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第十一節「ソラとそびえる天威の守り人と」

「……っ……あ」

――ほんの一瞬、気を失っていたらしい。

目を覚ましたのは巨大な手の平の上。

まるで巨大アトラクションに乗った時の童心の如く、惚けた。

「…………ぇ、ここ、マジであのロボ君の手の上?」

(あいつ……動かせないとか言ってなかった?)

そんな処だけ覚えてる自分もどうかと思うけど、これは驚く。


無骨な手。確かに関節がメカっぽい。それが釈迦の手の平の上でなく、

「……城……みたいだ。あの寝坊助君が……こんなに綺麗……」

それは、白くそびえるノイシュバイ何とかみたいな美しい城。

そう思えてしまう様な美しいロボットだった。

要所要所がボロけてるけど、古代の遺跡に見る残滓の優美さ。

あの寝こけてたロボが……こんなだったんだ。


『女。生きてるか?……死んで貰っては困る』

返って来たのはロボ君の声ではなく、あの王子のものだった。

「……嘘つき……そのロボ君、動けないって言ってたのに」

脳に直接響く様な人形王子の声。

『フ……お前とリンクした一日分でなんとか稼動させた……。

ここまで出来たのは想定外だが、機械種の襲来ゆえ、行幸だ。

だが、たぶんもう……ほぼ動けん』

「はぁぁ?」

ガス欠とか言うやつだな、お前の本で読んだと言う王子。


『勝手な真似だとは思うがな。まだゲスト登録という段階だ。

簡単な仮登録。お前とフィエーは相性がよいと言ったろう?

まさかほんの12時間程度でここまで動かせるとはな。

ただ、それでも俺が動かせるのは最低限の動作だ』

「……あたしに……まさか?」

『そうだ。急げ。これから<仮操者>として権限をお前へ移譲する。

その腹の傷、機械種感染の疑いもあるからそのままだとお前の

身体に有毒なことになりかねんぞ。急ぐんだ』

観れば、殴られた獣タイプが距離を置いてこちらを睨んでる。

死んだように寝てた奴が突然動いたのだ。まだ攻撃してこない。


「っ……あんた……問答無用の上に押し売りじゃんか」

『そうだな。酷いな。あとで何発でも殴ってくれ。だが、

この脆弱な状態では最下級のペロォタイプでも我らには致命傷だ』

「……ぅく。ほんっと殴りたいけど……この状況!」

お腹の傷から出血が。ドロっと出てきてあたしも貧血起こしかねない。

恐怖ですこし痛みが麻痺してる気するけど、迷ってる場合じゃない。


「くっそ!どうしたらいいのよ、さっさと教えなさい!」

『お前が<操舵>するのだ』

「そう、あたしが<操舵>すりゃ……操舵って船じゃない?

 操縦?いきなし……操縦って、ただの一般人だよ!?」

『<アゥエス>は搭乗者のファウ《生命力》で感応し、

この光玉をって……ええい、気合だ!気合で動かせると認知せよ!』

「認知って出来ちゃった婚か!そんなテキトーな!」

『えぇい!駄弁ってる場合で――ぐぁ!?』


「――は!?」

何か大きな影が迫ってきたのかと思えば瞬間、天地がひっくり返り

あたしは訳のわからなくなる。

なんだ?何が起こったのかまた判らなくなった。

「うあぁ!や、やぁぁ」

視界。眼前にあの獣犬の巨大な顔が迫り、事態を把握する。

(そんな!?ロボの手の平ごともぎ取ったの!?……あたしを)

砕ける巨人のパーツが飛び散っているので間違いない。

そのまま白い巨人の胸部を蹴り飛ばし、反転して向こうの山の上へ。


(なんで――あたしに獣犬は執着して……?)

……くらくらする視界に巨獣の歯が光る。

よろめく白い巨人。

(『くぅ……犬っころ風情が……肝心な……処で』)

そんな王子の声が響いてくる――そう思えた。

巨人が息絶え絶えながらに振り返る。今の強襲で胸部が破損し、

中の王子の姿が僅かに視えていた。


「え?あれって……っ!?」

胸部。ヒビ割れた内部……何か空の様なモノが拡がっている。

非現実な光景。ヒビの合間からよろついた王子の姿がみえた。

操縦桿は見当たらない、本当に気合で動かしているのだろうか。

すると、周囲から触手のようなモノが出てきてあたしを拘束した。

「――て、何これ!?」

気付けばペロォとか言う〈機械種〉はあたしを

そのまま飲み込もうとしているらしかった。


(……なんで!?……ロボじゃなくて、あたしを喰う!?)

「うそ、……そんなマジで……?」

じわ……ジュゥゥ……。唾液のような体液で服が溶ける感じがわかる。

溶かして吸収するのだろう。今度は確実に”喰う”のか……!

「……ゃ……待って、よ……」

命鎖リンクとかあれば治療効果があるらしいとか聞いたけど、

一気に喰われたらお陀仏だろう。

海外で、熊にハラワタを食われた女性の話を思い出していた。

携帯電話で最期を家族に知らせていたという――生きながらにして。

あの話を聞いて、背筋が凍ったけど……。

「……やだ……やだやだ……今度はあたしの番なんて!」

今度こそ容赦はない。

両手も両足も触手で束縛、動かせようにもない。謎体液で溶けるだけ。

自分を〈量産型〉と定義づけた小娘が〈量産型〉に食われて死ぬのだ。

一気に噛まず、味わって終わらせる気だ。


眼下には我が家が見えた――夕食を団欒していた我が家族、その隣人。

あたしは意識されずにもされず終わるのか……。

「……この小さな街で……普通に学校行って……プラモ作って……」

ばぎん。ついに歯であたしをかみ砕きにきた。


「……明日、あの愛らしい恋縫ちゃんを部活に招いて……

楽しい日常にするんだからああああ!!!!」


瞬間。ごうん、と鈍い轟音がして、獣の動きが止まった。


眼前に誰かがいた。

「……王子!?」あのヒビの間に居た王子がここにいる?

よく見ると左手からケーブルの様なツタが伸びていた。

白い巨人の壊れた片腕から繋がっていた。

よく見ると、巨人の左手で獣犬をぶん殴っていて、

壊れた右手にケーブルをひっかけてタ-ザンして来たらしい。

(あの伸びる手を使ってここまでダイブしてきたの!?)


『お前が必要だ。お前しかいないのだ――終わるでない!』

王子の右手の先が不思議な緑色に光って触手を切断した。

ひるんだ獣犬を他所に、王子はあたしを抱き寄せる。

「ひゃ、まるで口説き文句かよー!って、あ、何を!?」


眼前に迫る王子の顔。イケメンだが美形すぎて。

「セ、セクハラ!?やめ……!」

『セクハラとは何だ!?いいから。俺の額の宝珠に接吻しろ!

それで仮認証イニシャライズが完了する』

「……………はい!?」

『接吻!……言い方で納得したいならキスって奴だ』

「なんでアンタと!?」

『阿呆。恋愛のキスではない!ヤツがひるんだ今だ、時間がない!

体液からの遺伝子情報で登録する必要が――て、はよせんか!』

ギ、ギギ、ガガ。周囲からきしむ。獣犬が正気を取り戻したらしい。

猶予なんてない!

(迷うのが阿呆だ!額ならノーカンだぁ!)

「……ぇえい!どうにでもなれええ!」

私は王子の額にある宝珠に口づけした。


――――静寂――――


「……ん?あれ?」

『……何故だ?』

何も起きない。キスの魔法で目覚めるのはおとぎ話の中だけなのか。

(――あと舐める――)

「ぶほッ」ふいに夜鳩の台詞を想い返してしまった。

(舐めて確かめる)夜鳩は預言者か?もう考えてる暇なんかない!

(くっ……もおおお!ままよ……!)

ぺろっ。絶体絶命の窮地で宝珠を舐める女子高生。

「……どうよ!」

その瞬間。

ぱぁ、と宝珠が爆裂する様に輝いた。ドクンと脈打つ波動。

「あ――ぁあぁぁ……!」

強風が押し寄せたかのように、何かが意識に飛び込んだ。

――繋がった――そう感じた。

ごうう、と未知の感覚が押し寄せる。

意識の中に大空を駆け巡る見知らぬ鳥の羽ばたきを視る。

雲海をぬけるイメージが。鮮明なる絶景を駆け抜け、広がってゆく。

(……なに、これ……!?)

雲海の先には見知らぬ都市の群れ。

美術博物館の詰め合わせのような異国の城たちが絢爛豪奢。

ロボ君と似たような巨大騎士ロボが無数に立ち並び、

その最端にフィエーニクスと呼ばれた機界騎士によく似た姿があり、

鳥たちがそれらを追い越しそのまま大海原をめざす。

そして海原の中心に島へと。その中央に誰かの後ろ姿。女性……?

女性は、ものすごく長く美しい銀の髪をして。絵を描いている。

――手を伸ばせば、それは届きそうな横顔はどこか……。


「――は!」現実に引き戻される。

虹の様な、緑色の輝きが私と王子を取り巻く。

触手も溶解もすでに無く、むしろ失ったものを取り戻す感覚。

巨人が私たちを優しく包んだまま、

ごぎゃ、と重い音と共に獣を殴りとばしていた。気が付けば

王子はあたしを抱っこしたまま巨人の胸部の亀裂へ

向かってくのが判った。


「凄いぞ、なんだこのファウの奔流。とてつもない相性の良さ!」

王子の腕に込める力が増す。いや、やめたって!

それヒロインの扱い!わ、ちょ、流石にちょっと照れる。

「お姫様抱っこやめてええ!って、飛ぶの!?」

器用に割れた胸部へ飛び映る王子と抱かれたままのあたし。


閃光と共に――いつの間にかあたし達は謎の空間に踊り出ていた。

(あ、さっき視えたの……夕暮れ――マジにロボットの中?)

ロボットの中――らしき場所は、夕日と海原があった。

雲海の群れはどこまでも果てに延び、朱に染まっている。

足元はたしかに水面なのにガラスでも張ってあるかの様に沈まない。

(……足元……水面?……沈まない?何、これ……)

そこにあたしと王子が居る。沈むこともなく、永遠の黄昏の情景。

幻惑的かつ、幻想の……ただただの絶景だった。

ふと気づけば白い光球が目の前に浮かんでいる。


「ロボットの……中、なんだね?」

「そうだ。お前と命鎖リンクし、《天威の守り人》と成った」

「守り人?……ロボット兵器とかじゃないの?」

「城塞の一部でもあり、有事の際に分離し無法者を断罪する、

王国の守衛かつ、機界騎士アゥエスフィエーニクス」

「工事現場の守衛さんがバトルする感じ?」

「……お前な!もっとロマンチックに生きろ!」

夕日の世界。眼前に白球が浮いているだけ。

確かに情景は浪漫だけど、状況はロマンでもなかった。


「……これだけは言っとく。正直あんたを簡単には許せない」

「…………そうだな」王子の表情が固まる。

「でも、今はアレをどうにかしたいから手を貸す。教えて。

あたしは明日も生きて日常に還る」

「……そうだ。我をぶん殴るために生きよ。運命共同体だ」

あたしは頷く。駄々ってばかりはいられない。


「その<機界球>に手をかざし念じよ。動くイメージを」

「ん……イメージ……あの獣をしつける?」

「それでも良い。そしてもう一人の自分に成る、感覚で」

Gヴァンダムのイメージフィードバックシステムみたいなもんか。

「イメージせよ。普段、身体を動かしてる感覚を拡張するんだ。

 手足の先にフィエーが宿ると思って起動するのだ!」

一瞬の躊躇。

暴力とか無縁の自分が戦闘という感覚に付いていかない。

「世界を感じとれ、世界を掴みとれ。お前の心がこの世界を誘う。

 家族や友人がいなくなる世界を望みたいか……?」

「……それは……凄く、イヤだ……」

浮かぶ家族、そして友人たちとの日常が滅びる妄想。

「嫌だな……殺すとか壊すとかよりも、奪われるのはもっとヤだ」

王子はにっと口元をほころばせた様にも思えた。


「よし!フィエーニクス操舵!舞え不死鳥、天を揺り動かせ!」


力が解放される。天威の守り人は静かに起ち上がった……!

(24/05/26) 修正

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