表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/139

第二幕/ 第一節「草原の記憶/断章」

24/05/27 修正

第一節「草原の記憶/断章」


――草原があった――。


漠然と感じるのは一面の草の海。

そのただ中に段ボール箱があるだけ。

表面には張り紙があった。


”わたしを捨てないで”という文字。


捨てておいて、拾えという無責任なのか。

あたしは昔、動物を飼ったことがある。

だから人間の勝手は許せない性質だった――それが偽善でも。


ぱかりと段ボールが開いた。

ひょっこり出る無邪気なまなこ、小さな犬。

抱きあげる。

あれ?この張り紙の文字、

そこは普通は『誰か拾ってください』だろうに

なぜ――そんな――……


犬種が不明。たてがみに見える体毛。でも可愛い感じにも。

愛らしい……そうわかる。愛される為に生まれてきた子なのに。

キミは愛されていい。

無条件の愛もあるのさ。

いい愛情に出会えるといいね。

犬の顔がよく見えない。どこか見た気もした。


草原はいつしか雨が降り、川になりて、涙になった――


そんな、あったはずの――草原の記憶。





目が覚めた。

ひやりとした朝の冷気。まだまだ春先だ。

「夢か……捨て犬……可愛い、って痛!!あたた!」

体中バッキバキ。えぇと、あたしちゃんと布団で寝てる。

昨日……えぇと、何だっけ?

草原でわんこを抱き上げる夢より何かすげー体験をした様な……。


「第四陣、投下」

のし。

「……うげ」なんか頭の上に――

「……ねぇ王子。なに、この空き箱……?」

王子が布団の脇に来て、プラモの空き箱をあたしの頭に詰んでいた。

「王は暇を持て余すと箱を詰むのだ」

「……ねぇ。あんた女性と一緒に生活したことないっしょ?」

「妹とは仲良かったぞ」

「シスコンは姉の方じゃ?……妹もいるのか……って、はよどけぃ!」

「む。起きたな。体調不良ではないな」

すすっと、どかし始める王子。

「……おーい。そこはおはよう、しょ」

「ん?」

「朝の挨拶は”おはよう”――運命共同体とかでも基本は守ろうよ」


王子の顔みて思い出した。昨日の白い巨人と獣犬との闘い。

たった一日でこの齢十七年を上回る体験をしたのだ。

ガラクタなの天空の国の王子。

……こいつと半年間、

運命を共同して生き延びると約束したのだった。


「あーそぅだな。ん……ぉはよぅだ、ソ……ラ。これでよいか?」

「もごもご挨拶すんな」

同世代の女に免疫なさそだ……コイツ。

まー名前で呼んだしいっか。眠いし。

片足でけんけんしながらあたしの寝床へ寄って来たのかと思うと

笑ってしまう。

弱音を吐いたこいつとどっちが素なのやら。

朝だしカーテンを開ける。陽光は柔らかい。


「また奴らが来るかもしれない。用心せよ」

「あんたねー……朝からデリカシーのない」

「事実ではないか」

「ねぎらいの言葉とかさ、嘘でも言うの、女性には言葉よ、基本」

「……んー……ま、庶民にしてはよくやった」

げし。無言でこいつの足を蹴る。


「いや不完全な義体の部分は痛覚ないぞ。学び舎へ通う時間では?」

「ち。そうだけど……ん……私、どうやって帰ってきたんだっけ?」

ジャージ姿のままである。

「……帰還途中で寝堕ちたんで俺がお姫様だっこして寝かせた」

「うっそ」

「嘘だな」

王子の足をさらに蹴る。蹴る。蹴る。

「つまんないぞー王子」

「フィエーに無理きかせてギリ自力で帰還したのだ。感謝せよ。

 ま、操縦者の生命力を強く消費するからな、初回なら尚更さ」

「お姫様だっこせずに寝かせはしたんだー。やーさしー」

「俺がフィエーニクスでつまんで放り込んでみせた」

「げーどうー♪」外道王子にさらに蹴り。


「あれ?でもジャージ新しいの着替えてるじゃんあたし」

「フィエーなら着衣を簡単に創造できる。その程度ならな。

どうもお前と相性がいいせいか。僅かなファウで作れた」

「……そりゃ凄いね。あの日に破けたジャージ、そっくりだ」

「そうか。マメだなフィエー」

「着せたのは?」「俺だといいのか」「……セクハラ王子」

結局、フィエー君は創造と同時に着せる形で現出してくれたらしい。


「昨日からそのセクハラというのは何だ?俺のあだ名か?」

一人称が俺になってる。自分で調べれば、と突き放した。


「……で?どうだったの……あのあと獣犬けものいぬは戻ってきた?」

「獣犬?……あぁ、あのペロォタイプか。ないな。

 機械種どもは執拗だが、それなりにダメージは与えていたのだろう」

「ふーん……」

再戦はすぐにでもあるってことで。大丈夫かこんなに疲労して。

去年末の郵便配達バイト、数日後に慣れて何とかなった。

あんな感じで慣れでいけるモノだろうか。


「あ……やだな。あたしすっごく和んでる。アンタに怒ってたんだった」

「む……」

「運命共同体でもさぁ、別にあんたと親睦結ばなくてもいいのよね」

「そうだな……」

ちょい意地悪か。でもまだ距離感が必要な気もした。


「根本的な質問思い出した。量産機って他にも襲ってくるんでしょ?

 熟睡して起きなかったり、あたしが風邪引いて駄目ーとかな場合は

 どう対処するつもり?」

「あぁ、フィエーがこの家に顔つっこんでる間は《アトモスフィールの大地》と

 みなされてあいつらも中々手は出せないな。基本」

地表として発動する”何とかの大地”はそゆ処、ご都合で助かる。


「アトモ……あぁ、スケートのリンクとみなされるって事ね。へぇ、

 地味にご都合な設定でいいよね」

「……ご都合設定言うでない」

じゃあウチの家族は一先ず、迷惑はかからないかな。少しは安心した。

あのわんこ獣があの朝、攻撃してこなかったのもそれだったか。


ぽん。あたしは王子へまた現代語辞典を突きつける。

「……ムカつきは収まってない。時間がかかるって。そこではい、

これ。あんたも地上民こっちを勉強、生き抜く努力をOK?」

「ん……道理だな。努力しよう」辞典を受け取った。


「じゃ、あたしは学校行く準備をば……って、あー!」

「な、なんだコロコロ忙しい!」

「うっさい。後輩ちゃんに部活を紹介する約束してたんだよ」

「後輩?」

「朝からまた来てくれるかなーえへへーぷりちー」

可愛いオデコに逢いたい。

あんなわんこを拾う夢をみたせいだ。

ばばっとジャージをぬぐ、パンツとか見えてても相手は人形王子だし。

ブレザー制服は胸のリボンが簡易式なのがラクよねーとか

余計な事言いながら。

「だから!恥じらいを持て!見せたがりか!遊女か!」

「現役女子高生ソラさんだ。じゃね、鋭意努力!行ってくるわっ」

通学バックと手提げバックひっ捕まえて部屋を後にした。


人形めいた美貌が赤面で、ちょっとかわいいかもと思ったんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ