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道具使いアンジェリカ  作者: ろん
四章【道具使いと小さな漁村】
39/64

04-09 結婚式

 



 漁師の村の冒険者の酒場は、今日も冒険者より村の若者達で賑わっていた。

「私達に依頼?」

 翌朝、三人娘とホックはそんな酒場へと召喚される。

 ホックの傍らにはエリーとヤマメの義姉妹が寄り添うように付き従っている。

「ええ、アンジェリカさんとスフィアさん、ホック君への教会直々のご指名ですよ」

 緑髪の巨人族の男性……酒場の店主ラングは、書類を整理しながら淡々と答える。

 アンジェリカは彼と何度も顔をあわせているはずだが、なんだか初対面のような気もしていた。

「私達、何か指名されるような事をやったかな?」

「皆さんは既にいくつもの成果を出していますし、注目されるようになってもおかしくはありませんね」

 疑問を口に出すアンジェリカ。ラングは一枚の紙を取り出して彼女へと渡す。


 八人の勇者の一人として、死霊使いデードスを撃破したこと。

 突発的に起こったアース村村長の息子トキオ誘拐事件に於けるヤタック教団を撃退したこと。

 勇者スフィアと協力して、風嵐の魔王サーニャと双頭の傀儡夫婦を撃退したこと。

 戦士ホックに寄り添い、駆動兵器アシッドレイクの撃破とヤタック教団のリーダー、アウグスを捕縛したこと。

 そこには彼女達が今までに挙げていた成果が書き連ねられていた。

「アンジェリカ様。貴方は以前よりもずっと、強くなっておいでですわ」

 ミツバが頷く。

 これまでにアンジェリカは多くの道具を作り、多くの敵を撃破した。

 そこをアンジェラ教会に評価されたのだという。


「で、今回は何をすればいいのさ?」

「皆さんには砂漠の国、西風の街ホープへと渡って貰いたいんです」

 一行へ書類が配られる。この付近の地図と、大陸が描かれたものだ。

 西風の街ホープは、死霊使いデードスと、その妻……今は山岳の国グランディアの前王妃であるガイアナの生まれ故郷だ。

 今現在居る緑の大陸から遥か西、砂漠の大陸の中央に位置している商人の街である。

「アンジェラ教やビクトリア教とはまた違った宗教観が存在するらしいね」

「へえ、そうなんだ。楽しみだね、ホックさん」

 スフィアが補足すると、アンジェリカはまだ見ぬ冒険に心底楽しみな様子でホックの顔を覗き込む。


 が、ホックの反応はアンジェリカが期待とは別の物であった。

「あ?俺?行かねえよ」

「ええ?そ、そんなぁ……」

 ばっさりと切り捨てられるアンジェリカ。落胆してよよよとすすり泣き、膝から崩れ落ちる。

「エリーさんとの式も近いし、新婚生活を楽しむんだぜええ」

 そう、ホックは新婚さんである。

 そのフルフェイスの下には大層だらしない表情を浮かべている事は容易に予想できた。

「ええっ、教会からの依頼を無視しちゃうの?」

「無視はしねえよ。ちゃんと代わりの人間は用意するさ。いけるだろ?」

「そうですね。でも、ホック君の代わりになる人物がいるのかい?」

 ホックは店主を見やる。ラングは書類を整理しながら淡々と答えた。


「おう、誰かいねえか!?駆動兵器と殴り合うだけの簡単なお仕事だ!!」

 それ程のことが出来ねばホックの代わりは勤まらないだろう。彼の声にしんと静まり返る酒場。

 身体が丈夫で力の強い巨人族といえど、巨大な駆動兵器と命のやり取りを行うのは憚れるようだ。

「いねえのか?ちっ、腰抜けどもめ」

「いるよ、ここに」

 舌打ちするホック。するとホックのすぐ傍から女性の声が上がった。

 ホックはすぐさまその女性の腕を掴む。

「へっへっへ、名乗り出たからには逃がさねえぜ……って」

「エリーさん、エリーさんが代わりに行くの?」

 ホックとアンジェリカはその腕の持ち主に驚きの声を上げた。

 彼のすぐ傍に付き従っていたドワーフのシスター・エリーがホックの代わりに行くと言うのだ。

 スフィア、ミツバ、ヤマメの三人も目を丸くしている。

「お、おいおい、冗談はよしてくれ。あんたが行ったら俺との生活はどうなる?」


「駆動兵器と真正面から殴り合うなんて、ホックさんにしかできないよ」

 明らかにうろたえるホックとは対照的に、エリーの言葉は努めて冷静だ。

「そんなホックさんの代わりなんて滅多にいないし、教会がそういう人材を求めているなら……私は教会のシスターとして、応えて欲しいと思う」


 シスターとしてのエリーの言うことは尤もだ。

 しかしホックと睦まじく新婚生活を営みたいというのも本音だろう。

「そ、そうだ。ヤマメは?ヤマメはお兄ちゃんと一緒に居たいだろ?」

 彼は頼みの綱である妹ヤマメにすがり付く。ヤマメはしばらく考え込むように唸り。

「ホックお兄ちゃんが居なくなるのは、すごく寂しい……けど」

「お姉ちゃんが……エリーお姉ちゃんが一緒に居てくれるから、頑張れるよ」

 にっこりと笑顔を見せる。ここ数日の間にすっかり仲良くなったのか、エリーとヤマメは手まで繋いでいる。

 あまりのショックにホックは頭を大きく揺らし、

「あっ、倒れた」

 力なく膝をつき、その場に倒れこんだ。


「家の事は、私達二人で守ってあげるから安心してよ。それより……私が居ない間、浮気なんてしたら許さないからね?」

 冗談めかして言うエリー。ホックはその言葉にぴくりと反応する。

「けっけっけ、俺様はこう見えてもモテるんだぜえ」

 わざと意地悪そうに笑いながら立ち上がるホック。

「スフィアはああ見えて俺様にホの字だし、ミツバは慎ましやかに俺様を慕ってる」

「アンなんてもうとっくにメロメロさ。……だがな」

 ホックはビッとエリーを指差す。彼好みの決めのポーズだ。

「俺が愛してるのはエリーさん、あんただけだ。浮気なんて絶対しねえよ」

「それを聞いて安心したけどさ。ところで、後ろの淑女達がお怒りみたいだよ?」

 エリーは照れくさそうに頭をかき苦笑しながら、ホックに後ろを向くように促す。

「あん?……あだっ!?」

 促される前に振り向くホックの腹に、スフィアの魔法力を込めた拳が入った。

 酒場に重厚な金属音が響く。


「だ・れ・が、ホの字だって?」

 拳を握ったスフィアから青いオーラが立ち上る。

「わ、私が慕っているのはアンジェリカだけですわ!」

 ぷんぷんと擬音が聞こえそうな表情で、ミツバがむくれている。

「私はホックさん好きよ?メロメロっていうのがよくわかんないけど」

 ただ一人よく分かっていない顔で、アンジェリカはホックに笑顔を向ける。

 三者三様の反応であった。


「あはは、その様子じゃ心配は要らないみたいね」

 お腹を押さえてくらくらしているホックを横目に笑うエリー。

「みんな、夫の事をよろしくお願いします」

 そしてエリーは、三人娘へと頭を下げた。愛する夫を委ねる為に。

「もちろん!」「しょうがないなあ」「仰せのままに」

 それに対して三人は思い思いの返答を返す。

 三人娘のパーティに、ホックという心強い仲間が加わった瞬間であった。



 更に翌日、ホックとエリーの結婚式が開かれた。

 砂漠の大陸に向かう前日という事で準備はとても慌ただしく、満足な衣装や豪華な教会もここにはない。

 それでも三人娘や村の人々は、新たな夫婦の誕生を祝福すべく精一杯の言葉や美味しい料理を振舞った。

「ホックさん、エリーさん、おめでとうー!」

「お綺麗ですわ、エリー様!」

 娘達の祝福の言葉が新郎新婦に向けられる。

「すまんな、エリーさん。もっと時間があれば街へ行って大きな教会で出来たんだが……」

「ううん、新参者なのに受け入れて貰って嬉しいわ」

 ドワーフ用のドレスが無い為、義母のお古を借りて式を挙げるエリーに、ホックはフルフェイス越しに申し訳無さそうに謝る。

「気にしてないよ」

 エリーはそんなホックに柔らかな微笑を向けた。

「コール・タールの子供達にもウエディング姿を見て貰いたかったけど、それは帰ってきてから……ね」

「お、おう……」

 いたずらっぽくウィンクする彼女がただ美しくて、ホックは恥ずかしそうに頬をかいた。


「よーし、今から人形劇しまーす!」

 宴もたけなわ。ほんのりとお酒が入り熱気の高まる披露宴で、アンジェリカの人形劇が始まる。


「むかしむかし、あるところにとても元気な女の子がいました……」

 その内容はヤマメを模した小さなドワーフのぬいぐるみ、ミニスの七つの海を渡る大冒険だ。

 ミニスは遥か海の向こうにキラリと光る何かを見つけ、それを宝物だと確信し、イルカのジャックに乗って海を走る。

 ドワーフの少女のぬいぐるみがイルカのぬいぐるみに乗ってひょっこりと舞台に現れると、子供達は嬉しそうに笑っていた。

「鳥と語らい、潮風に身を委ね、太陽と友になり、海に浮かぶ月に恋をする」

「どこまでも続いていくこの海で、ミニスはまだ見ぬ本当のお宝に想いを馳せます」

 アンジェリカの語りは続く。子供達はミニスの冒険譚に目を輝かせ、大人達は我が子の様子に目を細める。


 ミニスは様々な人々に出会った。

 海で暮らす人魚族のマリヌスの音痴な歌に苛まれたり、森で暮らすフェアリーのサラと美味しい果実を探しに行ったり。

 山で岩になる修行をしていた巨人族のオルガの真似をしてお腹をすかせたり、ドワーフの少年トッポリコに求愛され、素敵なネックレスを貰ったりした。

 ぬいぐるみ達の寸劇は、ひとつひとつが大きな仕草で観客の目を楽しませる。

「ミニスは困ってしまいました。何故なら彼女は人魚族の男性の方が好みだからです」

 子供達の間から笑い声が上がる。掴みは上々だ。


「そしてミニスは宝島の主である大蛇と対峙しました。でもミニスは恐れる事など知りません」

「何故なら、今までの冒険の思い出が彼女の力となっているからです」

 剣を持ったミニスのぬいぐるみと大蛇のぬいぐるみが睨み合い、観客達は息を呑む。

 ミニスの冒険の行く末にそこにいる全ての観客が目を向けている。

 しばしの睨み合い。少女が果敢に声を上げ、その沈黙を破ると同時に少女が飛び上がり、大蛇の身体に飛び移る。

「大蛇の毒牙をかわし、ミニスの必殺剣が炸裂!大蛇は倒れ、その後ろからは金銀財宝がミニスの前に現れたのでした」

 どちゃり、と倒れる大蛇のぬいぐるみ。そして運ばれてくる金銀財宝。小さな観客達は声を上げて喜んだ。

「こうして、元気な女の子ミニスはたくさんの友達と宝物を手に入れる事が出来ました。おしまいっ」

 一礼をするアンジェリカとミツバに向かい、多くの拍手が送られたのだった。


「新郎のホックさんと新婦のエリー様には、今の人形劇で使ったぬいぐるみを差し上げますわ」

「おう、いいのか?」

 ぬいぐるみ達をプレゼントするアンジェリカ。その中に、こっそりとホックとエリーのぬいぐるみも忍ばせておく。

「ヤマメちゃんにもプレゼントよ。二人を結びつけてくれた恋のキューピッドにね」

「い、いいんですか?私、わがまま言ってばかりで……」

 突然声を掛けられヤマメは驚く。可愛いぬいぐるみを貰えるのは嬉しいが、

 二人の間を引き裂こうとしていた彼女は貰う資格は無いと思っていた。

「いいから受け取っておけって。貰えるもんは貰えっていつも言ってるだろ?」

 ホックはヤマメの頭をぽんと撫でる。フルフェイスの下はにやりと笑っているのだろう。


 ヤマメは受け取ったぬいぐるみの一つを手に取り、優しく抱きしめた。

「うん、ありがとう。……かわいいなあ。それに柔らかくて暖かい」

 ふわりと香るお日様の匂い。彼女を取り巻く優しい人々の匂い。

「本当にありがとう、アンジェリカお姉ちゃん。大事にするね」

 そんな人々に囲まれて、少女は育っていくのだろう。

 いつしか少女は大人となり、彼女に相応しい男性が現れて。

 トアミとミナトのような。ホックとエリーのような。仲睦まじき夫婦となるのだろう。

 アンジェリカはそれが今から楽しみであった。



 村に別れを告げ、北へしばらく歩いた先にある波止場へと向かう三人娘と巨人族の男。

 次に乗る船は今までの船よりも遥かに大きく、村の小さな港では受け入れる事ができないそうだ。

「そーいえば。ホックさんはどうして冒険者になったの?」

 道すがら、アンジェリカがふと浮かんだ疑問を投げかける。

「あんなに素敵な親御さんがいらっしゃいますものね。どうしてですか?」

 元の両親を失った時点でホックには冒険者になる資格はある。だが、敢えてそうなる理由が娘達には分からなかった。


「……分かるだろ?嫁探しだよ」

 しばらく逡巡し、その後ぽつりと呟くホック。

 アンジェリカ達はその言葉の意味をいまいち掴むことができず、頭に疑問符を浮かべる。

「今の親父達に拾われて、ずっと幸せだった。親父とお袋が本当に仲が良くてよ」

「羨ましくなっちまった。ドワーフの嫁さんが欲しくなっちまった」

 ホックは照れくさそうにぼりぼりと、フルフェイスの隙間から後頭部をかく。

「だから、家を飛び出したんだ。くっだらねえ理由だろ?」

 己の妻を捜し求める為に、幸せな家庭を築く為に生まれ育った村を離れ、冒険者となった。

 社会福祉を是とする教会関係者や幼くして親を失い冒険者とならざるを得なかった者等が聞けば激怒するだろうその理由は、ホックを動かし達成させるには十分なものであった。


「じゃあ、ホックさんの夢は叶っちゃったんだ」

 手を腰で組み、ホックを羨ましそうに見上げるアンジェリカ。

 だがホックは肩を竦めて「まだまだだ」と答える。

「まだ家庭を築き上げてねえよ。親父やお袋、ヤマメみたいな家族をよ」

「では、このお仕事を終わらせて無事に帰らなくてはいけませんわね」


「そうだね……あっ、船が来るよ」

 アンジェリカの指差した方角を見ると、大きな、大きな船が汽笛を上げて向かってくる。

 白と青を基調にしたカラーと、船の先端には美しい金色のロザリオが飾られて、初めて見る者にも教会関係の船である事が容易に想像が付いた。

「いやあ、さすがに大教会の本船だけあって大きいね」

「あそこにいるのは教会の騎士様でしょうか?あ、手を振ってますわ」

 船の縁には鎖を編んだチェインメイルを着込んだ騎士たちや、高価そうな法衣を着た神官達がこちらを歓迎するが如く手を振っている。

「教会からの依頼ねえ。一体何をやらされるんだか」

「サーニャも探して貰っているし、恩は返さないとね」


 ぼやくスフィアを横目に、船に乗り込んだアンジェリカは手を掲げ、太陽に手を透かす。

 この船に居る限り、救世の天使アンジェラの膝元に居るのと同じ。恐れるものは何も無いだろう。

「よーし、出発するよ!砂漠の大陸へ!」

 船は西の海へ向けて走り出す。飛沫を上げて、波をかきわけて。

 しばらく快晴が続いたはずの海は、しかし西へ向かうにつれ少しずつ暗雲が立ち込め始めていた。



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