アルベルト殿下視点 入学前 後編
それから十一月になり、俺とロゼの誕生月、ロゼは家で身内だけでのパーティーに俺も呼んでくれた。
そしてパーティーは、本当にこじんまりで、思わず思ったまま言ってしまい、ロゼの気にちょっと障ったようで、しかし俺が王宮での誕生日会の舞踏会の事を、「あれを俺の誕生日会とは思ってなかったが・・・」と言ったら、ロゼは申し訳なさそうな表情になり、だがすぐに微笑み俺の手を引いていく、何だ?と思ったら、ロゼが楽しそうに俺も今日の主役だと言った。
その後のパーティーは、舞踏会と全く違い、本当に俺達の事を祝われている感じがした。
そして誰かに気を使わずに過ごせて楽しかった。
これが家族というものかと思った。
いや父王と母王妃とはちゃんと家族だし、俺の事を大事にしてくれている。
だが流石に、こんな和気あいあいと身内だけのパーティーは、した事ないからな、そしてこのパーティーはロゼの発案との事だった。
ロゼには驚かされる、ロゼは面白いし、家族想いだ。
そして俺の帰る時間が近づきロゼと応接室で、紅茶を飲んで今日の事を話し、ロゼが“また出来たらいいですね”と言ったので、俺は何も思わず「出来るだろう」と言ったら、ロゼが言った。
「まあ、アルベルト殿下が見初めた女性が現れるまでは出来ますが、あっ、どうなんですか?そこの所、現れましたか?」
そうだった、ロゼは真面目に聞いてくる。
あの時の俺のバカと思いつつ、誤魔化す。
「いや、色々忙しいからな、まあ、それはいいとして、二週間後は王宮での俺の誕生日会と称しての舞踏会がある、ロゼ、パートナーとしてしっかり頼むぞ」
そう言うとロゼが驚いた様に固まった。
何故そこで驚く?と思い、まさか忘れてたのか?と問いかけると、動揺したように、違うと言い、続いて自分が婚約者になってしまいますが?と、俺を心配した表情で見て、そしてにっこり微笑みいつものセリフ“婚約者の立場を辞退致しますから”と言った。
まあ今は、まだいいと思い、俺はふふっと笑い言った。
「まあ、明日から俺とのダンスレッスンが入ってるからな」
「えっ?そうなのですか?」
ポカンとしたロゼが可愛かった。
*****
そして次の日から毎日ロゼとのダンスレッスン。
二人で合わせて踊る。
ここまで密着しても、これはダンスだから流石に、ロゼの護衛も警告の攻撃もない。
これまでの舞踏会は、くそ面白くもなかったが、これからはロゼがパートナーとなるから、楽しみになった。
そして午後は王宮の庭園の東屋で休憩だが、俺は本を読む間、ロゼには昼寝をしてろと言ってやる。
ロゼは素直に俺に礼を言って直ぐに眠った。
疲れていたのだろうが、しかし、俺が居ても直ぐに寝るのは、すごく信用されてるように思ってしまう。
完全に眠りに入った頃、俺はロゼの艶やかな髪を撫でる。
その時、矢が飛んで来る気配を感じて、撫でてない方の手で払ってみる。
上手く払えたり、駄目だったりするが、そんな毎日を過ごすうちに、いつの間にか全て払える様になった。
*****
そんな日のある日、ロゼにドレスと装飾品を送ると言うと、案の定ロゼはやんわり断りそうだから、それを拒否した。
婚約者として当たり前だと、常識だと言って。
そして淡い黄色のドレスと、青色の装飾品を送った。
そして誕生日の舞踏会当日、ロゼの家へと迎えに行った。
玄関ホールで待っていると、俺の送ったドレスと装飾品を身に付けたロゼがやって来た。
いつもと違う、綺麗なロゼに思わず見とれてしまう。
俺が黙っていると、心配そうに首を傾げて俺に声を掛けてきた。
慌てて俺は行こうとエスコートしたが、まともにロゼを見れない、その為雑念を払うため車窓から外を見てると、ロゼが心配そうに何かありましたか?と話し掛けてきた。
俺は顔を引き締めロゼの方を見たが、にやけそうになり、さりげなく口許を手で隠してと「いや、何もないが・・・」と言った時に、ロゼがあっと何か思い付いた表情をして言った。
「殿下、緊張するのは当たり前です、私も先程まで手が震えてマリに励ましてもらってました、ですが、二人一緒なら大丈夫ですよ!」
思わず何を言ってるんだ?と訝しげにロゼを見てしまった。
俺は舞踏会ごときでは緊張などしないが、さっきのロゼの言葉を、思い返してロゼに聞いた。
「ロゼが緊張していたのか?」
何故かロゼが胸を張って明るく言う。
「しますとも。まず、舞踏会自体が初めてですし。殆どの貴族が集まって居るのですよ、お父様、お母様、殿下に恥を掻かせないようにと思えば緊張します」
その言い様に、俺は胸張って言うことかと思い、くっくっと笑ってしまう。
「そうか、ロゼはいつも通りだな」
「なんですか?それは、殿下の緊張を解そうといたしましたのに」
ちょっと頬を膨らませて言う、いつもの可愛いらしいロゼの雰囲気に、気恥ずかしさが無くなった。
「ああ、お蔭でいつもの調子に戻った、もうすぐ着くぞ、ロゼも俺が居るんだ、二人で頑張れば大丈夫だろ」
そしてふっといつもの様に笑ってやる。
ロゼも安心したように柔らかく微笑み答えた。
「そうですね」
そして、王宮へ着いたのでロゼをエスコートして、舞踏会会場の扉まで進んで行ったのだが、傍目にはわからないだろうが、ロゼは本当に緊張しているようだ。
俺の腕をぎゅっと掴むロゼの手を軽くポンポンと、叩いてやるとぎこちなく微笑む。
そして扉の前まで来て、侍従に合図を送り扉を開けて入場した。
ゆっくりとロゼを気にしつつ進んで行ったが、王妃教育の賜物かロゼは優雅に微笑み歩いて行った。
そして父王の前まで何事も無くこれた。
父王とお決まりのセリフのやり取りをして、そして漸く俺の婚約者の発表となり、父王の一段下まで壇上を上がる。
そして皆の方へ向いて、ちらりと一度ロゼを見てみると、表情には出して無いが、目が少し怯えているように見えた。
俺は大丈夫だと言う意味を込めてロゼの腰を抱いて、皆に宣言した。
そしてゆっくりと壇上を降りて、次は俺達の二人だけのダンスだ。
フロアに移動しつつ、ロゼに小さく話しかけた。
「さあ、皆に見せつけるぞ」
ピクっとして俺を見たロゼは、もう怯えた目はしてなかった。
そして、ちょっと勝ち気に可愛らしく微笑み俺に言った。
「はい、大丈夫ですわ、あの地獄のダンスレッスンを乗り切った私ですよ、殿下に恥はかかせませんよ」
「その意気だ、じゃ行くぞ」
そしてダンスは無事終わり、周りから拍手喝采であった。
ロゼと向き合い一礼をして、ロゼの手を引いてフロアから出て休憩するためにテラスへと向かった。
テラスのベンチに二人で座り、侍従が持ってきたジュースでこっそりグラスを合わせて乾杯をする。
これもロゼの発案だ。
お祝いや何か成功した時にやる事だと言っていた。
チンとなるグラスの音に、やり遂げた感じがして俺も気に入った。
そして喉を潤しほっとしたのか、暫く話していたら、ロゼが話さなくなり、こてりと俺の肩に頭を乗せてきた。
そっと見ると、目を瞑っていた。
緊張しっぱなしだったもんな。
そう言えばロゼは病気で、王宮でのお茶会に来てなくて、こんな大勢の人前にも出たことが無いと言っていた。
今は元気そうで、持病も無さそうだが、そんな事を思って居ると、矢が飛んで来た。
ていうか、この状況でもロゼの護衛的にはアウトの様で、ポコポコと数発頭に当たる。
払えば、動いてロゼを起こしてしまうかもしれないと思い、残念に思いながら、そっとロゼをクッションに横たわらせて、毛布をかけた。
そして落ちている矢を拾い集めて、来た方へと腹いせに投げ返してやり、手摺に腰かけて、暫く寝ているロゼを眺めて過ごした。
暫くして、そろそろ貴族達に挨拶に行かないと思い、ロゼを起こす為に、肩を揺すり声を掛ける。
「ロゼ、起きろ」
ぼんやりと眼を開けたロゼは慌てて謝る。
「申し訳ありません、アルベルト殿下」
「緊張してたんだろう、かまわない、だがそろそろ貴族達に挨拶に行かないとな」
そう言って手を出すと、ロゼは素直に俺の手を取る。
そしてその後の舞踏会は、無事終わった。
*****
舞踏会の翌日から、魔法の勉強だ。
俺も今日から教わった。
まあ苦もなく理解は出来たから、然程考える事もなかったが、いつもの様に勉強が終わり庭園の東屋へ行くと、くったりとして眠るロゼがいた。
座学でロゼが疲れて居るのは珍しい。
そっとロゼの綺麗な髪を鋤いてみる。
サラサラと手から素直に落ちる。
俺は殺気を感じてロゼの髪をさわってない方の手で矢を掴む。
続けて飛んで来る矢を全て掴む。
ロゼの髪を触ってる手で、今度は頭を撫でる。
先程の倍の数の矢が飛んで来た。
流石に掴み損ね何個か俺の体に当たる。
ロゼの頭を撫でていると、ロゼの瞼がピクピク動き出したのでそろそろ起きるのだろう、撫でていた手を離す。
もう起きるのだろうと思っていたが、なかなか起きない。
もういい加減起きろと思い、鼻を摘まんでやる。
驚いて眼をパチっと開けたロゼ、俺はロゼを見下ろし声を掛けた。
「ロゼ、起きろ」
「アル様、最近私の扱いが酷いと思うのですが・・・」
ロゼがジト眼で俺を見て言った。
「はっ、お前が無防備に寝ているからだ」
そう言いながらロゼの鼻から手を放す。
それから三年間の間、こんな感じでロゼと過ごした。
ちょくちょくロゼが俺に意中の女性が出来たかを確認する事が、結構精神的にダメージがくるので、思わず強めにロゼに言ってしまった。
「そんな女性が出来たらロゼにちゃんと言うから!俺から言うまでもう聞くな」と。
ロゼはきょとんとした顔をして、わかりましたと返事したが、そのきょとん顔が、可愛いと思った。