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もみじにのせて

作者: ゆぅ

「なんだ、これは!!」

自分の顔についたあかい何かに、つい僕は驚いて後ずさりをしてしまった。そんなぼくを、君は少し馬鹿にしたような可愛らしい笑顔で見つめてくる。

「それはね、紅葉っていうんだよ?」

笑いながらそう説明されたから、恥ずかしいやらなんやらで心臓がもたないかと思った。足元はとっくに、綺麗な赤に染まっている。そういえば紅葉などという綺麗な葉っぱは秋にしか現れないと聞いたことがある。そうかそうか、もう秋になったのか。もう、君のとなりにいはじめて1年の時が過ぎていたのか……。



昼食の時間にひさびさにテレビを見ると、紅葉狩りだのといって赤くなった葉っぱをみている人の画像が流れている。何故、みんなは葉っぱをみているのだろうか。なにかを食べているわけでもなく、ただただ赤くなった葉っぱをみて、それが散ってゆくのを綺麗だと思う。それのどこが楽しいのかが僕にはまだわからない。そういえば今朝、君は紅葉を見て

「やっぱり綺麗だなぁ。」

と独り言を呟いていた。年下であるはずの君がわかって、僕にはわからないのがかなり悔しい。なんだか負けたような気分だ。やはり、これの敗因は感性の違いが大きいのだろうか?それならば、僕は『花より団子』タイプだから、君よりもお菓子の良さだけは語れるのだろうな。いつか機会があれば、甘いのが苦手な君にお菓子の良さを教えてあげたい。そして、ちょっとだけ優越感に浸りたい。



秋は夜風が涼しい季節であると本当に感じる。ほんの少し前までは寝るために布団に入ることすら嫌になるほどだったのに……。そっと君のベッドに入る。君が気づいてそっと僕を抱きしめた。この時が1日の中で一番の楽しみだ。君の温もりが直接感じられる距離に居られるのだから。起きた時にはきっと離れてしまうんだから、今だけでもそばにいさせてほしいなんて、はずかしくて今、口にする事はまだまだできない。それでもいつかは伝えたい。遠く離れてしまう前に。



6年目の秋を迎えた今日、僕はふと気がついた。君の部屋がなくなっていることに。あの温かいベッド、ピンク色のじゅうたん、白い勉強机。何一つ残ってなかった。あるのは僕の布団だけ。いつかはこの時が来るってわかっていたはずなのに、いざ目の前にすると冷静でいられない僕がいる。

きっと、僕を嫌いになったからいなくなるとかじゃないはず。いや、そうだとしても、君は絶対にそんなこと言わないんだろうな。

僕は、ただただ行かないでと叫んだ。叫び続けた。でも、この叫びが届くことはない。そうと知っていても必死になって叫ぶ僕を君は頭を撫でながら止めた。

「また絶対に会いに来るから。少し遠くてもずっと好きだから。ね?みんなのこと、よろしく頼んだよ?」

僕の頭に紅葉がのる。

「紅葉には美しい変化って言う花言葉があるんだって。私もきっとかっこよく変化してここに帰ってくるからね。」

キラキラとした瞳が僕をじっと見つめる。ああ、そんなの反則だろ。僕も頑張らなくてはいけないという気持ちになってしまうじゃないか。

もう、あの時みたいに後ずさりはできない。僕は君を応援すると決めんだ。だから君も負けるなよ!

ワンっ!ワンワンっ!!!

精一杯の大声で僕は君にエールを送る。

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― 新着の感想 ―
[一言] 帰ってきて癒やされるその日まで長生きして欲しいな。
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