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第七節「ソラと吸血と翼の守り」

24/06/01 修正。ほぼ新規

「おや、ソラ。何だか機嫌が良いな」「そう?」

今日の部活ももう終わりに近い

新入生は初心者向けキットを組んでいて、竜地は指導に当たってる。

あたしもフォローなりしてるのだけど。

「いや、よくないよー。恋縫ちゃんの件がモヤってる」

「そうさな。だが無理強いもよくもない」


戸締りをし、部室を後にする。バス停までは夜鳩といっしょだ。

「経過観察さねー……わかっちゃいるんだけど、悲しませたままだ」

「様子見であろうね。おっとRINEに急用案件が。ではここでおサラバ」

「え?あぁ、またね」

振り返るともう夜鳩の姿が速攻無かった。

「夜鳩の行動の速さ毎度すっご……って、ん?ヘンな影?」


バス停までのわずか。

小道に差し掛かると……妙な影が足元に。

見上げると何か……妙にデカい虫っぽいシルエットが浮いていた。

「え……メカっぽい……腹のデカい虫?浮いて……」

目の前の石垣の上を猫が通る。気づいてない。

すると――虫の短い足がぐんと伸びて……、猫を刺した!

そしてえげつない光景をみせられる。

「うげ!?猫の何かを吸っている??」

猫は訳のわからないまま吸われ続け――最期には銀色の塊となって転げ落ちた。


「うぁ……何これ銀色に……吸う?機械……て――まさか」

唐突な〈非日常〉――さすがに機械種案件だとすぐ気付く。

「機械種!?え、ちょっと待って」

鳥肌と冷や汗の中、あたしは咄嗟に学生鞄をガードにダッシュで走り出した。

「王子が言ってた――ノラ機械種……獣犬わんこ以外の!)

……そういやあいつら普段は擬態してるって!……いやいやいや!

ちょ、待ってよ!何とかの大地の加護どこいった!?」

地中深くある特殊力場が発動してあいつら地表に近づけないって。

「設定を無視するの!?虫だけに!」

まったく面白くない駄洒落だがマジにシャレになってない!


猫の生気だかを吸った腹のでかい虫――見覚えあるんだけど……。

「くそぉ。またしても王子呼びたいのに……隠れる場所……」

片田舎を呪う。近くに遮蔽物になりそうな建造物が……、

「無い!まさか、義体してる状態だと……力場の判定ユルいの??」

駄目だ。

王子が携帯電話の類を持てるハズもなく、独力で切り抜けないと!


(……下手に人がいる処に行けば、さっきの猫みたいに……)

走るあたし。腹デカ虫は低空をわしゃわしゃと泳ぎながら来る。

腹がでっぷりとしてるせいか。動きが鈍い。ありがたい。


「猫ちゃん、巻き込んでゴメン……あたし、巻き込んだ……!」

想像してしまう、

家族、友人、見知らぬ人まで鉄色の塊になって動かなくなる光景……

「最悪だ!あたしが止めないと!いや、出来る……フィエー君と王子!

量産型のあたしでも出来る事……やれる事……!」

公道を抜け、下の土手へ飛び下りる。

(この河原なら人が来ない、あの小さい橋を渡って家の方向へ――)

と、着地した足場に違和感。ふわふわというか、硬いというか

「――うぇ、ええ!?」

違う。真下にさっきの腹デカ虫がいる。……でも少し腹が小さい。

後を振り返るとさっきの腹デカ虫は接近してきてる。

「一体じゃない?……二匹、三匹――違う!すげーいっぱい!!」

竹垣から、古民家の影から。

視界のそこかしこから同じ虫が湧いてきていた。

虫。虫。蟲。蟲。同じ形の虫があちこちに湧いてる。


「キモいキモい!最悪すぎる!つか、いま思い出したあの虫」

そうだ、吸血する虫の被害のニュース。感染症とかヤバい奴。

「マダニだあああああああああああああ!」

後で調べた。

「フタトゲチマダニ」という真ん丸のマダニだ。

犬やら人間やら吸血し、パンパンに膨れ上がる最悪の見た目な上に、

マダニ媒介性感染症を起こすとQ熱とか死に至るのもある。怖い虫。


「やだやだやだ!マダニに吸われて死ぬなんて人生最低最悪じゃん!」

蚊が吸血の際、血を硬化させないための体液が痒みを生むけど、

あの猫が銀色の塊りになってしまったのもそんな感じなのだろか。

「獣犬といい、あたしの体液なりを吸って得があるってこと?」

吐き気で気がヘンになりそうだった。

しかし――「しまった!?」

無駄に熟考してたせいで足場の機械種に乗せられたまま

浮き上がってしまっていた。飛び降りたら死ぬ高さだ。

「くっそ、やっぱ義体してる待機状態だと大地の加護が効いてない!」

重症で済んでもこのダニの群れにたかられてアウトだ。

やばいなんてモンじゃない。

「……王子、ごめん王子……助けて」

少し涙目になった。浮いたマダニが一斉に襲い来る。

マンガなら主人公めいた閃きで打開策が出来るのに。何も浮かばない。


「くぅ!泣いて解決なんてできるか!」

河原に散乱した樹木やゴミの塊りがある。あそこへ飛ぶんだ。

「そうだよ!ケガなんてフィエー君で回復できるんだ!飛び降りる!」

あたしはマダニの群れが群がるのをすり抜ける様に飛び降りた。

しかし、

下方で待っていたのはマダニ。マダニの触手が受け止めに来る最悪さ。

「うぎゃあ!!そんな紳士サービスはノーグッドだよおお!!」


『好い!その思い切りは褒める!俺がサービスする!』


鶴の一声。

王子だ――と気づいた瞬間に白い巨人の手刀がマダニを横薙ぎにし、

間髪入れずにあたしをすくいとめてくれた。

「フィエー君!めっちゃ紳士!」

「俺も褒めろ!いいから征くぞ」

操舵空間にそのまま招かれる。

やはり回復が進んでるらしい。フィエー君の機敏さが増してる気がした。


「王子……助かった。あたし、めっちゃやる気出す」

「ほう?」

あたしは速攻に光球に手をかざし、操作権を掌握すると、

「王子!何か武器ないの?少し回復出来たなら何か出せるでしょ」

王子から聞いてた――何か産みだせる機能があるのだと。

「待て。〈ファウ・ラスター〉……はまだ出せないか。ならば〈創造の力〉だな。うむ、

 生と死を象徴する不死鳥を意とするフィエーニクスはファウを消費して

 武装を創りだせる――操舵士のファウをジェネレ――」

「話長い!やり方!」「む!……うむ」


長話好きな奴だから流石にね、すると少し不満そうに解説くれた。

「えぇっと、両手をクロスさせ、浮かぶイメージが”当たり前の現実になる”と

 想像し……キャッチコピーなんだっけ?」

「宣伝文句ではないわ!〈レイアンツィクル〉!」

「〈霊案作る〉!」

「なんか違う響きに聞こえたぞ?……む?」

両手の間に浮かび上がる。〈青と白のひし形の薄い板〉が無数に表れた。

〈セメデイン〉というメーカー名も再現されてら。


「な、なんだこれは!?武器ではないのか?」

困惑の王子。当然だ。

王子どころか若いプラモ世代は知らない、時代味を感じる袋の奴。

寿司についてくる「醤油」みたいに中身が入ってるソレ。

その瞬間にもマダニの群れが襲い来る。

「ふふん。ダニってのは固いし簡単にいかないのよね。

近所のわんこ洗浄ン時に地獄みた」

「ならばどうする!?」「こうする!!」

あたしの手刀で切り裂くモーションに倣い、フィエー君の手刀も

その薄い板(?)を切り裂いた。

ばぁ!っと裂いた断面から漏れいずる透明の液体。

それらがダニの群れにざぁ、と降りかかった。


「はーい!キモいからまとめてダニ退治だよ!」


中身は当然、醤油じゃなかった。つられたマダニたちは液体によって

動きが鈍り硬化してゆく。暫く藻掻もがくも、やがて動きを封じたのだ。

「……何の液体だ?」「ん?プラモの接着剤」「なんだとぉ!?」

ぽん!とまたひとつ平行四辺形のそれを生み出す。

「おとぅの古いプラモコレクションにあった奴。昔はね、今みたいにハメこみで

パーツをくっつかないタイプだったんで、少量の接着剤が付属してたの。

あたしね~アレ、デザイン可愛くて好きだったの~」

機界騎士製だから完全にプラモ用接着剤じゃないけど、固まれば良し。


「……天威の騎士に接着剤て……何て事してくれてんだ」

「雨降って、ダニ硬まれり」「上手いこと言ったつもりか!」

「またそれ、お前が昨日食ってた出来合いの寿司とやらに付いてた

醤油とやらの形と同じじゃないか……」

「……バレた?あ、はい!ダニ固まった!フィデルガ何とかやるよ~」

不承不承の王子を急かせ、融合・吸収を発動、

マダニの群れを(キモかったけど)何とか吸収して無力化に成功した。

無力化すると銀色に染まってただの鉄くずの塊になってしまった。


「うぎゃぎゃ。銀色のダニオブジェ……グロ、キモ……」

「……同意だ。こいつらは最初に取り込んで擬態したモノの形態を

暫くとるのが基本。にしてもだ。ダニとかいう吸血虫だったか、

流石に絵面が不快だ。これは非芸術、失格とする!」

なんの評価だか。

すると、銀色の塊たちは砂のようにざっと霧散してゆく。

「あー、粉々になっちゃうんだ」

「しょせん無機物の塊だからな、結合がほどけて存在を保てまい」

(さっきの猫ちゃんもだろな……気の毒に)巻き込んでゴメンね。


夕日に映えるフィエーニクス。あとは帰るだけなのだけど。

「さて、流石に今回のような事で間に合わないケースが出るのは避けたい」

「ん?」

と、王子は何かを取り出した。

「あれま。ちょっと綺麗な髪留め。あたしに?ちょうちょかな」

「鳥の羽だ」

虹の様なグラデーションがかった彩色の、鳥の翼を象った高尚さがあるデザイン。

「通信装置だな、実際は」王子は自分の頭を小突いてみせる。

「あの犬ころと今みたいな状況をみれば――やはり必要だとな」

「あーそうだね。たしかに必要だね。今回は流石に肝が冷えたよ。

でもリンクしてるから念話とか出来そうな気も」

「そこだな。かすかにお前からの異変の意志はうっすら感じたのだが、

……距離があるとどうもにもな。俺もフィエーも想像以上に弱ってる。

てな訳で画策した。最悪、声を出さずとも危機意識を発すれば

フィエーを通じて感応できよう、そんな装置だ」

「髪留め通信機ってか。ん。やっぱ何故かあたしを狙うって判ったからね。

は~もぉ怖い思いはやだ。鳥の羽根で意思疎通か。オサレでイイ」

ふーん。はふーん。ちょといいな。これ、いいな。

な、なに意味不明にドキドキしてんだあたし。


フィエー君はさっきの接着剤みたな感じで、

「専用生体アンドロイド」等の生産機能もあるとの事。

こそっと頼んで作って貰っていたそうな。便利だな。

頭部左上に髪留めをつけてみる。

「うん、悪くない。何となく……ありがと。デザインに拘ったのはいいね。

 きれーな色合い。女の子の扱いとしては及第点!少しは解ってきたかな」

「と、当然だ。我が姉上がつけてたのと似せた訳だしな、完璧だ!」

「あーそゆこと……(ちょいと色気だしたかと思えば……)」


左の耳の上にぱすっと挿してみる。姿見で確認。

「うん、ソラちゃん今日も可愛いぞ」

「あんま本気で言ってないのな」

うっせ、と手でひらひら突っ込みを追い払うも、

ふと……鳥の翼のデザインを観て思い付いた。


「そーいやフィエー君は以前は空飛べたりしたの?」

「あぁ。いまは破壊されて全快待ちだが、それはそれは勇壮美麗な翼が……」

「墜落してたんだよね?」

「……相手が悪すぎた。もとは姉上用の機体なのでな、俺の専用機でもない」

「えーまじそれ。王子、自分の機体ないのー」姉ばっかだなこいつ。

「あるにはあったのだが……十年前から消息不明になったのだ」

「シスコンにしてもお姉ちゃんの機体、借りパクはダメだよ?」

「借りただけだ!機械種に強襲されてやむなくな……む?」

それで堕ちてきたんだもんねぇ、と言外に笑顔で意思表示して見せると

こほん、と咳払い。

まー今日、あたしもいきなし機械種に凸されてきた訳だし、

助けて貰った立場でからかうのもアレだ。

獣犬やダニ(最悪)があんなに厄介だし……ね。

学校行くなとも言われないし、臨機応変にいきまっしょ。


「そ。じゃぁフィエー君。まだまだお世話になるね♪」

見上げてあたしは羽根の髪留めを撫でて、すちゃっと挨拶。

キミが治って帰ったら天井どうしよう(そろそろ修理するっておとぅ言ってたな)

フィエー君がなぜか挨拶に反応した――様に見えた。

気のせいか。

「……王子も、その、助けてくれてありがと、ね」

「ん。ついでっぽいが、……まぁ何だ。怪我なくて良かった」

夕日の紅と、操舵空間の紅で王子の横顔はよく見えなかった。


――ともかくフィエー君。キミとも半年、よろしくね。


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