第6話
人は太陽をつかめられない。
なぜならばとても暑いからだ。実際につかもうとすると、人間なんて唐揚げみたくこんがり焼けてしまうだろう。
「じゃあ早苗は? 早苗に触れただけであたしは、唐揚げになるのだろうか」
早苗の笑顔は太陽で、それに触れようとすると心が焼けていく。
そういう考えを凛子は、国語の教科書を見ながらしていた。
授業が頭に入ってこなくて、早苗ばかり考えてしまう。
こんなのが二週間も続いている。
「揚げ物になったあたしは美味しいのかな……いやいやそうじゃなくて、早苗を考えないと」
今は四時限目。食べ物を恋しく思う時間帯。授業後はお昼休みだ。
でも今は、食べ物よりも早苗が恋しい。
「早苗が好き。それだけしか思い浮かばない」
横目でちらりと、早苗を見る。
隣の席で黒板とにらめっこしている早苗は、とても真剣な顔つきをしていた。
あんな風に見つめられたら、それは幸せなことだ。
「まじめな早苗もかわいい」
胸がドキドキして、もう授業に手をつけられない。
早苗を想っていると、規則正しいチャイムが鳴った。
授業が終わって一番に、早苗が凛子に声をかける。
「凛ちゃん。お昼ご飯になったから、わたし学食に行ってくるね」
「わかった。いってらっしゃい」
「うん。あとこれ、凛ちゃんにあげるね」
早苗が懐からチョコレートを取りだして、チョコを凛子に渡した。
受け取るなり凛子は、好きで胸が暖かくなった。
まるでお風呂でのぼせたかのようだ。頭がぼーっとする。
「あ、ありがと」
そう凛子は伝えるだけで精一杯。それ以外の言葉は、あやふやな思考では言えなかった。
「いえいえどーも!」
早苗は微笑んだ。そして教室から出て行った。
凛子はそれを見送った。
そこに痛烈な距離を感じる。
いつもなら一緒にお昼ご飯なのに、今じゃ一人ぽつんとチョコレートを食べている。
むなしい。けれどチョコは美味しい。
できることなら、この甘さを早苗と一緒に味わいたかった。




