殿下と私 誕生日と社交界デビュー
アルベルト殿下と私は十一月に誕生日を迎える事になった。
私とアルベルト殿下は偶然同じ月の生まれだった。
お誘いしたら、嬉しそうにされていた。
なので、二人の誕生日のお祝いパーティーを今日、私の家でするのです。
こじんまりは、当然アルベルト殿下はこの国の皇太子になるのだから、王宮で盛大な舞踏会が行われるのですが。
それよりも先に私の家で、まあ私の家族と私の家に仕えてくれている人達だけですが。
でもわたしは家族だけのが好きだ。
アルベルト殿下は、こういうパーティーは初めてみたいで私に問いかけた。
「これだけか?」
「そうですよ、本当はアルベルト殿下のご両親にもご参加頂きたいのですが、無理ですので、私達の家族で我慢してください殿下」
「いや、それはいいのだが、こんなにこじんまりなパーティーは初めてだ」
確かにこじんまりですけど、ちょっとカチンと来たけど私のが大人だしっと、まあ殿下は悪気があって言ってるのでは無いのもわかってるし。
でも、ちょっと不機嫌に話してしまう。
「そうですね、殿下はいつも盛大な王宮での舞踏会で、王国中の貴族が集まりお祝いしてますものね」
「あれを俺の誕生日会とは思ってなかったが・・・」
そう言って苦笑する殿下に、そうですよね殿下の誕生日という名目の貴族達のご機嫌伺いみたいですものね、私はちょっと悪るかったなっと思い、にっこり笑い話し掛ける。
「では、殿下、今日は私達が主役ですので、あそこに座りますよ」
私はアルベルト殿下の手を引いて、テーブルの奥、所謂お誕生日席へと案内する。
私はストンと座りその隣の椅子を叩いてアルベルト殿下に座るように促すが、殿下は私のお父様をチラチラ気にしている。
普通は家の主が座る席に座る事を、気にされてるのだろう。
だから、強引に言った。
「アルベルト殿下、いいんです!今日は私達が主役なんです!ほら座って下さい!」
ぐいっと腕を引っ張り座らせる。
殿下は諦めたようで渋々座った。
私達の目の前に大きなケーキが、ろうそくに火が灯されて運ばれてきた。
自分より大きなケーキに嬉しくなる、前世の時は庶民だから、こんな大きなケーキ見たこと無いもの、ホールケーキ一個買うのに凄く勇気を出して買った事が懐かしい。
これは素直にお父様とお母様、作ってくれたシェフの皆さんに超感謝しないとね。
私はわぁと手を合わせ喜んでいると、殿下もおおっと小さく驚いていた。
「殿下立って下さい、挨拶は私がして宜しいですか?」
「ああ頼む」
私達二人は立ち上がり代表して私が挨拶した。
「お父様、お母様、この家に仕えてくれているみんな、ありがとう!私達は十一歳になったのはみんなが居てくれたらだと、私は思います、これからもお父様お母様の様になれるよう私は頑張りますので、これからもみんな私を助けてね」
そして一礼すると、周りから拍手が送られた。
顔をあげると、お父様が私達に言った。
「アルベルト殿下、ロゼアンヌ、十一歳おめでとう!これからも健やかにあることを私は願うよ、じゃ二人でろうそくの火を消してね」
「はい!では、アルベルト殿下いっせいので行きますよ、いっせいので」
「「ふう」」
綺麗に十一本の蝋燭の火は消えた。
みんな盛大な拍手をくれた。
チラリとアルベルト殿下を見ると、子供ぽく嬉しそうだ。
きっと今までこんな風に、誕生日を祝ってもらった事なかったのだろう。
それからはみんなでブュフェスタイルで、話をしながら食事を頂き、カードゲームなどをして楽しんだ。
そして夕刻になりアルベルト殿下の帰る時間が近づき、私はアルベルト殿下と応接室で、向かい合わせに座り紅茶を頂いた。
「アルベルト殿下、今日は楽しかったですか?」
「ああ、初めて自分の事をお祝いされてる気分だった、それに知ってる者達だけというのはいいな」
「それは良かったです、また、ご一緒に出来れば良いですね」
「出来るだろ?」
「まあ、アルベルト殿下が見初めた女性が現れるまでは出来ますが、あっ、どうなんですか?そこの所、現れましたか?」
そう言った私にアルベルト殿下は、少し不機嫌そうに答えられた。
「いや、色々忙しいからな、まあ、それはいいとして、二週間後は王宮での俺の誕生日会と称しての舞踏会がある、ロゼ、パートナーとしてしっかり頼むぞ」
そう言われた私は目を見開いた。
忘れてた、そうだ、殿下に意中の相手が居ない今、私が殿下のパートナーとして主席しなければならない、ダンスや礼儀作法は先生からお墨付きを頂いたが、大勢の前でダンスをすることが私に出来るのだろうか?
自慢ではないが、前世の私は大勢の前で話すとあがって喋れなくなっていた。
それを思い出し固まった私に、アルベルト殿下が訝しげに私を見る。
「ロゼ、まさかと思うが忘れてた、なんて事無いよな」
「ままさか、ほほほ、いえ、殿下の誕生日の舞踏会が、そう言えば私達の社交会デビューになると思い出しただけです、それで殿下は宜しいのですか?公に私が殿下の婚約者となってしまいますが、まあ、それでもこれから殿下のお眼鏡に叶った女性が見つかったらご心配為さらずとも、私は婚約者の立場を辞退致しますから」
そう言ってアルベルト殿下ににっこり微笑むが、内心大勢の前で貴族令嬢として振る舞えるかおろおろだ。
「まあ、明日から俺とのダンスレッスンが入ってるからな」
「えっ?そうなのですか?」
アルベルト殿下が意地悪げに笑った。
*****
私の家での誕生日会の翌日から、アルベルト殿下とのダンスレッスンがメインだった。
一応基本は身に付いていたけど、やはり皇太子のデビューでもあるので物凄くみっちりされた。
しかも二日前まで、護身術を始めた頃を彷彿させる程疲れた。
*****
そしていよいよ当日、メイドさん達に綺麗にメイクとドレスアップをしてもらい準備万端だ。
後はアルベルト殿下が迎えに来るのを待つだけだが、私は凄く緊張している。
椅子に座ったまま手を見ると震えている。
そんな私にメイドのマリが心配そうに私に声を掛けてきた。
「ロゼアンヌ様、大丈夫ですよ、ロゼアンヌ様は完璧なご令嬢です。自信持って下さい」
「ありがとうマリ、見掛けだけはマリ達が頑張ってくれたから、大丈夫だけど、ちゃんとお父様やお母様に恥を掻かせないように振る舞えるかしら」
「ロゼアンヌ様、いつも通りで大丈夫ですよ、気を楽になさってください」
そこで扉をノックする音がした。
マリが扉を開け確認した。
「ロゼアンヌ様、アルベルト殿下がいらっしゃいました」
私は緊張したまま椅子から立ち上がった。
私の部屋の二階から、玄関へ降りる階段へ向かう、手摺を持って転けない様に降りて、アルベルト殿下の前に立つ、そして、一礼して挨拶をする。
「今日の為のドレスありがとうごさいます、アルベルト殿下」
アルベルト殿下が何故か、何も話されない。
どうされたのかしらと、首を傾げて再度声を掛ける。
「殿下?具合でも悪いのですか?大丈夫ですか?」
「あ、あ、いや大丈夫だ、では、行こうか」
そう言われ殿下は、手をだされ私をエスコートして馬車に乗った私達。
馬車に乗ってから、アルベルト殿下の様子がおかしい、暗い車窓から外を眺めて話さない。
どうされたのかしら?初めて見るご機嫌の悪さだわ。
こんな感じて大勢の貴族の前に出られて大丈夫かしら、先程まで自分の事で一杯だったけど、私より殿下の方が皆の注目が向けられる、いくら皇太子でも、貴族達に悪い印象を持たれたら後々困る事になる、そう思い殿下に話しかける。
「殿下、どうされたのですか?何か嫌な事でもあったのですか?私で良ければ話して下さい」
そう言った私に漸くアルベルト殿下が、私の方を向いた。
「いや、何もないが・・・」
そう言いながら、落ち着き無く手を口許を隠す様にしている。
あっ!もしかして!私は解ってしまった!
そうだよね、殿下はまんまの十一歳、精神年齢高い私でも震えるくらいなんだから、当たり前よね、ここは私が頑張らないと!
「殿下、緊張するのは当たり前です、私も先程まで手が震えてマリに励ましてもらってました、ですが、二人一緒なら大丈夫ですよ!」
そう言ってにっこり微笑む私を、残念な子を見る目で殿下が見てらっしゃる。
あれ?違った?
「ロゼが緊張していたのか?」
「しますとも。まず、舞踏会自体が初めてですし。殆どの貴族が集まって居るのですよ、お父様、お母様、殿下に恥を掻かせないようにと思えば緊張します」
私は真面目に殿下に話しているのに、くっと笑う殿下。
「そうか、ロゼはいつも通りだな」
「なんですか?それは、殿下の緊張を解そうといたしましたのに」
「ああ、お蔭でいつもの調子に戻った、もうすぐ着くぞ、ロゼも俺が居るんだ、二人で頑張れば大丈夫だろ」
そして殿下のいつもの不適な笑みが出たので、私は大丈夫だと思い答えた。
「そうですね」
*****
馬車から殿下にエスコートされて降りて、会場の扉前で二人で前を見てきりっとする。
殿下が、侍従に合図を送ると扉が開けられきらびやかな世界がそこには広がっていた。
ガチ舞踏会じゃないですか?!当たり前だけど、私は内心落ち着きを無くしているが、優雅に微笑み殿下にエスコートされ、アーサー王夫妻の前まで歩いて行った。
アーサー王の前に着き、二人で膝を折り挨拶をする。
「陛下、今日は私の為にこのように盛大な舞踏会を開いて頂きありがとうございます」
私は殿下の隣で顔を少し伏せ気味にしたまま待機する。
「二人とも顔を上げよ」
アーサー王に言われ顔を上げる私達に、アーサー王は優しく微笑み言った。
「アルベルト誕生日おめでとう、ロゼアンヌ嬢も十一月が誕生日と聞いている、二人とも十一歳おめでとう、後三年後に学園に入学だな、これから三年間頑張る様に」
「はい」
殿下が返事をして、私は頭を下げて返事をした。
そしてアーサー王が立ち上がりると皆の注目が集まる。
「皆の者アルベルトが今日は十一歳になった、そこで、アルベルトの婚約者を紹介する」
そう言われアルベルト殿下にエスコートされ、壇上のアーサー王の一段下まで、階段を上がり皆の方を向く。
階下を見下ろすと多くの人から注目されてる。
頭か真っ白だ、でも、ここで倒れる訳にはいかない、私は頑張って背筋を伸ばし顔を上げ前を見る。
すると、アルベルト殿下が私の腰を軽く抱いて話し出した。
「皆さん、今日は私の誕生日の舞踏会に来て頂きありかとうございます、そして、私の隣に居る女性は私の婚約者のロゼアンヌ・クルーズベルト公爵令嬢です、そして私達二人は父王夫妻の様になれるよう精進していこうと思う」
そして二人で一礼した。
皆から盛大な拍手を頂いた。
流石はアルベルト殿下、十一歳なのに立派に皇太子としての責務を果たしてらっしゃる。
そしてアルベルト殿下にエスコートされて壇上から降りた。
第一関門クリアといった所だが、直ぐにダンスの演奏が始まった。
初めの一曲は、私達だけが皆の前で踊るのだ。
アルベルト殿下が小さな声で私に話し掛けた。
「さあ、皆に見せつけるぞ」
「はい、大丈夫ですわ、あの地獄のダンスレッスンを乗り切った私ですよ、殿下に恥はかかせませんよ」
「その意気だ、じゃ行くぞ」
アルベルト殿下にエスコートされて、フロアの中央に立った。
そして、音楽に合わせてダンスを披露した。
曲が終わり殿下と向かい合い一礼をして終わった。
そして他の人達がフロアに入ってきて二曲目の演奏が始まり皆が踊り出した。
殿下が私の手を取りフロアから連れ出した。
「成功だな、少し休憩しよう、テラスへ出るぞ」
そう言って殿下は私をエスコートして、途中侍従に飲み物を頼んでテラスへと移動した。
*****
テラスに私達以外に誰も居らず、ベンチでゆったりと二人並んで座る。
そこで、侍従が飲み物を持ってきたので受け取った。
「殿下お疲れ様です、一応成功として宜しいですよね」
「ああ、そうだなロゼもお疲れ様」
そう言って二人でグラスを小さく合わせて飲み物を飲む。
周りに見られないようにね、一応この貴族社会で食器など音を鳴らすのはマナー違反になるのだけど、何かを成功した時など、お祝いでグラスを合わせてから飲むのだと、私の前世の知識を披露したのだ。
意外と殿下は気に入ってくれて、それから何か成功した時や、やりきった時などに、こっそり二人でやるようになったのだ。
これがビールだったらスカッとするんだけど、私はまだ十一歳それにこの世界ビールは無さそうだ。
まあ、取り敢えず社交界デビューは成功ってことで、また、殿下とも同士って感じて仲良くなってるし、これならもし私が悪役でも大丈夫と思い、これからも頑張ろうと思った。