ臭い)せいかと思ってたけど。

「……王子……なんか具合悪くなってきた……」

『……む。まさか……』

フィエー君で移動中の王子が何かに気付く。

「んと……王子、なんかわかる?めまい……耳鳴りも……」


『ヤツラの常套手段だ……対人ガスで弱らせる。

 苦しくなって外に出てきた処を捕らえる。またあの触手でな』

「ぐえ……Gゴキ駆除のケムリの奴じゃんそれ。んで触手プレイ。

 機械種……あの手この手で……!」

『またGか……気になって仕方ないが大丈夫だ。

 フィエーとのリンクもあり今のお前はそうそう耐えられる。

 回復は早い。最悪、仮死状態で保護モードになる』

「……また重要な設定を……改造しすぎ、とにかく……はよ来て」

『奴はお前が校舎を出た処を狙ってくるはずだ。どうにか耐えてくれ。頼んだ』

(簡単に言ってくれるよね)

……しかし、彼女と対話せずにゲームセットとかは論外だ。

フィエー君で懲らしめて同じ土俵に立つ。あの子をここで終わらせは……しない!


獣犬は旧校舎の周りをぐるぐる徘徊する。

たてがみの周囲からマダニの時と同じ触手が伸びてきて、校舎を探索し始めた。

(触手こわい……あ、口からガス出してるのか……)

獣犬の口から紫色のガスが流れてきている。小春日和で気温が高く、

模型部や他の部活の生徒が窓を開けていたのだろう。

こちらの部屋にも流れてきていた。

苦しいが、窓を閉める動作であの触手に勘付かれてはアウトだ。


そんな中、外からざわめく声が聞こえ始めた。

(――あ、嬉しい誤算だ……異臭騒ぎで生徒たちが校舎外に出てきた)

窓の影からこっそり見下ろすと旧校舎だけでなく新校舎からも

教師の誘導で在校生たちが避難誘導していた。そのまま帰宅せよと。


(有難い!警察は来ちゃいそうだけど、毛針とガスの被害を受ける人が

 一人でも減れば幸いだ――)

時間との勝負。あたしは気を引き締める。




はたして、

その機械種は狛犬の様な姿をしていた。

生じて数百年、いや千年なのか。様々なものを喰らい姿を増した。

増すたびに増える知識と記憶。

だが、今回初めて喰らったろう人型知生体……世界は一変した。

明確な<感情>というものを強く意識した。

怒り、憤り、焦り、そして……

だが、

生じて常に働く使命には逆らえない……天威の存在からの解放。

何ゆえ?わからない。そうせねばいられない。


自分の様な末端のモノは〈上位種〉の明細な命令までは伝わってない。

〈感情とは何か?〉

昆虫や小動物にも意思はあったが、極々弱い波でしかなかった。

〈感情とは何故だ?〉

少女の意識と共に、人型の知性体の常識ルールや法則を学ぶ。

狛犬の様な機械種は――人を学んでゆく。


少女の感情――優先する意思が強くなる。

少女は<白戌恋縫>という固有名称。

オスメスという区別はよく判らない。


だが誰かに――〈想いを寄せる〉――

その強い感情だけはすべてを上回る強い衝動。

同時に学ぶ焦燥感――〈孤独〉を学ぶ。

〈想い〉〈孤独〉――恋縫という少女の源泉。

いつしか――……それは〈上位種〉に逆らう意思になり――

自分の意志なのかも曖昧になる。

彼女が自身であり、自身が彼女になってゆく。


だが――〈それでも、この少女の望みを成就したい〉――

そう移入シンクロしていく――


いまは――あの逃げた個体おんなを探す。

苦しくなって出てくれば自らの勝ち。融合してアレを取り込む。

恋縫という少女の中で永遠に飼い、封じる。

竜地という存在は彼女と一緒になり、永遠になるのだ。


ガスのせいで人型知性体たちが外へ出てきていた。

なら都合がいい、待てば旧校舎の中のオンナだけになる。


――しかし、出てきたのは違うオンナだった。

(!?????!?)

髪の長い、長身の……眼鏡とかいうモノを顔にはめている。

なぜだ――この個体は何だ――……

ガスの影響を受けて外に出たにしては挙動が軽い。

眼鏡の女は下を見ながら建物沿いに移動し始める。

ガスの効かない特異体質なのだろうか?取り込んで研究素材にしたい。

しかしまるで同族のような迷いの無さ。

――すぐに思考を切り替える。

すぐさまそいつを捕まえ、あの娘をおびき出すエサにすればよい。

――さぁ、はやく建物から離れろ。

どうせこちらは視認できまい。

獣は望む。〈白戌恋縫〉が望む幸福を……自分という存在は。


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