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それは蒼穹より量産型少女とガラクタ王子とロボットと  作者: 秋天
第三話 「花びらたちの願い」
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第十一章 「朋輝と刹那の一刀と」


「ぐ。ぐぐ、ぐ……これは、キツい……です、ね」

腹にツノを貫かれ、そのまま飛翔する――さしもの機械種も加速諸々で動けない。

モズの機界騎士はこのまま朽ちるまで上昇するのか、高高度で叩き落すのか。

(……どの道、わたしを滅する事には変わりはない――ならば)

シュライクは朋輝の意思で狂おしい程の輝きを放っていた――だが、色が鈍い。

機界騎士のファウ、虹緑色の輝きが澱んだ濃緑色になっていた。

「こいつを……こいつだけは……!」もう朋輝の瞳に輝きが無い。

シュライクと混じって自分と言う感覚が蕩けている――空へ消える様な感覚。

「……俺は――おれは……」意識が拡散する――このままでは。

「イイですね――そのまま溶けましょう。私も溶けましょう」

狼のいびつなささやきが、朋輝の意識にネメりこむ――



「――――――――――――――――――――――――――――」

「―――――――――――――――――――――」

「――――――――――――――」

「……………………っ?」


気がつけば、周囲に海が広がる世界に朋輝はいた。

気がづけば、朋輝は小島の上に立っていた。

空が暗い。星もない。海が朱い。――……それは【無】を想像させた。

「……何だ――ここは」

こういう夢を前にも観てた気がする――あの時は、誰かが絵を描いてた気がする。

「……俺は何かをやりかけていたハズ……」そうも思うが座したまま動かない。

見れば、剣道の道着の様なものをまとっていた。

「なんだ――切腹するみたいな白装束だな」

目の前には竹刀が置いてあった。「竹刀?――短刀じゃないのか」

自決したいほど何かを思い詰めていたのだろうか。「俺って難しいヤツだもんな」

自覚はある――融通が利かない奴。誰かによく怒られていた。

「誰か――そう、大切な奴だった」記憶が溶けている、朧げにしか浮かばない。

「白装束で、死ぬる理由でもあったっけ」

『――死ねばよろしいのでは――?』


誰かが来た――。

「……何だお前……」

見れば、人型――上半身裸なのだが所々が獣の体毛で覆われている男が現れた。

いつの間にか小島へ一直線に土壌の道が出来ていて、悠々と歩いてくる。

――眼光がいびつだ。観れば満身創痍。肌のあちこちに機械が

あふれてみすぼらしい。髪は乱れ、野良犬のようだ。

「はい――物理で抵抗が厳しいのでナフスの画房アトリエへお邪魔して

 処す事にしました、わたくし狼です」

「……敵」

「そうです敵対者。初心者すぎてこんなショボい画房しか持てないお子様を

 私が喰らって移譲して差し上げましょうという優しい勧誘ですね」

「口上が長くてウザい……確かに敵だな」

「はは!貴方のそういう返し方、好きですよ!相方には酷ですが、喰らって

 上には結果で黙らせるとしましょう」

そう言うと狼は両手の爪をサバイバルナイフほどの長さと鋭敏さに尖らせた。

間髪入れず飛びかかる――いや、姿が消えた。

「!?」――なんだ、動きの残像もないとは。

いつかもこんな体験をした事がある――あの時はどうしたっけ。

バッシィン!目の前の竹刀をもって前転する。やはり、この座した地を狙って

後方から爪の来襲が躍りこんでいた。

「お?――避けれますか」狼は嬉しくも驚いてみせる。するとまた消える。

「ウザい」

(……よくわからねぇが、あの狼男。退治しねーと終わらなさそうだ)

朋輝は意識を集中させる――剣道の師は剣道修練の前後に瞑想をさせたりもして

いた――(朋輝よ、気のムラが多すぎ)――無意識のうちに瞑想的な――

静謐な心に落ち着き、研ぎすます。

何か――ここの空間にきて感覚が鋭敏になっている気がする。

「ふん――あんな小娘一匹で理性を失ったクセに……」何かさえずっている。

小娘……小娘、なにか引っかかる……「イひ」よく笑う女の子――、

「そうだ……俺は、そいつを……」

――そう、その一言から意識が浮上しだした。

「そう――雉子……その名。俺は雉子という子をこいつに殺された」

ドシュッ!

下腹部を左横から貫かれた――「――ッ!」だが、返す刀で竹刀を振るう。

「ぬあ!?」狼の左腕が宙にとんだ。そして下から振り上げる。「おぐッ」

浅い――だが狼の腹をえぐった。跳躍して後方へ下がる狼。

「見えてない――のに……竹刀で斬れるとは」

心眼とか気配とか――そういう観念や意識の概念は

狼には判らないだろう。だからこそ朋輝は絶対に負けない確信を得た。


「俺が、刀を振るう理由は――」

――それは琉左を失って空虚だった小六の冬。

河原でぼうっと空を眺めていた時――うっかり川に落ちてしまったのだ。

朋輝は泳げない訳ではない……だけれども気力の失せた状態で流れるままに

していたのだ。そこで小さな女の子が老人を呼んで助けられることになる。

老人は雲間早雲くもまそううん、孫娘と散歩していた途中だという。

道場が近かったので雲間家で介抱され、説教され――事情を訊かれた。


「坊主、うちで剣道やれ」

暫く訊いて雲間老人が放った言葉はシンプルだった。

孫娘が止めるのも構わず竹刀を渡され、いきなり修練になった。

メタメタになぶられクタクタになるまで負け試合を続けさせられた。

疲弊して這いつくばる朋輝に老人は言った――、


『こんな剣道なんぞやらんでも生きてはいけるぜ……だがな、

 こいつを振るう事は自信になる。ふさわしい誇りになる――なんせ、』


『「自信と闘い続けることが、オレ自身の人生そのものだからだ!!!」』


またも死角からの凶刃に朋輝は瞳を閉じたまま一閃してのけた。

「は……ぇ?……な、なんで」

竹刀――では無かった。その手に握られていたのは真剣――日本刀であった。

朋輝は見事に、頭頂部から足元まで袈裟斬りに斬り抜いてみせていた。

護るための剣もある――奪うための剣もある。

「――俺の剣は俺の生き方を否定しないための刃……お前ごとき無機物に

 たやすく折れる由縁なぞない……!――散れッ!!」

「……は、はは――心が……意固地に強かった……のですな」

ボロボロと崩れる狼。

「私は――ケンカ、を売ってはいけない相手に……」人型から狼に戻ってゆく。

「――完敗です……私は以後、貴方に永遠の忠誠を誓うと約束し――」

言い終える前に、ボフっとはじけて破砕してゆく狼。


「約束しねーよ……お前は消えるんだ」

破片は風もないのに流れて舞って、星になった。

闇夜だった空に星が瞬き始める。端から朝焼けの様に赤らみ始めた。

「……はぁ、やっと終わった……終われたんだ――」

涙もない――ただ剣が正しく自身のモノとなって役目を果たせたので満ち足りた。


「――稚子。終わったよ……すぐそっち行くから――よろしくな」


朋輝は小島に寝転んで――いつまでも夜の空を見上げていた――……



突然。

無数の何かが切り裂いたかの様に、シュライクのツノの先の狼が大きな破片と

なってバラバラに破砕した――アイレにはそうみえた。

――かと思えばそのままシュライクは下降し始めたではないか。

「わわ――朋輝、あいつやっつけて……あれ?落ちていくよよ」

執拗な加速で崩落したのか判別は出来なかったが――決着はついたと感じた。

「……でもどうしよう。あのままじゃ地面に落ちて死んじゃう」

王家の機界騎士であっても、落下の衝撃は物理的に破壊につながる。

こんな身じゃ――あの質量を受け止める事は出来ない。

こんな身じゃ――あそこまで飛ぶことは叶わない。


【――王家の娘よ。ボクが助力するぞ、ちょっと協力させい】

「ふえ!誰?」

アイレの脳裏に高周波の様にキーンと声が聞こえた。

【あー説明がめんどい。えーと、天威の神さまだと思ってちょんまげ】

「すっごく怪しいから拒否っていいよよ?」

【確かに!悪魔ってよく神さま名乗るもんね……じゃない、カエルム関係の

 幽霊だと思いたまえ桃と銀が混じった第七子アイレ】

「わ。設定に詳しい悪魔」

【えーい悪魔でも天使でもいい!……ほんとはな、ボクみたいな

 後書き存在がしゃしゃり出ちゃ駄目なんだけど、朋輝を炊きつけちゃったの

 ボクなんでね――恥を忍んで助力するぞい】

「諸悪の根源さんマジ本当なら怒るけど時間ないから後にするね。で、

 天使さん何を協力してくれるの」

【そうぢゃ、後でいくらでも怒られてやるでの、時間ない。

 我が力を加勢するから機界騎士の元へ辿り着け】

「――朋輝を……救える?」

【わからん――事象は流動的。結局はその時代を生くる民たちの尽力次第ぢゃ】

アイレは首肯する――こくりと、自身の魂に刻むように。

「朋輝はね、ちょっと特別な力を持ってるけど、やっぱり中身も普通の地上民の

 男の子なの――アイレのために頑張りすぎて……だから、もういいよって

 言ってあげたい」

【……そだね。あやつは頑張りすぎて身を亡ぼすタイプぢゃ。顔が弟そっくしでね

 意固地な性格もだ――家に帰してやんないと。……じゃ、いいんだね?】

アイレは頷く――「稚子に逢わせてやって、お疲れって言いたい」

【うむ、そうしておあげ……――では――】

「行くよよ!」


銀糸が鳥の翼の様にまとまる――そこに虹の波動が絡まり、

雄々しくはばたき舞い始めた――朋輝を救う、そのためだけに……

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