第15話 扁鵲《へんじゃく》:春秋時代の神医
扁鵲は春秋末期の医者で、医学の祖とされた人物です。
どんな病でも治してしまうことから「医聖」と呼ばれました。
『史記』『韓非子』『淮南子』などさまざまな書物に彼の名が登場します。
扁鵲の思想の一つに、「六不治」というものがあります。
「どういう病が治らないか」をならべたものですが、
「お金をけちって健康を大切にしない」
「占い師を信じて医者を信じない(現代でいうと、誰が書いたかわからないネットの医療情報や民間療法を信じて、専門家である医者の話を聞かないみたいな感じでしょうか)」
など現代にも通じるものがあります。
ちなみに扁鵲の医術がどんなものかといえば、人の内臓が透けて見えるという仙術レベルのものです。
虢国の太子が亡くなったとのうわさがあったとき、扁鵲は診察へ向かいました。
太子は半日前に亡くなり、まだ納棺されていません。
扁鵲は症状を聞いたのち、「治してみせましょう」といいましたが、宮廷の医者たちは信用しません。
扁鵲はあきれて、
「そなたの医術は管をもって天をうかがうようなもの」
といいました。「管をもって天をうかがう」の言葉はここから来ています。「狭い見識で他のものを推し量る」という意味です。
扁鵲は太子がまだ生きている証拠をつきつけると、虢の君主から診察が許可されました。
扁鵲が鍼を打つと、なんと太子は息を吹き返したのです。
こうして死人をもよみがえらせる扁鵲の神医っぷりは一気にひろまっていきました。
このようなことから、現代の中国でも扁鵲は名医の代名詞とされています。