《プロローグ・量産系少女》
■2019年に投稿した初稿を、2023~24年に改稿したのを再投稿してみます。
もう少しだけでも、まともに読めるものにという努力が誰かに伝わりますように(血涙)
2024/05/23 冗長すぎたんでさらに推敲
『蒼穹、お前は……量産型なんかじゃない』
――目の前の<王子>が、あたしにそう告げる。
金髪の髪が揺れる。
端正な容貌は苦痛に揺れる。
異国の人だった。
彼は借り物の身体で、それでも人間でありたかった。
身体が――ところどころが人間のそれじゃないとしても。
東京の西――はるる野市にとても似つかわしくない幻想的な存在。
(……こんなデタラメな奴が、あの日、空から落ちてきて……)
それは三か月まえから始まった。
身体が機械だったり生身だったり、ふざけた身体だったキミ。
やむえぬ事情で、こんな身体になったんだと言い張ったキミ。
天空の王国に住む、羽根は生えてはいるけど――人間だったんだと。
(あたしは……いま、泣きたいのに……ロボットに乗れって……)
主人公になれって……そう言うのだ。
この時のあたし、さぞ酷い顔をしていたに違いない。
ほんと何だよソレって思う。
訳がわからない。
訳がわからないのに、現実だけは目の前に迫っていた。
いま、彼の背後には巨大なロボットが立っている。
振り返れば、夕日を背にもう一体のロボットが山あいに佇んでいた。
ロボット――という呼称はあたし達の言い方だったね。
彼ら天威の国カェルムが産んだ、機界騎士――〈アゥエス>。
――アゥエス……それが彼等の世界でのロボットの総称。
とある事情で彼はロボットを操縦できない。
あたしは選ばれて……いや、違う――強引に選ばされて、
操者――つまりパイロットになってしまっているのだ。
信じられる?
ロボット、王子、天空の国――〈非日常〉があたしを襲う。
そんな非日常《王子》は告白するんだ。
『あのアゥエスとは戦いたくはない――でも、
戦わなくては、ボロボロの自分ではもう未来はないから』
だから何故……あたしなの?
このままだと、
このトンチキでハチャメチャな非日常《日常》は、
敵の<アゥエス>に”喰われて”ぱくっと終わるらしい。
――ロボットに喰われる?
――あたしの日常が終わる?
王子は続ける。
『オレはこのままでは本当にガラクタだ……』
そう呻くその顔は、ガラクタボディなのに本物だった。
今なら判るんだ。
虚勢をはってた三か月。どこか陰があった三か月。
全部わかるからこそ、
このガラクタ王子を……あたしはまだ否定出来なかった。
(……バカだよね。泣けばよかったのにさ……カッコ悪いくせに)
――そうあざけたあたしの胸が、チクリと傷んだ。
”泣けば”……泣く……だって?
……その言葉にあたしがいま一番、傷ついてるじゃないか――
そうだ。
あたしはいつから泣いてなかったんだろう。
泣く……泣けば……いいのに。
……忘れていた何か。思い出せない何か。
『……でも、だからこそこのまま、
何物にもなれずに……朽ちてゆくのだけは……』
だから〈アゥエス〉に乗って一緒に闘って欲しい、
彼はそうあたしに願った。
あたしは彼の背後の〈アゥエス〉を見上げる。
〈フィエーニクス〉という名の白き機界騎士。
不死鳥――そういう意味の名の王子のロボットだ。
まばゆく白く輝くはずの、美しいお城の様なロボット。
ボロボロだった。
この三か月をともに闘ったその姿は、空から堕ちてきた時以上に。
君もそう想うの?――
瞳が見えないけれど、美しい女性の顔をしたフィエー君。
ねぇ、
あたしはさ、この、想い出の公園であんな事を、
あんな想いを思いださせられたんだよ――
あたしの中で止まっていた〈日常〉――
この王子のせいでいま、あたしは苦しいんだ……!
それなのにさ、それなのに。
天威の国の事情なんか知らない。
あたし汪鳥蒼穹、ただの民間人だ。
ただの量産型なのだ――
<量産型>――プラモ好きなあたしが好むこの言い方。
”どこにでもいる平凡なヤツと言う”意味で。
あたしはこの言い方がちょこざいに好きだった。
そんな量産型な奴はさ、機械種とかいう絶望なんて無縁で、
ただプラモ好きで、ただ雲を眺めているだけで幸せで、
この地方都市で一生を終えると思ってた十七歳の脇役だ。
でも、知ってしまった――迷ってしまっていた。
どうしてこんな事になったんだっけ――
あの日から始まったこの生活。
こいつとロボットと過ごした三か月。
いま思えばあたし、ぜんぜん脇役でもなかった。
だからこそ語りたい。知ってほしい。
――たぶん答えは知っていて。
――たぶん応えを識っていて。
あたしがこの王子になんて答えればいいのか。
その為に、あの春の日の朝から舞い戻りたい。
――これは”普通の脇役”が”普通の主人公”になるお話し――
――こうして、
――だからこその、
"普通じゃない"脇役、汪鳥蒼穹が巡る、
量産型少女とガラクタ王子の非日常《日常》が、始まったのだった――
■順次、再UP予定。君はついてこれるか!(お願いします