表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/139

第十節「ソラと迫る足音と」

「……あーあ。結局、気になってるよ……お人好し……」

白い巨人も被害者といえば被害者だ。

そんな彼?と付き合って機械の化け物と闘わされるハメに

なるっていうのだ。

これから――しばらくは。


「ロボ君、キミも巻き込まれだね。あたしは無関係な市民なのに」

無関係でも敵はくる。

「……あたしにとって家族は命だ。兄妹が目の前で喰われたりしたら……そんなのあたしだって……」

王子のあの泣き言が耳に残り、あたしを改造したことより

引っかかって残り続けた。本当にお人好しである。

「ロボ君……フィエー君っていうんだね?

キミもあんな機械のお化けたちと闘わされてさぞメンドーでしょ」

答えなんて求めてない。

ただ、問答無用の”知らない他所の都合”が現実を破壊するなんて

自分の身に起こる……予想だにしなかったんだ。


「でも、あいつも巻き込まれだ。現状、家族にも国にも頼れない」

そこまで言うと、はと、状況に言葉が止まった。

「……………………」


(助けて。助ける。あたしが出来ること。あたしにしか出来ない事)


夜風に吹かれて少し寒いはるる野の夜空は、未だに残る桜の花びらで

しばし幻想的でもあった。


あたしは”安い正義感があるやつ”という自覚はあった。


事なかれ主義という言い方が正しいのかもしれない。


(自分の少しの犠牲で、他が上手く廻るのなら、それでいいじゃない)


友人に、損してるよアンタのそういう処とか、その生き方楽しい?とか

いろいろ言わた。

そう、だと思う。

けど現実っていつも微調整だと思う。

誰かが誰かの都合とぴったり合わないから、一人一人が少しづつ

都合を合せていって世の中は廻るものだと思ってる。

だから、

少々の自分の犠牲が、一生を左右するものでもないからいいじゃん、

って思ってしまう性質なのだ。


「……でも闘うって事は、あたしにも死の危険がある訳じゃん」


これも正論だと思う。

多少の犠牲ではなく、死が迫る犠牲の「選択」――だからこそ、

感情で同情の余地があっても、理性でそこまで自身を割いて貢献したい

とは流石に思えないんだ。

――あたしだってわが身は可愛い。

この直近に迫る「選択」を――真剣に考える必要があった。


ごろりと寝そべった。真横には白い巨人。

あたしはおもむろに、その頭頂部の先端まで登って腰かけた。


「……明日からキミに乗って、がっきーんと闘う?

漫画やアニメの様に、主人公補正で最後まで生き残れるなんて

そんな保障なんてない現実だよ」

巨人は答えない。

「でもキミ……あたしが乗らないと、キミも終わり?」

「現状あたしなら出来る……”運命に選ばれた主人公”……」


『逃げては駄目だ』と連呼すれば決心がつくものなのか。

(弱い……弱い自分。明日の学校のことだけ考えてればいい小娘に)

十七年しか生きてない自分に生死を分ける選択。


……現実味が、なかった。



その時だった――

ひょい、と。

誰かが私のジャージの背中をつまんで持ち上げた。

視点が高くなる。これは、人に高い高いされたレベルじゃない。

まるで、ジェットコースターに身を任せたような浮遊感。

「……はい?」

ジャージの背中がめくれてすーすーする。

「……誰よ!セクハ……ラ……っ!?」

振り返るとセクハラ犯が眼前に居た。


獣だ。

今朝の狛犬みたいな獣――機械種だといったアレだ。

「え!?」

獣があたしを歯でつまみあげ……そのままパクっと、くわえこんだ!

「やあああああああ!!」

バキ!メキ!獣の歯が……牙が身体に食い込む……痛みが。

「……痛ぁ!や……あの……ロボ……獣ッ!?」

間近で観るロボット獣、メカメカしい狛犬っぽい形相だった。

硬質なたてがみがウネウネと動く。無機質なのか生物的なのか。

どういう理窟なのか。本当に、生体なんとかボディを取り込んだ故か。

歯から、唾液の様な液体が染み出てくる……これって……!?


『喰う』……今さっき聴いた絶望の言葉。


「うそうそうそうそ!!?喰う?融合?なんでロボじゃなくて

あたしのほうを喰うのぉ!」

噛まれる痛み、解かす唾液。唾液の成分が何かなんて不明で。


……心臓の早鐘があたしの終わりをカウントしていた。

「ぁぐ……あいつの言葉……いきなり本当……なる……やだ……」

明滅する視界。獣のキバが脇腹をえぐる……。

パキとかバキとか噛み砕く咀嚼音が間近に聞こえる絶望。

「あぐっ……つぅ……あたしみたいな”端役”……こんな最期……か」

ギギ……歯が脇腹に食い込み、オイルの様な唾液にまみれるあたし。


しかし中々飲み込もうともしない……あたしなんかが美味いの?

あたしが分解されて……何の役に立つの?

「あっぐぅ……痛、あぁ……くぅ、あ、あたしは……」

こんな最低最悪な状況下なのに、何故か脳裏に浮かんだのは

〈泣きたい〉

……王子が見せた一瞬の本音だった。なんで、こんな時に……。

あたしの世界は家族と友人で出来ている……それが奪われたら世界は終わる。


「何でだろうな……あいつを泣かせない為には……。

 あたしが……この子に乗って……あいつを泣かさ……ないで……、

 ”選ばれた主人公”にでもなれば……よかった、っての……?」



『――そうだ!』



間隙の、鶴の一声。

『女よ!この地、このときよりお前が〈選ばれた主人公〉に成ればよい!』

「……え!??」

声が響く。わたしの脳内に木霊す声。

腕が伸びた。

白い。

白く壮麗なる巨大な巨大な腕。

握りしめたその拳が風を斬り、あたしの間近を過ぎ、

獣犬のしたり顔にブチ込まれた!

パンチを喰らった獣犬がもんどりうつ。

「わ、うあああ!ちょ、待って待って!わぁあ」

怯んだ口元からあたしは放り出されて……白い巨大な手が伸びて来た。

「――……って、ええ!?」

白い両手の平はあたしを優しく包み……獣犬には蹴りを叩き込む。


ほんの数刻の出来事で、わたしは現実に引き戻された。

煙る粉塵の中、私大にその姿が目視にかなってゆく。

それは今朝観て、目があったあの素顔。


「……キミ……なの……?」

……視界に映る。あの〈白い巨人〉が立ち誇ったのだった。


(24/05/26) 加筆修正

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ