学園二期始まりと私の気持ち
二期の始業式の時、アルベルト殿下が私を迎えに来た。
夏期休暇の最後の一週間全く殿下と会ってなかった。
九月一日、学園の二期が始まる日に、私を迎えにこられた殿下は、先ずはお父様にごあいさつをして、それから私が立っている所へと来られた。
一週間振りの殿下は、何故か元気が無さそうに見えた。
取り敢えず、殿下の手に私の手を載せ、お礼を言った。
そうすると手がぎゅっと握られて、アルベルト殿下が私に微笑まれて「行こうか」とエスコートしてくれて馬車へと乗った。
乗ったのだけど・・・何故か殿下が私の手を離されない。
それに殿下が元気が無いのも気になる。
車窓から外を眺められる殿下に、私は意を決して話し掛けた。
「アルベルト殿下、あの何かございましたか?お元気が無いように見えますが・・・」
殿下がゆっくりと私の方に向き直り、ちょっと情けない表情をされています。
もしかして、最後に会った日私が倒れた事を気にしてらっしゃるのかなっと思い再度お礼を言うことにした。
「アルベルト殿下、あの日ご迷惑をお掛けして申し訳ありません、そう言えば御手紙だけでお礼に伺えず、申し訳ありません」
「いや、ロゼが元気になってくれたなら俺はいい、しかし・・・」
一旦言葉を切ったアルベルト殿下は、握ったままの私の手を持ち上げ手の甲にキスをして、何やら憂いた眼で私を見る。
そして、じっと私を見て言われた。
「一週間ロゼと会わないのは、寂しいものだな、十歳からこんなに長い間離れたのは初めてだからな」
な、な、何ですと?!えっーとちょっと待って、私の感性がおかしいのかな?これって私に好意を持っている?
いやいや、そんな、十歳から・・・確かにずっと一緒に居ましたね。
よーく考えよう勘違いは良くないし・・・。
十歳からは居るのは幼なじみといえるよね、という事は・・・。
!!!そうか!兄弟みたいな感じで、家族の様に思って下さっていたのか!!
うん、そうだよね、前の頬にチューも親愛からくるものだったんだ!!私ったら勘違いして恥ずかしい!
ここで顔を赤くしてはいけない、勘違いしてた事がばれる!
私はにっこり微笑んだ。
「そうですね、殿下と私は幼なじみ、まるで兄弟の様に居ましたものね、私も寂しかったですよ」
そう明るく言った私に殿下の頭ががっくりと、私の手を握ったまま垂れた。
えっ?何?私間違えた?
私には聞こえない程の小声で殿下は何か言ってらっしゃる。
そして、暫くして頭を上げられて、ちょっとぎこちなく微笑まれて言った。
「そうか、ロゼも寂しいと思ってくれたなら、少しは進歩したのだろう」
進歩?何のだろうと思い私は首を傾げたのだけど、それから殿下と、互いに一週間の話をしてそうするうちに学園に着いた。
今日から二期が始まる。
*****
二期が始まり、隔週で休みの日は、殿下と王城へ行くことになり、それ以外の空いた日に、漸くシールお兄様達とお茶会をすることが出来た。
今日がその日である。
お茶会の場所は、アルベルト殿下が用意してくれました。
入学式の時の場所である。
殿下と二人で東屋で待っていると、従者からシールお兄様達が来られたとの事で連絡先が来たので、立ってお出迎えする。
「アルベルト殿下、ロゼお招き頂きありがとう」
「アルベルト殿下、ロゼアンヌ様、お招きありがとうございます」
「シール兄上、エヴァ嬢、今日は来て頂きありがとうございます」
「シールお兄様、エヴァお姉様、ようこそ来て下さいました、ささ、お座り下さい」
お二人を席へとご案内する。
皆で席についてお茶会が始まった。
四人で差し障りなくお話をして、そして、私とエヴァお姉様が前を歩き、アルベルト殿下とシールお兄様が私達の後ろを歩いて庭園を散策する。
久しぶりにエヴァお姉様とお話出来て楽しい。
ふとアルベルト殿下達を見ると、何やら難しい表情をした殿下、シールお兄様はいつもの穏やかな表情なのになんでだろ?と思ったが、せっかく久しぶりに四人で過ごすので、後で殿下に聞こうと思い、時間まで楽しむことにした。
そして楽しい時間は終わり、お二人をお見送りして別れた。
「アルベルト殿下、シールお兄様と何か難しいお話をされていたのですか?」
「いや、雑談だ」
「そうですか」
うーむ、まあ男同士のお話なんだろうと、それ以上深く聞くことはやめました。
*****
二期の学園生活は、大分クラスのみんなとも仲良く話せる様になりました。
お昼はアルベルト殿下とご一緒しますが、その他の休憩時間はご令嬢達とお話をします。
時々廊下から、鋭い視線を感じて、ふと見てみるとシャーロット様がキッと私を見ています。
本当に私を睨む時間があったら、ご自分磨きを頑張れば宜しいのにと思う。
まあ、直接私に言って来ることはないので、ほっておきます。
学園の日常はこんな感じて過ごしてます。
*****
そして、隔週のお休みの日はアルベルト殿下と王城へ行きます。
戦闘訓練をアルベルト殿下とやるのですが、アルベルト殿下が主に前衛私は後衛です。
アルベルト殿下は剣術と魔法。
私は補助魔法と体術の護身術をメインにしてます。
先ずは先にアルベルト殿下に、能力向上魔法と物理・魔法防御を掛けます、私はその後に掛けます。
そして、殿下が対処出来ない敵の牽制とフォロー、私に向かってくる者達の攻撃を避けながら、体術で遠くへ吹き飛ばしていく。
実戦さながらで結構疲れる。
始めは五分耐えたら、次十分みたいに五分毎増えていく。
今は二十分の手合わせで、攻撃を捌ききればノルマ達成です。
そんな甘い考えをした私に天罰なのか、騎士団の精鋭が殿下を飛び越え私に一太刀向けて来ました。
そして、両サイドからもやって来ます。
取り敢えず正面は物理魔法防壁で防ぎ、その隙に両サイドは足元を回し蹴り倒します。
そして、正面の物理魔法防壁を解除して横っ腹に蹴りを入れてぶっ飛んで頂きました。
いえ、私がバカ力では無いですよ、蹴りを入れる時に、その時だけ魔法で足を部分強化します。
そして両サイドの二人が体制を建て直しまた向かって来ます。
片方に影縫いの魔法で拘束、その間に反対側の木刀の攻撃を避けて、脇が空いた所で回し蹴りでぶっ飛んでもらい。
反対は影縫いのまま蹴り飛ばすタイミングで魔法を解除でぶっ飛んでいきました。
そうして終わりのベルが鳴った。
やっと終わった~、私はぺたりと地面に座り込んだ。
最後は危なかった。
あれは駄目だ、タイムリミットで救われたけど、実戦では魔力温存しとかないと。
座り込む私に、アルベルト殿下も疲れた様に歩いて来られた。
「ロゼ、すまない、あの一人は俺が抑えなければならなかったのに」
「いえ、あの場合は仕方ないと思いますよ、それより、アルベルト殿下お疲れ様でした」
座ったままで申し訳ないけど、互いに今持ってる力で精一杯ガンバったのだし、後から、騎士団団長からダメ出しはあるのだから、今は互いを労おう。
ふうっと息を吐かれた殿下が私の隣に座った。
「ロゼを休憩室まで運んでやりたいが、俺も腕か持ち上がらん、すまんな」
「いえいえいえ?!運んで頂かなくても大丈夫です!」
また、あの恥ずかしい姫抱っこはダメ。
それに、そんなとこ見られたら、騎士団団長にまだ元気ですねと言われて、続けて模擬戦をやらされそう。
「そんなに否定しなくてもいいじゃないか」
「いえ、そんなとこ見られたら、追加の模擬戦させられますよ」
「確かに」
しかし、こんなに王族だからって戦闘訓練する?
まあ、守ってもらってばかりじゃ駄目なのはわかるけど、あきらかにキャパオーバーじゃない?っと思う。
若干の疑問に思いながらも、私は私の為に力を付ける。
もしも、もしもだけど国外追放とかなったら自分の身は自分で守らないとだし、身に付けれる物は付けれた方がいい。
そうしていると騎士団団長がやって来て、今日の駄目だしをされたが、ここまで出来たら上々と誉められたのでまあ良いでしょう。
こんな感じで二期の日常は過ぎていきました。
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そして十一月は私とアルベルト殿下の誕生日です。
今回も私の家でこじんまりと誕生日会をします。
十一歳からずっとです。
そして今年で十五歳、アルベルト殿下とも五年目に突入です。
アルベルト殿下とは、良好なお友達関係を築けていると私は思うのだけど、もしもこの世界が乙女ゲームの世界だとしたら、急に殿下の心が変わるかもしれない、お互いに信頼を築けていると思いたいけど、強制力が働いて私の事を信じられなくなる可能性も考えておかないといけない、来年も殿下とご一緒出来るのかなぁと思うと、少し寂しくなる。
そして何時ものようにこじんまりの誕生日会の後は、王城での舞踏会だった。
舞踏会は慣れたもので、最初のダンスが終わると、二人でテラスで過ごし、たまにダンスそして貴族達へのご挨拶。
初めての時は、内心緊張して終わった時は、疲労困憊だったけど、殿下と二人なら頑張れた。
来年からは、この舞踏会に私は居ないのかなっと思うと少し寂しくなる。
来年が近づくにつれて、私は恐くなって来てる。
この世界はゲームとか小説の世界ではないと、思っていたいけど、殿下がだんだん小説やゲームの様にかっこよくなって行くにつれて、結局私はそう思ってしまう。
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そしてアルベルト殿下の誕生舞踏会が終わり、翌週から二期の試験があった。
そして順位発表は、一期と同じ順位でほっとした。
そして友達に帰宅準備の為と言って、その場を離れた。
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そしていつもの東屋へと来た私、二期が終わった。
湖をボーッと見て心を落ち着ける。
最近気分が落ちたままだ、ここがゲームの世界でも十分対策はしていると思ってる、なのに、この気持ちは何だろう。
ウダウダと悩みたくないし、気分も上々にしたいと思い頭を振って、居なれたクッションに倒れ込んで目を閉じた。
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二学年に上がり、庶民でありながら、男爵家に養女になり編入してきた令嬢が居た。
ああ、殿下とお似合いの金髪で青い瞳で可愛らしい顔、やっぱりそうなんだ、殿下も柔らかい眼で彼女を見ている、私は直ぐにでも婚約者の立場を返還しなければ、そう思うと頬が濡れてる感じがする。
何?と思って手で触ってみると頬が濡れてる。
そして、殿下を見るとその令嬢の手を取り去っていく風景に一旦眼を強く閉じて開けたら・・・。
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目の前に心配そうに私を見るアルベルト殿下、えっ?あれ?あの令嬢と何処かへ行かれたのでは?っと思っていたら、アルベルト殿下の手が私の頬を撫でる。
「ロゼ、怖い夢でも見たのか?」
そしてそっと頭を寄せられて、額と額をくっつけた。
あれは夢だったのかと思い、私は何か言わないとと思うけど、言葉を発せずに居ると殿下が話される。
「ロゼ、どんな夢を見た、俺に話せ、その憂いを俺が晴らしてやるから」
なんでそんな私に優しくされるのですか?私は繋ぎの婚約者のはず。
そんな言葉を殿下に言いたくない。
言いたくないと思う私は、まるで繋ぎでは嫌だとずっと殿下と居たいと思っているようだ。
そうか私は殿下の事を好きになってたんだ。
だから、来るかもしれない一緒に居ないという未来に凄く怯えていたんだ。
でも、今更殿下の婚約者を辞退しないという事は出来ないし、殿下が本当に好きな人と幸せになって欲しい。
殿下は、私の事は家族の様に思っている、その親愛まで無くす行動はしたくない、だから、私は何も無い様に微笑まなければ。
そして私はいつもの様に殿下に微笑んだ。
「大丈夫ですよ、アル様」
それが二期の最終日だった。