美味しいチョコの作り方
チョコレートってどうして心の形をしてるのかしらね?
ねえ、ご存知かしら。
女の子って魔女になる日があるの。
ハロウィンとは反対にある春先に、あらゆる女の子がいそいそとお鍋を手にとって、秤とにらめっこしながら、お匙片手にお薬を調合をする、そんな特別な日。
その日作るのはどんなお薬か、ですって?
まあ、人によっていろいろだけれど、だいたいは恋のお薬って相場が決まっているわ。
もちろん、私もそのお薬を作る一人よ。ただ、私は少し変わっていてね。
他の娘は、とっておきの方法で作るらしいけれど、私はもっとシンプルに作っているわ。
多分、貴方でもきっと作れるはず。
特別に教えてあげても良いかもね。
心配しないで、とっても簡単だから。
用意するものは、チョコレートを板で一つだけ。お好きなもので結構よ。
お好みでミルクやクリームを入れても良いかもだけど、正直そんなのいらないわ。
このチョコレートをね、まずはバラバラにしてあげて。
全くの別物に生まれ変わらせてあげるんだから、気持ちよく砕いてあげてね。
次にバラバラにしたチョコレートのかけらを、丁寧に火照った肌と同じくらいの温度のお湯でそっとそっと湯煎して、それから優しく、ゆっくりとへらでかき回すの。
ゆらりゆらりと溶かしていけば、ほら。
もう、元の姿がわからないくらいどろどろになっちゃったでしょ。
そしたらね、温かいうちに型に入れちゃって。なんでも良いわ。
貴方好みにして頂戴。
・・・いえ、もうとっくにあの人好みになってるのかしらね?
元は同じなのに、こうも変わってしまうなんて不思議よね。
なんだか可笑しくて笑っちゃうわ。
あら、チョコレートのことだけど?
話が逸れたわね。さあ、最後の仕上げよ。
チョコレートという未完成の恋の中に憎悪を一滴忍ばせてちょうだい。
あなたなんかいなければよかった
あなたがいたから私は私でなくなった
悔しい、憎らしい
あなたなんかに負けるなんて
あなたさえ、あなたさえ、あなたさえ
それだけで抜群に美味しいチョコレートが作れるわ。
くれぐれも涙と間違えないようにね。
結局、このチョコレートも貴女も、私もおんなじよね。