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道具使いアンジェリカ  作者: ろん
八章【小さな天使と氷の仙草】
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08-05 氷の神殿

 


 そこは冷たさだけが支配する世界だった。

 屋内だというのにどこからか雪が吹き込み、来訪者の命を刈り取るべく虎視眈々と狙う。

 生命の気配などは当然感じられず、だというのに何者かに監視されているかのような視線がアンジェリカ達に突き刺さっていた。


「そこ、滑りやすいから気を付ろ」

「ありがとう、クールさん」

 氷の神殿の探索は、斥候でありマリアンヌの護衛戦士でもあるドワーフのクールが先導して行われた。

「どうだ?神官さん。これは使えそうか?」

「ああ、私以外に治療が出来る者が居れば助かるよ」

 通路ではクールが罠の有無を調べ、後に続く者を呼び寄せる。

 小部屋では魔物が潜んでいないかを確認し、薬や壊れた道具、鋳造出来そうな金属片など使えそうな物があれば回収をしていた。


「クールさんが居れば、遺跡探索も安心ね」

「おう、頼りにしてくれて構わないぜ」

 アンジェリカは胸の前で両手を叩き、クールの手際の良さを称賛した。

 悪い気のしないクールは照れ臭さを隠すように、得意気に鼻を掻く。

「そうでなければ困りますわ。私の護衛戦士なのですから。……ぶるっ」

「やあ、マリアンヌ様。寒いようなら僕が温めてあげるよ」

「貴方の脳みそはいつでも茹ってそうね」

 それに対してつまらなそうにしているのはマリアンヌだ。

 クールの自慢気な態度に当然の事だと悪態を吐き、そっぽを向いている。

 騎士テイルの軽口をさらりと流しつつ、氷の神殿の探索は恙無く行われていた。


 神殿の探索は進む。この遺跡は神殿と呼ぶにはロザリオや聖水瓶等の品は少なく、

 代わりに剣や鎧、弓矢に火薬。消毒薬などの残骸が残されていた。

「気にならないか?アンジェリカさん」

「うん、ここにあるものって『そういうもの』ばかりよね」

 ここは武器庫なのだ。何らかの敵、例えば魔物や駆動兵器等に対抗する為の砦。

 かつて人々はここに籠り、人類の敵――たとえば魔王などと戦っていたのだろうか。

 アンジェリカは打ち捨てられた槍の一本を手に取る。反応は無い。

 道具は壊れても、それだけで魂は失われず修理されればそのまま残留する。

 道具が道具足る為には、人間が使ってやるだけでいい。

 それだけで道具は、アンジェリカが呼びかければ命ある者として振舞う事が出来る。

 ここにある道具達は、恐らく人間達を守る為に散ったのだろう。そして使い手たる人間もいつしか居なくなり、その役割を終えたのだ。


 小部屋に薪を置き、オルトロスのぬいぐるみの炎で暖を取る。

 風は強いが遮蔽物も多く、腰を落ち着けて休憩するには困らなかった。

 過酷な環境の中、監視されているような視線もあり落ち着かなかったが、一行はそこでだけ食事を摂る事が出来たし、取り留めのない会話を楽しむ事も出来た。

 そんな中、アンジェリカは天使の元に召された道具達の為に祈っていた。

 付近にあった道具の残骸を掻き集め、埋めたり、燃える物は燃やして供養してやる。

 道具のアンデッド化は、リビングアーマーやチェストトラップゴーストなど数は少ないが前例があり、神官のブルームや騎士のテイル、普段はそりの合わないマリアンヌもこの時ばかりは協力的であった。


「これでよし、と」

「お疲れ様ですわ、アンジェリカ」

 打ち捨てられた道具達の供養を終え、再び足を進めるアンジェリカ達。

 中庭と思しき開けた場所まで歩を進めると、そこにはいくつもの氷で作られた鎧が不気味に鎮座していた。

「俺が先行しよう。そこから動くなよ」

「はぁい。おとなしくしてましょ、ぬいぐるみ達」

 クールが先行し、アンジェリカ達は後方に待機する。

 アンジェリカの言葉に道具達は、各々の態度で応じていた。

「……おっちゃんの見立てによれば、あの氷像は罠の可能性が高いという事だろう、けど」

 奥を覗き見るテイル。静かに佇む氷の鎧は、一見して何の変哲もない調度品だった。

「クールさんのお陰で、ゆっくりだけど安全に進めるわね」

「ああ。彼の斥候としての勘と探索に於ける観察力はなかなかの物だ」

 アンジェリカとブルームはぬいぐるみと遊んでやりながら、クールを口々に褒めていた。

 改めて周囲を見渡す。先程は気づかなかったシャンデリアや割れたツボなどが目に入る。

 元々は王侯貴族が暮らしていた城なのだろうか。それがいつしか、かつてこの神殿で暮らしていた人々の最後の砦となったのか。


 顔を再び上げた時、テイルは来た側の通路に、一体の氷像が佇んでいる事に気が付いた。

 氷で出来たそれは氷の鎧を身に纏い、巨人族の男性のような体躯を持つ。

 腕は丸太のように太く、それ自体が凶器のようだ。

 テイルはその存在に違和感を覚えた。先程までそこには何も無かった筈なのだ。

 訝しげに目を細めて、つぶさに氷像を観察するテイル。すると傍に居たアンジェリカが声を上げた。

「あっ、どこ行くの?ねえ、ミケランジェロ!!」

 三毛猫のぬいぐるみミケランジェロが、アンジェリカの手から飛び出す。

 ミケランジェロは四本の脚で駆け出した先は、テイルがいぶかしんだ氷像であった。

 自身の手から離れたぬいぐるみを追いかけ、走るアンジェリカ。そんな彼女をブルームも追う。

「こら、暴れん坊め。おとなしくしていなさい」

 ミケランジェロに追いついたアンジェリカは、ぬいぐるみを抱き上げて異変に気付く。

「どうしたんだ?アンジェリカさん」

「分からない。分からないけれど」

 アンジェリカはぬいぐるみの身体が小刻みに震えている事に気が付いた。

 目の前のそれはアンジェリカの視線に気が付くと、おもむろに、ゆっくりと腕を振り上げる。


「アンジェリカさん、離れろ!そいつは魔物だ!!」

「え? きゃあっ!!」

 後方から掛かる声と同時に、氷像の腕が振り下ろされる。

 とっさに右に飛びのくアンジェリカ。彼女の避けた場所にはぱっくりと亀裂が走っていた。

 続けざまに、横なぎに腕を振るう氷像。傍に居たブルームがアンジェリカを抱き、地面に伏せる。

 アンジェリカの後ろの柱が寸断され、音を立てて崩れ落ちる。

「アンジェリカ!……フェンリル、行きなさい!!」

 マリアンヌの掛け声で氷狼のぬいぐるみフェンリルと同時が氷像の腕を尻尾で弾いた。

 よろける氷像に、騎士テイルの立て続けに盾を構えたまま強烈な体当たりが決まる。

 氷像はぐらり、と体勢を崩すがすぐに持ち直し、反撃をすべく再び腕を振り上げた。

「テイルさん、危ないっ!」

 地面を割り、柱を一撃でたたき折る氷像の腕。しかしその腕をテイルは盾で悠々と受け止めた。


「軽い、軽い。僕を倒したかったら、もっと大きくて太い腕じゃないと」

 腕を受け止められた氷像は、なおもテイルを力任せに押し潰そうとする。

 だが、地面に向けられているはずの力は、テイルの腕力の前に上へ上へと押し戻されていた。

 目の前の光景にアンジェリカが驚嘆の声を上げる。

「あ、あんなに重い腕を……!?」

「いけるかい?あまり無理はするんじゃないぞ」

 ブルームが腕を組み、テイルに言葉を投げ掛けるとテイルは腕を固定したまま彼女にウインクした。

 じりじりと上がるテイルの腕が止まり、両者の力が拮抗する。

 何秒、何分、そう大した時間は経たずして雌雄は決した。

 氷像を睨み、口の端を吊り上げるテイル。

「心配しないでよ、ブルーム。僕は剣よりも盾の方が……得意だからねっ!」

 一瞬の出来事であった。

 テイルが盾を滑らせるように傾けると、氷像の腕が地面へと吸い込まれ叩き付けられた。

 解放された力が全て氷の床に激突し、氷像の腕は耐え切れずにキラキラとした氷の欠片を撒き散らしながら砕け散る。

 支えを失い前のめりになる氷像。その隙を見てテイルは盾を順手に持ち替え、横なぎに大きく振り被った。

「でやあああああっ!!」

 一打、二打、三打。もう一つおまけにもう一打。一方的な盾の乱打。

 氷像がもう片方の手を付き立ち上がろうとすれば、すかさずその腕を砕く。

 兜の隙間から冷気を吹き付けようとすれば、攻撃を加えていた盾を構え吹雪をシャットアウトする。

 二つの武器を封じられた氷像は、最後の盾の一撃によって完全に沈黙した。

 優れた騎士にとって、盾とは武器と防具の両方の性質を合わせた最強の武具であった。



「よーし、楽勝っ!……おおっと」

 氷像を打ち倒し得意になるテイルだが、ぐらりと身体をよろめかせ膝をつく。

「テイルさん!」

 膝をついたテイルにアンジェリカはすぐさま駆け寄り、彼の様子に驚愕した。

 傷を受けていないにも関わらず、顔を青ざめさせ呼吸は荒い。

 額からは大量の脂汗を流し、額に手を当てればまるで焼けた鉄のように熱かった。

「大丈夫?……すごく、顔色が悪いわ。それに熱もある」

「平気、平気。少し休んだらすぐによくなるよ」

 そう言って笑うテイルだが、アンジェリカの目にはとてもそうは見えなかった。

「だから、無理はするなと言ったのに……君はあまり身体が強くないんだぞ」

 続いて駆け寄ったブルームはテイルを座らせ、一つの小瓶を取り出す。

 小瓶にはいつかアンジェリカの見た赤い液体が入っており、テイルの顎を手に取りを飲ませてやった。

 ごくりと赤い液体を飲み下すテイル。するとみるみるうちに土気色だった顔色が戻っていく。

「かっこいい騎士様はか弱い女の子を守らないとね。どう?惚れ直した?」

「ええ、かっこよかったわテイルさん」

 少し顔を伏せたかと思えば、テイルはすっかりといつもの調子であった。

 そんな彼に困惑し戸惑いながらも、アンジェリカはテイルの活躍を称賛した。

 アンジェリカの言葉を受け、テイルは照れ臭そうにはにかむ。

「照れるなあ。ところで、そんな素敵な騎士様はご褒美が欲しいんだよね」

 自らの頬をつんつんと突いて『ご褒美』を求めるテイル。

「そ、それはちょっと恥ずかしいなあ」

「ご褒美欲しいなあ。ご褒美?」

 アンジェリカはその意味を察し、やはり恥ずかしそうに目を泳がせる。


「……貴方、大教会の騎士としての自覚はあるんですの?」

 たまらず声を上げたのはマリアンヌだ。

 男の子だから女の子の口づけが欲しい。それは少女であるマリアンヌにも理解できなくはない。

「騎士だって男の子だもん。マリアンヌ様でもいいからご褒美下さいな」

「不埒ですわ」

 にやにやと笑いながらマリアンヌをからかうテイル。

 そんな彼の姿は、アンジェリカの目には少し子供っぽく見えた。

「しょうがないな……ほら」

 見かねたブルームが、テイルの額にそっと口づけした。

「おっ?」「まあ!」

 一瞬、何が起こったのか理解出来ないテイル。

 自身の身に起こったことに気づくとみるみるうちに顔を紅潮させた。

「えっ、ブルーム?」

「プレイボーイを演じるのは構わないが、程々にしたまえ」

 アンジェリカやマリアンヌをからかっているつもりが、遠目で見ていたブルームからの不意打ちにただどぎまぎするだけのテイル。

 そんな彼にブルームはふっと笑うが、すぐに表情を固くしてテイルの額をぺちりと叩く。

 たまらないのは蚊帳の外に置かれたアンジェリカとマリアンヌだ。

「ま、マリアンヌちゃん、も、もしかしてブルームさんって……あわわわ……」

「私に聞かれても、わ、分かる訳が無いでしょう……」

「ふふっ、ご想像にお任せするよ」

 そう言って笑うブルームは、アンジェリカやマリアンヌとは違う『大人の女性』のような雰囲気だ。


「おいおい、若い連中だけで楽しそうじゃあないか」

 偵察に行ったクールが戻ってくる。クールは一行を見渡し、にやりと口角を上げている。

「大した事はないさ。それより、偵察お疲れ様、クール殿」

「おう。こっちの安全は確認した。そろそろ行くぞ」

「ああ、そうしよう」

 クールが言うが早いか、ブルームは神殿の奥へと足を向けていた。

「おい、テイル。早く行くぜ」

「えっ?あ、ああ、うん、なんでもないよクールのおっちゃん」

「それならいいんだがな。ちゃんと付いて来いよ、プレイボーイ?」

 顔を上気させたまま座り込むテイルに、声を掛けるクール。

 テイルは慌てて取り繕うが、それが却ってクールの中の意地悪な心を発露させた。

「って、見てたんじゃないか、おっちゃん!」

 背を向け去っていくクールを追いかけ、テイルも立ち上がり彼を追っていった。


 先を歩くブルームと、彼女を追うテイル。

 二人のやり取りはアンジェリカにとってとても甘酸っぱくて、いじらしかった。

 テイルはブルームに好意を持っているように見えたし、ブルームの方もどうやらまんざらでもないようだ。

 軟派だが女の子に優しいテイルと、少し堅物だが真面目で面倒見のいいブルーム。

 互いの長所と欠点を補い合う二人は、とてもいいカップルに見えた。

 普通の人々の、普通の幸せ。

 自分が道具使いになったのは、そんな彼らを助ける為に天使様が力を授けてくれたからかもしれない。

「人間」以外と話せる自分を受け入れた彼らを。テイルとブルームのような人々を。

 ……旅を始めたのは、親の仇である風嵐の魔王サーニャに一矢報いる為であった。

 それを忘れた事は無かったし、未だ目を覚まさないミツバを治療する事も最優先事項だ。

 けれど、それ以外に目的を作るとしたら。自分を愛してくれる誰かの為に使いたいと思った。

 吹き付ける吹雪は冷たくとも、心の中は温かい。

 それはきっと、テイルとブルームが自分の心を温めてくれたから。

 背中の翼はまだ小さいけれど、いつか二人を包み込めるような大きな翼になりたい。

 そんなことを、アンジェリカはふんわりと思うようになった。


「おおい、アンさん。急がないと置いていくよ」

「はぁーい。マリアンヌちゃんも早く行きましょう」

 先に行ったテイル達に呼び掛けられ、アンジェリカもまた足を進める。

 だがマリアンヌは無言のまま、崩れ落ちた氷像の魔物の前に屈み手を当てて何かを呟いていた。

「少しだけ、待ちなさい」

「どうしたの?」

 アンジェリカの問い掛けに、マリアンヌは答えない。

 代わりに、ブルームが傷ついた者を治療する癒しの呪文によく似たそれを魔物に向けて詠唱する。

 魔物の姿は盾で何度も殴打され、両腕が砕けた状態だ。

 人間なら痛みにのたうち回っていることだろう。道具でも修理してやらねば満足に動く事も出来ないはずだ。

「状態は……あちこち損傷してるけど、使えそうね。連れて行きますわ」

「え?」

 マリアンヌの言葉を量りかね、その意味を考えるアンジェリカ。

 しかしマリアンヌは思考する時間を与えてはくれなかった。

 彼女の手の平から黄色の光が溢れ出し、魔物の身体を治療していった。

 否。それは治療というよりは、魔法による修理と言った方が近いだろう。


 気が付けば、傷つき壊れたはずの魔物の身体は綺麗に修復されていた。

 だが、修復されたのは身体だけ。からっぽの器だけだ。

 突っ伏したまま動かない氷像。マリアンヌは立ち上がり、アンジェリカに背を向けたまま目を閉じる。

「道具使いとは、無機の魂に語り掛け使役する存在」

「けれど魔物に魂は存在しない。存在しないのなら与えてやればいい」

 虚空に手を伸ばし、指先で小さな円を描くとその輪郭が虹色に輝く。

 その輪郭を両手で優しく包み、放してやるとそれは不定形の玉となった。

「貴方に魂と名前を与えるわ。アイスゴーレム……私に、従いなさい」

 マリアンヌが魂と呼んだ、小さなシャボン玉のような虹色の玉。

 玉はふわふわと形を変えながら、アイスゴーレムと名付けられた氷像に近づき、触れた瞬間。

 アイスゴーレムの身体から赤、白、黄色、青、緑、様々な色の光が噴出する。

 氷の神殿の内部に、二人のいるごく狭い区画にだけ凄まじい熱気と風を呼び起こした。

 それは新たな生命の誕生の証。生物の生産する命の力がその一瞬だけ、周囲に熱風を巻き起こしたのだ。

 アンジェリカは遠のきそうな意識を繋ぎ留めながら、目の前で起こる現象を決して見逃すまいと目を見開いていた。


「こ、これは……」

 アンジェリカの目の前には、彼女にとって信じがたい事が起こっていた。

 先程まで命無き物だった存在が――ただ項垂れるばかりだった氷の骸が、アンジェリカの目の前に立ちお辞儀をしている。

 それがまるで、生物のように。アンジェリカが従える道具達のように振舞っていたのだ。

 マリアンヌはアンジェリカの目の前で、無から魂を作り出した。

 驚愕に瞳を白黒させるアンジェリカを一瞥し、マリアンヌは言葉を紡いだ。

「道具使いが魂と共に生きるのならば、魂を生み出し従えるのが天使ですわ」

「貴方に、できまして?」

 氷像を従えながら、マリアンヌは皆のところへと戻っていく。


「あれって、まるでミツバの……」

 ぬいぐるみと同じ。そう言いそうになり、口をつぐむアンジェリカ。

 ミツバはマリアンヌと同じように魂を作ったのだろうか。

 当たり前のように道具達を従えていたアンジェリカだが、これまで彼女はそのルーツを深く探ろうとはしていなかった。

 アンジェリカもミツバも共に道具使いだが、その力の使い方は大きく異なっていたのだ。

 ミツバが村の掟でぬいぐるみ作りを禁じられた事。

 禁を解かれてからも、作ったぬいぐるみを渡す際、迷うようなしぐさを見せていた事。

 そのどちらもアンジェリカは詳細を知らされなかったが、問うてもミツバは寂し気に微笑むだけだった。

「私は、ミツバのことを……知ろうとしなかったのかもしれない」

 ぬいぐるみ達は、不思議そうに主人を見上げる。

 アンジェリカはぬいぐるみを抱きかかえ、去っていくマリアンヌの背中を見つめていたが、

 やがてはっとしたようにかぶりを振ると、少女の背中を追いかけていった。

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