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第一節「ソラと天井のあの顔と」

――それは天空から降ってきた。


大気の揺れる音と共に、わらわらと落下傘の群れが舞う。

眼下にはジャングルが広がる。降下作戦の真っ只中。

でも、

落下傘のにソレは、人型だが人ではなくロボットだった。

人型機動兵器NS(ノーブルスーツ)――あたしはそれの操縦者だった。


「ソラ!油断するな、連合だって対空砲火だけは必死だろに」

「わ、わわ。わかってるよリュウジ、えと、おぉ!?こわ!」

地上からは、無数の火線がスポットライトの様に上空を這う。

あたしらNSの落下傘部隊をハエの様に叩き落とすためだ。

「お、降りられるかよおお?」

一度言ってみたかった台詞で状況に酔う。

このままでは蜂の巣だ。

パラシュートをつけた我が機動兵器〈ザシュ〉たちは空中空母からの

降下で、地上の連合本部基地を強襲しようという腹なのだ。


「量産型だから消耗品と思ってぇ!」

無茶な作戦だが、数で成功率を上げたいくらい逼迫してるのだ。

「ああ、だが俺達ひとりひとりが主役だぜ、必ず成してみせるぜ」

リュウジは男友達でいい奴だ。中学から高校生の今でもマブダチだ。


「ソラ先輩!私もです!友達作りたい!学園生活このままじゃ終りたくない!」

「だね!部活に学園に青春が本望だね!……って、キミ誰子?」

あたしを先輩呼びする女の子の声。ヘルメットで顔は見えない。

知らないのに知っている……この既視感は何故だろう。


「ソラ姉ぇ!降下地点が微妙に南西にズレてる!バーニアで補正するんだ!」

「そーだ!」「そーぢゃ!」

何だか従姉弟の朋輝の声もする。いや両端から聞こえる女子たち何?


「おい!……ソラ、やべぇぜ!やつが、〈白いアイツ〉が来た……!」

「〈白いアイツ〉……うそ、こんな激戦区に!?」

「連合の……白い悪夢って呼ばれてるアレですか先輩!?」


〈白いアイツ〉

来やがった……連合の最新鋭NS。

悪魔の様な挙動で多大な戦果を挙げたエース機〈ヴァンダム〉。

量産型とは対極の、〈主人公〉を体現したそいつ。

「〈白いアイツ〉!量産型の敵いいい!!」


あたしのハートに火が灯る。

量産型をこよなく愛するあたしの最大の敵だ。

何しろプラモは量産型しか買わない派……買う……ん?なにそれ、

あたしはパイロットだぞ。プラモって何だ?何じゃらホイ。

CG補正されたメインモニタがその白い敵ロボを視界に捉えた。

「…………え?……はれ?あれあれ?……白い……けど」

しかし、記憶の〈ヴァンダム〉とは違っていた――

プラモ屋でいつも目の仇にスルーするほどのあたしだけど。

記憶にある姿とまるで違っていたんだ。

……それはまるで、

「……城、お城……白いけど、西洋のお城の様なロボット……」


あたしは何故か知っていた。

知らないはずなのに――それは懐かしくもあり。

〈白いアイツ〉は松葉杖の様な武器をふるってこちらに突進してきた。

そしてバラけてムチの様になったり、最後には大剣になった。

「うっそぉおお!主役メカなのにそんな武器アリぃいいいいい??」



そこで――あたしは目が覚める。

よだれを垂らして……春の風。







春風がそよいでいた。

桜の花びらが舞う四月――高校二年生になった新学期の朝。

郊外の、古い片田舎の一軒家。周囲は桜にまみれて夢のよう。

春ってこう、何かが始まる予感は誰でもあると思う。

けれど――その朝は違う意味で適う事になる。


「あ……れ?……夢――か……〈白いアイツ〉が、えーっと」

起床。

敷き布団が大好きなあたし。がくん、と何かベッドから転げた様な

衝撃で目が覚めた。

(んん~自分がロボットのパイロットになった夢を見てた様な……)

ちちち、と小鳥がさえずる。


「え」


けれど、

そんな夢が一瞬で吹っ飛ぶ事態が寝ぼけ眼のあたしに飛び込んできた。

「……え……………………なに…………アレ?」

固まる思考。

固まる日常。

――さてはて、突然ですが。

あたしはロボットアニメの――プラモが大好きなのです。

女子なのにロボットばかりに興味いく(物語も楽しんでるけども)

プラモ作りが趣味っていうヲタクなんですが、

――現実と妄想を履き違えるほどでもなくて……なんだけどなぁ。


「顔だ」――あきらかに巨大な顔があたしを見つめていた。


天井の亀裂から除く、何かの顔。

なんだろう。認識が追い付かない。

「――……えと、顔さん……こんにちわ……なんて……」

顔――もしくは仮面……みたくも思える。

やはり天井の穴から、巨大な仮面だか顔みたいなのがそこにはあった。

瞳はヘルメットみたいなのが覆いかぶって完全に視えないけれど、

鼻と口は女性の顔立ちを思わせる。

でも明らかに人工的な造形で、とてもデカい。

明らかに日常にはない〈非日常の産物〉がそこにはあった。


「………………………………こんにちわ、じゃなくね!?」


ぱしん!あたしは両手で頬を叩いた。

痛い。

痛覚はご機嫌だった。残念、ここはいつもの〈日常〉だ。

春の風が優しくて、まだ夢の中……と思いたかったけれど、

”ソレ”――ロボらしき顔は確実にあった。

「………………………………明らかにある…………よね?」

思考がまとまらない。

名前が『蒼穹そうきゅう』と書いて『ソラ』と読むせいか、

大空を見上げる仰向けでしか寝られないんだ、って誰に言い訳してるの私。

「イタズラ?ドッキリ?…………な訳は……ないね……」

古い家なんで、シミとか亀裂がそう見えてたんかなぁ、なんて……

寝起き直後はそう思ったんだけど、何時までも消えない。

幽霊や幻なら何かあってもいいのに動かないソレ。


「……うん、やっぱあれロボの顔……だ。フランス人形ぽいけど……」

……そうだ。ロボットっぽいんだ。

すとんと解釈が落ち着いた。

ロボはロボでも、〈人の顔を模したロボの顔〉なんだ。

人語を喋る、勇者なロボットとか、そっち系の顔。

でもフランス人形と日本人形を併せた様な美しい女性的な顔だちで。


「……うーん来るなら、もっと量産型なデザインがよかったなー……」

怪異に注文つけてどうする。

「――いや!夢でも幻でもないわ!なんだよ、いつまでだよ!」

眠気が吹っ飛んで、意識が定まってくると、事の異様さ重大さが

目に見えて重くのしかかってきて、

あたしはどっかんと布団を跳ね上げて飛び起きたのだった。


「……ほげ!?」


――さらに異変に気付いた。

あたしはジャージ女子だ。パジャマを着ない派。

下は下着だ。そんで片付け出来ない”だらしのない系の女子”。

(自慢する話か?)は思考の片隅に追いやって、と。さて、

部屋はプラモの箱でカオスを形成してる訳だけども――……


「いや……この部屋もカオス通り越して……どうなってん!?」

部屋を見回すまでもなく、

ゴチャぐちゃに、あたしの私室は荒らされていたのだった。


三階の――最上階にはあたしの部屋しかない。

無造作に買いまくったプラモの山は摩天楼《カオス部屋》。

それが……怪獣でも通過したかの様に瓦解して”ゴミ屋敷”に

スケールアップしてたのだ。

(――いや、前からゴミ屋敷だった気すっけど)

工具やらテレビやら、本棚も崩れて本やら何から大惨事だ。


「……うはー……あたしの部屋、大崩壊御礼……」

がっくり凹む。

あたしはシオン軍量産NSのプラモを好んで作っては飾りまくる。

サイズ違いとか同じのも含め、従姉弟にも呆れられるほどの

量産型プラモバカなのであったのだけど……。

「……って、うっそ!??」

一番大事な〈量産型ロボット〉のプラモたちが砕けていた。

「ンぎゃああああ!あたしのザシュがぁ、グシュがあああ!?」


飾り棚まで買って、丁寧に陳列していた量産型の群れ……。

完全に、見事に、原型とどめずにクラッシュアートと化していた。

激滅。おじゃん。完全終了。あたしは涙目。

筆塗りで乾かしていたパーツと混ざって前衛芸術と化していた。


「きゃおおほあ!!ネット専売のがああ!!我がプラモ人生がぁあ」

もんどりうった。

ネット販売限定のプラモがある。要望の数だけ生産するってやつ。

マイナーな機体やらレアな機体。

とくに量産型のプラモに多く、小遣いを貯めたりやりくりして

買って作ったそれらはあたしの人生の糧だった……。


プラモたちと手を繋いではしゃぐ夢を視た。

プラモが話しかけてくれる夢も視た。

ソラ姉、マジで怖えぇ、と従姉弟にドン引きされもした。


そんなフレンズ達は、いま我が部屋で天に召されたのだった……。

(も、駄目……今日は学校休みたい……)

涙が……出ないけど、泣きたくもあった。

でもあたしは部活もあるし、休む訳にはいかない。

(昨晩……地震でもあったの……?)

日本は地震大国とよく言うけれど、爆睡して気付かないなんて

揺れ……こんな大異常に気付かない――あるものだろうか。



ふと、

指先に血痕をみつけた。

かさぶたっぽい?……ちがう。血が固まっているだけだ。

よく見れば、そこかしこに硬化した血の塊りが散乱しているではないか。

「……なに?この、血のあと……」

倒れこんだ布団にも乾いた血痕と切り傷が。

「あたしのジャージにもじゃん!……あれ?お腹の……」

ジャージにも乾いた血の塊りが。で、腹の部分が割かれてる。

すかさず手鏡を見つけ全身を確認する。

「……世界がうらやむ量産型女子のソラさまにも……何か……あったっての?」


あたしは身長すら平凡な現代女子高生ってかんじ。

ニキビなく綺麗な肌。福耳。髪は片方を伸ばしてる(いつからこうだっけ?)

バストも2ミリ成長したけどサイズB。

容姿は、ほら、あれだ。メインヒロインの横で

『へぇ、そうなんだね』と相づち打つ、よくあるモブ顔だと思ってる。

家族は可愛い可愛い言うんだけど、

それがお世辞だって判る歳にもなっていた。


「……なんだかあたし一度死んだみたいだよね?

異世界に転生もしてないし……タイムリープもしてないよ?」

鼻を拭きつつ、周囲を見回す。

スマホは幸い無事で、時計も西暦も確認した。問題はない。


なのに、大事故があったのに……蘇生でもしたかのよう……。

この血痕たちは本当に自分製なのだろうか。

ジャージをめくる。

「あり?」

よく見れば、お腹の部分に切り傷の跡……まるでなにか、

つなぎ合わせた跡にも見えた。

(――寝てる間に改造手術?……いやそんなバカな)

昭和の仮面ライナーとかにある展開を想像した。


天井を見上げる。

「えっと……地震で部屋が倒壊。テレビやら工具やら喰らって

あたしは実は絶命してて……」

「そんなあたしを哀れんだプラモの神さまが蘇生させてくれて……、

お詫びに等身大なロボットを授けよう……みたいな!?」


発想が実に小学生だった。


「あーはははははは……はは、は……って、あるかーい」

盛大な一人ツッコミ。

それと同時に、ぐぅぅという腹の音が鳴りだして朝だと思い出した。


「ぐ……腹減った。朝だ。学校行かな。あちしもうキャパオーバー……」


あたしの小学生脳が、思考を拒否した。

警察やら親やら駆け込んでもいいのにさ。その時のあたしは駄目だった。

昨日、何かあったの……?

(……何もない、よね。あたし量産系女子だもん)

答えになってない、意味不明な納得と共に踵をかえす。


「……学校から帰ってきたら元通りってご都合、ないものかな……」


あたしはドアを開け、足早に階段を下りてゆく。

事なかれ主義のあたしは現実逃避に逃げてしまう。


――そして、

それだけに、

あたしは想像すら出来なかった。

あたしの運命を変えるあの■■――

”あんなの”が埋もれてるとは露知らず――春の風。

(24/05/19)加筆修正

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