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第六節「ソラと逆襲の獣犬」

24/06/01 修正

恋縫ちゃん家からの帰り道――は続いていた。

一日が綺麗には終わってはくれなかったのだ。

「うそ……何で?……やばいよやばいよ……!」

あたしはまだ鉄橋に居た。居ざるを得なかった――

……それって言うのも……。


『グォオオゥルウルゥウ!!!』

目の前から響く怒号。剛性の巨躯。きしむ鈍い金属音。

鉄橋(鋼橋)の上方を構成する鋼材アーチリブの上には

獣犬――あの巨大な狛犬の機械種が張り付いていたのだ。

そして、今まさにあたしをまた喰らわんと息巻いていたんだ。


「だからぁ!……なんでこのタイミング、あたしを狙うのよぉ!?」

鉄橋に差し掛かった途端にコイツは現れたのだ。

金属製の牙が軋んで吠える。怒声が唸りと狂気で下手なホラー映画の比ではない。

「怖い!怖い!吼えるな!吠えるな!もう!!」

何が狙い?あたしを直接ねらう?


「操縦者を直接狙う!ってロボットものじゃ反則だよ!」

そんな漫画のお約束ごと言ってる場合じゃないし!

えーとえーと、考えろあたし!

あーうん、白い巨人とあたしはリンクしたとか言ってた……あ、まさか。


「あたしを喰ってパイロット候補!?」

いや、違う。アホか。

「そうか……順当に考えて……王子から何とかの鍵を奪うにはあたしを先に始末して

弱らせてからのが手っ取り早い……そんな感じ?もしくは……」

あたしはもう一つの可能性に気付く。

「あたしが……〈生命力の電池〉って気付いた……?」

あり得る。操者とかっての、ファウとかいうエネルギー供給の元だとか

言ってたし。何とかの大地のせいで、早々手が出せないから

痺れをきらしてあたしを狙う。あり得る話だ。

……なら余計マズいって。

いや自分で”電池”って認めてんなよ、て感じだけど。

この状況、かなりのバッドです。バッドエンドが見えてきました。


「……にしても」

白い巨人に勝つには動力源を絶ってとは道理だけど、そんな頭回るの?

量産型の癖に。

獣犬は鋼材を手でがんがんと叩き、威嚇する。

通りすがりのサラリーマンが、何だ揺れるなぁ?とか言ってる。

「……こんな絶望な状況を認識できないって幸せだよ……とほほ」

あたし達地上民の脳波だかに元々設定がいじってあって、

見えてても脳が認識不能スルーしてるって言ってた。

見えてても意味として理解できないから、気にもとめない。


「……やっぱここへは入れないっぽい、だけどここ一歩でも出れば

 ガブリと昇天だ……あーこりゃ詰んだ……」

たぶん、何とかの大地の力場で反発されて手が出せないのと、

意識的に”手が出せない”と思いこまされてるんじゃないかって

あたしの推測。

量産機たちが誓約をとっぱらいたいのってそういうジレンマだろう。


「どうする……?」

最悪の予想に、あたしは動けずに居た。

王子に助けを呼びたい。ムカついてるのにって都合がいいけど。

威嚇の怒声がさらに増す。だから、その咆哮やめて!怖い怖い!


「恋縫ちゃんと話がしたかっただけなのに……」

眼前に迫る獣犬の顔。エメラルドグリーンのコアが見えてしまう位に。

唸る獣がまさに泣き声のように聞こえてくる。

入りたい。喰いたい――欲求を満たしたいのは機械も一緒か。


「な、何よ。何が言いたいのよ……恋縫ちゃんに逢いたいのそんなに駄目?」

何言ってんだがあたし。獣犬がまた鉄橋をブッ叩く!

「あぁ!煩い!もう!……はっきり口に出さなきゃわかんないっての!」


この時間稼ぎで王子が間に合ってよ、とか都合のいい事が脳裏によぎる。

(……そうか。あいつにとって都合がいい存在なあたしだけだけど。

それだけ、あたし自身もあいつに頼らないといけない立場じゃん……)

少し反省した。


「……ごめん。気づいてよって……ご都合なあたしも酷いね……」

反省したとしても、あいつを呼ぶ手段が無い。八方塞がりだ。

前後を見る。

鉄橋のどっちの端っこから抜け出せても民家や遮蔽物へは距離がある。

走る自家用車に飛び乗ったらいけるかもだけど、その後がめんどい。

あっちが誓約の隙を切り裂いてあたしを捕らえる可能性が大きい。

(……どうにかダッシュで滑り込むか……このまま耐えて諦めてくれるの祈るか)

選択が迫る。

がん!がん!と鉄橋に八つ当たりする様な音がする。興奮しているんだ。

あいつはこんな相手と闘っていたんだ。容赦もない生と死だけの選択。


「……このままじゃ埒があかない!いっその事ダッシュであの屋根の下へ!」



『死ぬ気かアホ娘!!気付かない筈はなかろう!!』



風を薙ぐ轟音とともに、フィエーニクスの膝が獣犬を横から直撃した。

真下から見上げるは王城の様な起立。この状況ではあたしには救世主に見えた。

「王子……!……っ!嫌いだけど今はちょー好きッ!」

「聴こえが悪い!」

獣犬がよろけて……後退する。

その隙にフィエーが鉄橋沿いに隣接、手を差し伸べる。

「ソラ、遅れた。すまない。怪我は無いか?いけるか?」

一気に力が抜ける。このままへたりこみそうになる。

「ケガないけど……安心したら気が抜けた……」

あたしは足にリキいれる。気力が戻った。

「うん、ちとあのわんこにムカついてたんで、それ乗りたい気分!」

「なら都合がいい!」と、巨人の腕を差し出しあたしは搭乗した。


「……って、あれ?」

気が付けば静寂が。獣犬の姿がない……。

鉄橋は静まり返っていたのだ。

「……またか。何故どうしてヤツは後退する?」王子も意外な顔。

「わかんない……フィエー君がトラウマにでもなったんかな」

獣犬との突然の再戦。でも拍子抜け。あたしは命拾いしたのだった。


――操舵空間に残されたのはあたしたち二人。

まだ許せてはいなかった。邪険にもした。

そんな相手に助けてほしい、は図々しい。立場がわかってなかった。

運命共同体。都合のいい時だけ使っていい言葉じゃなかった。

「……えーと……」

「ん?犬は去ったぞ。お前も傷なし、では帰るだけであろう」

「…………ごめ……あり……」

「ああん??」

「ごめん!ありがとう!って言ったの」

あたしはくるりと振り返り、ぺこりと頭を下げた。

「……えとその、ごめん。うん。ありがとう……マジ。すご。

助かった……よ」

「………………」

王子は何やら無言で固まった。

「いや!ちゃんと誤ったよ。お礼も言った。あたし頑張った!」

「……お前のそのキャラで……礼も謝罪もあると、何か……」

「なによ?」


「普通に……女の子みたいだ」


「うがあああああーーー!!」

暴れた。ぽこすか王子を殴る。

「いや、すぐ脱ぐし、着替えるし、まるで俺を男とか人間とか

意識してなかっただろ、お前」

「そうだけど!おっしゃる通りですけど!なんか女子としての」

「……女子としての自覚はあったのだな」

「おるっしゃああああ!ごらあああ!うおおおあああ!」

なんだか勝てる気がした。幻想だった。王子のボディ固かった。


「いて!かてぇ!何その身体!」

「当たり前だ!不完全だがアンドロイドボディだっ」

ひとしきり殴った(痛かった)あと、あたしはとうとうへたりこんだ。

疲れたし気が抜けたし怖かったのもある。

(やはりフィエーニクスが居ないとあたしもヤバいんだ)

そんな今更な事実で、覚悟が甘かったことに気付く。


「……いや、とにかく無事で良かったぞ」

「…………ん」

顔を反らしながら何ともなく真顔で言われる。

「ま、電池ですもんね、あたし」

「馬鹿者!……人して人を案ずるに何がおかしいのだ!」

「ごめん……ありがと、それは本音」

王子の顔が真剣で、あたしをちゃんと案じていたのが判って

あたしはおどけるのをやめた。

揶揄やその場しのぎって感じでもないこの表情は信じてもいいかと。


「えー朗報です王子。ムカついてた発言をいま、全廃しました」

「む?何だそれはいきなり……気は済んだのか」

確かに王子からしたら拍子抜けだろう。

「あっちは見境ないんだって今日思い知った。平常でも

あたしは狙われてる。あんたに頼らないといけない。

でも学校をサボる訳にもいかない。あたしは平常を生きたいの。

だからいつまでも怒ってるあたしの感情が邪魔。それはいけません」

「感情が邪魔……不可思議な承諾だな……」

「……という所以にてあたしの中の戦争が始まったと、

覚悟を決めた次第であります」

「……おまえそのヘンな口調、何かあったのか?」


元々ヒネた娘なので、感情の整理が訳ワカメで赤面してきました。

(あの……急に男の子って意識したら……ん……んん)

あかん。彼氏とか居た試しないプラモ馬鹿な自分を恨む……。


「大丈夫か?フィエーの精神メディカルケア受けるか?

いや、そうだな。こういう事態の為に普段からミーティングを……」

「がああ!そこでクソ真面目な対処策とか駄目!なんでよ!」

「え……いや、機械種汚染で精神錯乱されたのかと」

「そういうのあるかもだけど!」

「ふむ、なら良し。帰って食事して風呂入って寝なさい」

「なんでオカンやねーん!」

「情緒が忙しいな……ま、何かわだかまり取れたのなら行幸だ」

「……いや、うん。ちょっと興奮してたのかも……帰ろっか」

「……そうだな」


何だか不思議に治まってしまった感情。いいのか悪いのか……。

ひとまずの留意。

少しは彼を観察しよう――彼も人間だ、と言うのなら。

白い巨人と帰る夜の道は、足取りが不思議と軽く思えたんだ――。

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