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それは蒼穹より量産型少女とガラクタ王子とロボットと  作者: 秋天
第三話 「花びらたちの願い」
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第十章「朋輝と機界騎士と狼と」


ダァァン!

オオカミは返り討ちにあい、投げ出され転げる。

「ぐぁは……ッ、く、あり得ない……!あり得ないことです……ッ」

シュライクは猛進する。実際、わずかに浮遊しながら移動している。

「……消えろよ……ゴミ」

両手にはおおらかなる翼。後方に伸びる尾羽。全身が鳥類を模して尚も美しい。

アゥエスの顔は基本、瞳が見えない。口元だけ見えていて、だからこそ朋輝が

どういう表情なのかが尚更わからない。

薄桃と銀が混ざる王家の機界騎士――シュライクの姿であった。


「私は確認したんです。あの廃屋に寝そべる胴体。中には確かにガァッ……」

勢いのまま腹を蹴り上げられる。

「ぐぁ……王家の機界騎士アゥエスが……【ナフスの画房アトリエ】なしに、起動なぞ」

(狼がブツブツ独り言を言ってるがどうでもいい……こいつを、このゴミを

ブチ殺さないと……俺は終われない)

(稚子が居るのが当たり前になって……どうしてこうなる事を……)

自虐は未熟さからの呪い。

こいつを殺しても雉子は帰っては来ない……だが、こいつだけは殲滅して塵に

還す……それだけは――俺しか、俺だけがやらないといけない。


さっきから、銀の人影が何度もおぼろげに見えている――

【痴れ者!ボクがさせたかったのはそうじゃない】

そう言ってるようにも聞こえる。

「どうでもいい!!!俺はこれで終いだ!こいつをぶち殺して終わらせる」

アイレ、すまない。

お前の機体、俺自身がこんなにしちまった――せめてお前だけは空へ帰したい。

「てめぇだけは!てめぇだけはぜってぇゴミクズに変えて終わらせる!!!」


狼は跳び退く。体勢を整え臨戦態勢に戻る。

「……ふふ、ふははは」嗤う。「ははは!あははははははは!」何が可笑しい。

狼の口の端がにやりと笑ったように見えた。

「はは、私は大きな捉え違いをしてましたよ……」「…………」

「貴方が私との戦闘で見せたあの部位変化、汚染された王妃のリンクのせいで

起きた現象かと思ってました」

「だが、根底が間違っていたのですよ……余りにもあり得ない結論」

まるで指を指すようににらみを利かせる狼。


「貴方です!貴方が自分自身で【ナフスの画房】を生み出したんですよ!!

 ――だから、それが浸食して人の身体を変えていって、

 最後の一手でアゥエス自身になって完成しちまいましたァ!!」


「……はは!!自分で何を言っているのか解らない!わたし困惑!」

くらくらと頭を振るう。がくがくと戦慄わなないている。

あり得ない、あり得ないんですよ、と反芻する狼。

「だってそんな事が出来るのは、〈原初の銀の子女〉のみ――ブァガ!?」


問答無用に蹴りが叩き込まれた。

「なげぇよ……訳判らねぇ中二病話をベラベラと……」

シュライクの両翼が拡がる。脚部が変形し、まさに鳥といったスタイルになる。

「どうもこいつには必殺技みてぇのがあるらしい……力を感じる。

 だからさ……最後は華々しく粉微塵に舞え――ゴミ」

全身が虹緑色に輝く。

それは後にソラとリヒトを執拗に猛追した狂気の妙、

皇舞インペリアルラスター『ウェルテクス・トゥルボー』、

――猛突の剣が発動した。



「やっぱり。そういう事ぢゃったか」

アイレは、捨て置かれたシュライク腕の登頂に何とか辿り着いた。

そこで観たもの、予想していたもの、全てが符合した。

「朋輝……あの狼はわざとヒント与えてたのに、早合点しちゃって」

アイレはシュライクと命鎖リンクしている、違和感を感じることも出来る。

だからこそ、あの狼が悪戯に稚子を殺めるのにも違和感を感じていた。

「……あの狼はこうまでして本気にさせたかった……んだ」

浮揚のために発していた銀糸をまとめ、腕の内部へ侵入させる。探る。

反応を感じていた……あぁ、やはりだ。アイレは頷く――見つけた。

「よっと……間に合えばいいけど――待ってて!」

アイレはようやく回収する――望みの綱を。



「皇舞ですか――初戦でそんなモノを使えるとは流石ぉ……うがッ」

オオカミは不自然なつかえ方をする。アゴがわなついている。

言封鎖ワードシールされてましたっけ……、いいでしょう、こうなれば」

狼が青白く輝き始める。

「皇舞とはいきませんが、我が士舞ロイヤルラスターで貴方の【ナフスの画房】を

喰らって初心者殺しと参りましょう……」

中級――仕官クラスの機界騎士を狼は過去に何度も喰らっていた。解析できた

部分で寄り集め――必殺技たる【ロイヤルラスター】を完成させていた。

狼の周囲に、小さめの青白いオーラに包まれた狼が複数現れる。

「この子たちは私ほどではありませんが意思も機動性も特性もあります。

 ……貴方相手には禁止されてましたが使用させて頂きますよ――さぁ!」


シュライクの皇舞が発動――上空へ舞い上がり、突進の加速を開始する。

「……当たらなければただの羽虫。翻弄してみせましょう」

狼本体も加速を開始、子機たる僚機たちも群れとなって疾走しだす。

シュライクも暫く旋回すると低空飛行による皇舞をもって狼へ突進する。

狼も旋回・後退しつつ様子見をするが、シュライクは構わず追随する。

「……闘いは練度!貴方は素人!そして私はぁぁ!!」

シュライクの突進が届く寸前。上部から複数の子機が襲い来る。

狼本体周囲、隠れていたのが飛び出すかの様に四方から襲来する。

全機をもって取り押さえる形だ。

「そう歴戦の勇士!初手でシャットアウトなり!!」


ドズゥァン!!――不慣れなシュライクはまんまと子機に飛びかかられ

地面へ臥す――実際は”アトモスフィールの大地”によって僅かに浮いては

いるのだが。皇舞の勢いがついて滑るようにつんのめった。

「は、はは!何と脆弱!……よっわ!」

簡単に捕縛されてしまった王族の機界騎士に笑いが止まらない。

何が皇舞だ。過去の機界騎士より何と無知・無学で貧弱すぎる。


ガァン!!倒れ伏したシュライクを踏んづけ高笑いのレアン。

「ははははは!脆い!雑魚い!初心者ルーキー奏者が威勢だけ……よ?」

見れば、子機たちが居ない……。「あ?……我が子たちは」

いや、すでに溶けてシュライクの体表に沈む最期をみつけてしまった。

「我が子たちを……瞬時に――喰った……のですか」

リヒト王子が”恥を忍んで”搭載させたと言っていた吸収の力でもあった。


シュゴゥァ!臥せていたシュライクから手が伸びて狼の喉元を捉えた。

「うげぇぁ!?」「……隙を見せれば慢心して近寄ると思ったよゴミ」

バッキィアアア!喉元の部位を握り潰し、そのまま地面へ叩きつける。

「ぐげぇあが!」人間的な痛みを感じられると喜んでいた狼は

その痛みというイメージで苦悶することになる。

「あが!うぎ!ぐが!?」叩く。弄る。殴って踏みつけ、踏み抜き、

タテガミの様なパーツをむしりとる。「ぎぃああああ!?ぬモ!?」

そのままオオカミの口元へねじりこんだ。

「グモ、グゴガガガ!!」「うるせぇよ、電車の時から口が減らねえ」

そして二、三度頭部を掴んでガンガン地面に叩きつけると、

脚で大きく真上に蹴り上げた。

「ウゴァ!ガァァ」ボロ布の様になった狼へ向けて、

そのまま至近距離で矢羽を全弾射出。ガガガガガ!!と

マシンガンよりも派手で巨大な弾丸が狼を蹂躙する。


「あ……がぁ……ぐげ……」「よし。黙ってきたな……じゃぁ消えろ」

ドッグァアア!!「うげぇああ、まさか!?まさかぁぁあああ!?」」

軽く舞い上がった処で皇舞を再開させ、どてっ腹にシュライク頭部の

ツノで突き刺したまま大空へ舞い上がっていったのだった。



「朋輝!……あぁ、間に合わなかった」アイレはやっと近場まで来たが

すでに狼を突き刺したまま舞い上がるシュライクという名の鳥のシルエット

を見送るしかなかった。

「……雉子ちゃん……朋輝がこのまま帰ってこない気がするよ」

アイレは見下ろすと、腕の中には少女が眠っていた。


雉子であった。


頭部は潰れていない。

首の骨など折れてはいない。そもそも、発見したのはシュライク腕の内部、

中央の空間であった。怪我は無い。紳士に扱っていたのだろう。

「あの粘土みたいので作るの得意って言ってたの、ヒントだったんだよね」

機械腫瘍で雉子の偽物を作って殺してみせる。声は録音の再生だろう。

「しかも偽物だと見抜かれても溺死や窒息死を画策しておったのぢゃ」

見抜かれても土台の沈降で水に沈む。タイムリミットを作っていたのは事実だ。


「あれはアイレの知ってるシュライクじゃないよ。怒りの塊り。

 あのまま怒り続けたら止まらなくなる――何とかしないと」


朋輝の――様々な限界が迫っていた――

挿絵より本編優先しました――そろそろクライマックスです

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