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第三節「ソラとモグ男と仔犬と」

24/05/28 修正

昨日の今日で、あの獣犬が再戦を挑んでくるやもしれない。

その畏怖はあったものの。学生は学業がお仕事。

番組後半に都合よく敵が出てくる的展開ないかな。

なんつーてる内に放課後になっていた。


「よぉ~?いい加減に部室交換しろってさ。プラモなんて趣味だろ?

大会ねーだろ。俺達は世界レベルのプロ目指してんだよ」

部室の前。夜鳩が対応してるっぽい。何やら揉めている。


「……あれって確か確かEスポーツ同好会か」

――たしか銃で撃つゲームのプロゲーマー志望の面々だった筈。

娯楽遊戯でプロになる、って……あ、うちの父もそうか。

まぁ、E(電子)ゲームだけに電源ある部屋が欲しいのだろけど。

そこに躍り出る影ひとつ。


「阿呆。プラモブームで高校生大会あるの知らねーってかニワカ」

「な……なんだと!?てめ……う、迦土」

同好会の(いかにもボンボンに育てられた)小太りの男子がたじろく。

教室を覗き込む巨体。

やっぱ竜地は背が高く少々不良ぽいから怖いよね。


「ふん、FPSだっけ?オレもガンシュー好きだから分かるがよ。

女子が部長だから押せば折れるとか?ショボいねぇ」

「う、うっせーよ。FPSのeスポーツは世界大会あんだよ。

全盛期が短けーんだよ、俺達には時間が要――」

「おいよ?ウチの女部長はな、プロモデラーの父親習って全国大会

めざしてんだよ。あぁん?

自分の思い通りにならねーと喚くサルがプロになれんのか?」

あたしをヨイショしてくれんのはいいとして、間近の竜地の顔は

めっちゃ怖いんだよ(あたしは慣れたけど)

「……ち。帰るぞ」

あくまでも今日は引いてやる、って感じだけど、

あれはもー来ないだろねぇ……竜地のガン飛ばし破壊力SSR。

毒づきながら去る小太りくん。

くひひ、と見送りする竜地。さすが我が部の用心棒(自称してた)

模型部の空気が緩む。


「竜地の兄貴おつかれっしたー」あたしは深々と頭下げる

「なんでムショ帰りの若頭みてーなの俺……」

「でも、ほんっと竜地のそゆとこ素敵すぎて大リスペクト」

「ぅぉ……お、お、おだてんじゃねーよ。よせやい!」

何かマジで若頭みたいだね竜地……。


「そいやさソラ。部員の勧誘、俺っちは二人目星ついたぜ」

「おーやはり有能マンだーしゅきー」

「ぐはっは。ほ、褒めろ!はは、がははは」

照れる竜地はやはり力になってくれる良い”友人”だ。

同じヴァンダムBREEDを観てた世代だけど、んなプラモ好きだったかな?

「……モグ男はさ。口が減ればモテそう」

「うっせ。モグ男はよせ」

迦土竜地。土と竜と続くので土竜モグラ

中学ん時からモグ男とたまに呼んでる。うちの親父を尊敬してる

らしいけど、あたしにゃ懐かない(に見える)めんどいツンデレだ。


「大丈夫だよ。今日、かっわいー女の子。部活来るからさ」

「あん?珍しいな女子て」

「そう思うよねー。あたしもちょい意外だし」

「ブームだからってすぐ辞めんじゃねーの」

「そこはあたし達が乗せないとさ。まー大丈夫よ。

新しい自分を発見したい系のマスコットみたいな子だもん」

「ンな手合いが早く辞めんだろ。カジュアル嗜好は飽きるの早ぇ。

特にプラモの事になると早くなるお前のオタク早口じゃ持たねえて」

「はぁ?細かいなー決めつけんなーデカい図体してー」

「でけぇからこそ見えるもンあんだよ」

「嘘くせーくせーあんたの彼女になる子は大変だねぇ」

「は?なんで彼女、お、おめぇが言う、っがああ」


そこに副部長の影。

「夫婦漫才はいいとして」と夜鳩が制した。

「「なんで!?」」声が揃った。

夜鳩はどうもくっつけたがるなぁ……何を勘違いなのか。


「小生も幾人か勧誘の目星がついたでな、リストアップしてきた」

プリントアウトしてきた紙には数名の当たりアリと。

「やるじゃん夜鳩。ほんま部長向きよね」

「小生は”可愛い女部長が懇切丁寧指導~”と吹聴して回っただけさ」

「え?うちの部長、可愛いの!?」

「いや、おめー以外に部長いねーだろ、なんで他人事なんだよ」

竜地のツッコミにてへーとお道化るあたし。


「可愛いで思い出した!恋縫ちゃんのクラスまた聞きそびれたや!」

「こいぬ?」

「ん?恋に縫うって書いて恋縫ちゃん。部員候補で……どしたん?」

「………………っ」何かいぶかし気なモグ男。

「……そいつってもしや」

モグ男が何か言いかけたところで、噂の主が顔をだした。

「せーんぱーい♪」

とっとと軽い足取り。足音だけでもう可愛い。

「おぉ~噂をすればワンとやら」

「不肖、白戌恋縫しらいぬこいぬ、模型部見学にはせ参じましたー」

びしっと敬礼、戸口にちょこん。

恋縫ちゃんは、ことさらあたしとその横の竜地に目配せをした。

(今日は校内でも逢えたなぁ)と緩んでると……竜地が怖い面だ。


「……しらいぬ……白戌恋縫……?」


「え?」顔を曇らせる。

「白戌……懐かしい名だ。一週間失踪やらかした……久しぶりだな」

「…………っ、りゅー……ぃあぅぁ」

恋縫ちゃんがごにょごにょと言い淀む。

「……一週間……失踪?」……どこかで聴いたワードだ。

「いや……俺の知ってる白戌はこんな明るい感じじゃ……本物か?」

「……竜地、どゆこと?」

元から目付きの悪いとはいえ、妙に辛辣な顔だ。

「オメーな。時事ネタに疎すぎる、つい先日だ、春休みにあったろ?

 一週間失踪した女の子がある日、ひょろっと帰って来たって事件」

「あ……」

家庭の不和で家出した子が、街の山間いで行方不明になったものの、

何故か一週間後にふらっと家の前に立ってたと言う。

その間の記憶が無く、警察が調査するも事件性不明で終息したのだ。

SNSだけじゃなく、小さくニュースにもなった。


「……その子が恋縫ちゃんだっての?」

あたしは制服の裾をひっぱって促す。

頭をかく竜地……バツが悪いって顔してる。

「……俺のご近所さんなんだよ……ちっと、幼馴染……かな」

「…………っ」

恋縫ちゃんの表情が曇る。ガキん時は遊んでた事あったと竜地。

「あの時は騒ぎになった、俺も微弱ながら捜索には協力したんだ

そん時は結局、白戌に逢えないまま解決しちまってな……、

それからも警察とか報道が来てた。なかなかおばさんにも

顔出せないままだった……」


恋縫ちゃんはお辞儀して言う。

「……えと、竜地、さん……お久しぶり、です。その節は有難う、

ございました」

「………………」竜地の表情が硬い。

「あの、……その」

彼女はあたしが竜地を摘まむ手にチラチラ視線を落としてる。

幼馴染の再会って”わぁ!久しぶりぶりー♪”って、いかないの?

そこから会話が続かない。気まずい。


「わーモグ男も恋縫ちゃんも幼馴染なんだー素敵、劇的、花マル!

んじゃワンダバ部活しようねー。さ、まずは部室をだ……ね……」

「「………………」」

ノリでやりきろうと……駄目っした。誰か助けて……うう。

竜地の中学以前の話は無知だし、立ち入っていい話題でもないか。

……しかめっ面の竜地。うつむく恋縫ちゃん……空気が……。


その後。

夜鳩たちが連れて来た体験入部の子達を伴い、部の紹介に入った。

昨今のプラモ人気と、夜鳩の的を得たテンポの良い解説で

どうやら数名は好感触で部員ゲットは間違いなさそうだ。


――なんだけど……

教室の隅っこでは竜地と、恋縫ちゃんからのどんよりオーラ。

そっぽを向いて目を光らす強面こわもて竜地。

捨て犬オーラの恋縫ちゃん。

太陽月子ペアの和気藹々は天国すぎたよ……たすけて。

そんなこんなで本日の部活紹介は恙なく終了した。

体験新一年生に夜鳩特性・部活紹介プリントが配られ

(何故かイラストが滅茶滅茶かわいい。夜鳩画?)

部員が和やかに退出していった。


恋縫ちゃんもとぼとぼ出てゆくのだけど、そこに竜地の言が遮った。

「……白戌。いいか」「……っ!」

やめてそれ。カツアゲオーラよ。

「お前……俺が部員と知って……?」

びくん、と恋縫ちゃん。

ゆっくり振り返ると弱々しい笑顔で竜地に顔を向けた。

「うん……あのね恋縫……また、幼い時に戻って……なれたらって」

「幼い時って……何が言いてえ?」

「え?……言う……うん、いっぱい話したい……事あって、その」

「……そっか。そうかよ……」

恋縫ちゃんの「え?あの」と言う声も待たずに竜地。

「……部活やりたいのなら、止めはしねえよ」

「そ、……んな」

「失踪の件で恩義を感じて入部してくれる様ならやめときな……」

邪見に背を向けかぶりを振った。予想以上に険悪で息が詰まる。


「竜地、ちょっとひどくない……?」

「うるせぇ……俺達の問題だ……そいつ、本当に白戌なのか……?」

恋縫ちゃんの表情を見てしまった。泣きだしそうで……つらい。


「………………えと、ソラ先輩、……なんていいますか……

やはり入部は……もぅ少し考えさせ……ん、ごめんなさいッ!!」

「は?え?お、おおお?……ちょ、ちょっ待って!」


恋縫ちゃんは足早に走り去り竜地は黙って模型雑誌にかぶりつく。

「……えぇ、ええ?」

残されたあたしは虚空を薙ぐ。

捨て犬の意味……こういう意味だったんだろうか。

恋縫ちゃんの駆ける足音が……空しく校舎に響き渡った。



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