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9話「刻まれる記憶」

しばらく投稿出来ず、大変申し訳ありません。

よろしくお願いいたします。

同種の能力を持つものしか開けぬ地下坑道の大扉を開き、やたら凝った入り口を通過し、巨大な円形エントランスホールを通過し地下へのエレベータに乗り込む。

この1週間ほど繰り返している行動だ。

その後ろには、アルス、スヴァット、セフィドの3人が大人の姿で連なっている。

地上の城壁都市にはいまだ人はおらず閑散としているが、都市機能等の設備はすでに十分すぎるほどに整っているのでしばらくは放置していいだろうと思い、今は研究にフィールドワークにと打ち込んでいる。


「・・・アルス、先程の戦闘データと、破意あいての戦闘データ。それから、摂取した因子の投与を。スヴァットは計器調節。セフィドはモニタリングチェックを。」

眷属3人もある程度の知識や技能もあるというのは分かっていたが実際、初日に試しに手伝いを頼んだ際はあまりの手際の良さに驚いたヴィーセだったが、それが1週間も続けば流石に指示を出すことにも慣れ、今では自身の仕事をしながら様々なことを任せることが出来るようになっている。

そうしながらこの培養室の観測室のガラス越しに眼下に広がる巨大なガラスカプセルを何度か視界に移す。

立った1週間で手のひらサイズの素体は成人男性くらいにまで成長した。

どうやら因子の取り込みと内部進化そのものは、素体の大きさがマックスに達しても行われるらしく焦ることはないが、やはり初期理論の構築は重要となる。

そこで直面したのはこの機体の『自我』についてだ。

機体そのものに潜在自我を与えて操者の自動アシストに回せないものかと考え、当初から検討していたがこれはのちの世である程度して表れる様々な世界の『英雄達』を使おうと考えた。

死した英雄の一部を埋め込み、その残留自我をAIとして使用するというものだ。

これは言うならば『英霊』とでもいうのだろうか?

ただし、この『英霊』の選抜が若干問題となるのだが。

他の3機に関してはそこまで困難ではないと思われるが、やはり特別製の1機に関しては最高の相性を求めるもので、その摂取タイミングがこの機体に”あの子”とやらが乗るギリギリ100年程度前になってしまうようなのである。

しかも、摂取は他人の手に任せる必要がありその人物がなんと・・・。

何故だか、現在最上位ランカーであるウィンクルム『ヴァイ・モーティス』なのだというのだ。

一体どういった経緯で、諸悪の根源であると推測されるギョクザの右腕ともされる彼がその役を担うのかとも思うが、実際に未来予測で見た世界ではそうなっているのだから先の世の者の行動に任せるしかないのがもどかしい。

ウィンクルムの寿命は半永久的ではあるが、不死ではない。

耐久性は非常に高いが、限界を超えれば通常の生き物同様に死亡してしまうのだから。

そして、その未来にヴィーセの名は出ていない。

恐らく途中で何かがあったのだろうが、よく見えなかったのだ。



「マスター、一息入れましょう?」

涼やかな声がして振り向くと、暖かそうな湯気を立ち昇らせたカップを盆に乗せたスヴァットが立っていた。

そういえば作業開始からどのくらいが経ったのだろうかと時計に目をやると4時間も経過していた。

これは確かに休憩を入れた方がいいかもしれないと、椅子を回し方を動かすと案の定ゴキゴキという音がして、眉を顰める。

「酷いな。」

「集中しておいででしたから。」

にこりと微笑みカップをよこす。

手に取ったカップを目の前まで持ってくると、琥珀色の透明な液体から湯気が立ち、香ばしい香りと暖かさが鼻を刺激するのを感じながら、一口飲みこむ。

喉から胃に流れ広がる温度の移動に吐息が漏れ、疲労が体から薄れるのを感じる。

よほど夢中だったので気づかなかったが、疲れていたのだと自覚する。

そうしていると入り口の自動ドアが機械音を立てて開きアルスが入ってくる。

「マスター、簡単なものだが軽食を用意した。」

いいながら傍らのテーブルに置く。

大きくなってから2日目に、昼食を用意していたらアルスもスヴァットも食事の準備やお茶の入れ方を教えてほしいといってきたのだ。

大きくなった日の晩に手伝いをしていたから、出来るだろうとは思っていたがしっかり教えたことはなかったので教えてみると、あっという間にヴィーセの知るレシピなどもすべてマスターしてしまい、尚且つ今では自分であれこれするようになってしまっている。

しかも、掃除洗濯などもすべてである。

全く驚きのスペックだ。

考えながら、傍らのテーブルに置かれたサンドイッチに手を伸ばす。

何やら具材は見覚えがない事から新しいレシピだろうと口に運ぶと案の定で、しかもとても美味しかった。

いいお嫁さんになるだろうと、ブラックボックスで知った単語を当ててみたが、そういえば彼ら3人は男だったからこれは違うと思いつつお茶を飲む。

「マスター、解析終了だ。」

同時に隣の席からセフィドの声がする。

セフィドは他の2人の様に掃除家事洗濯の類はあまり得意ではなかったのだが、意外な事に研究方面の能力に特化していたのだ。

全くもって、家事などにいそしむ姿は想像できないにしろ、科学者気質とは・・・。

現場での戦闘はもちろん、フィールドワークで大量に手に入った素材などを入り口付近の倉庫に搬入したり、分別したり。

その他力仕事専門かと思ったら、何が何が。

返事をする間もなく目の前にデータの映し出された端末を差し出しながら現れた白衣姿の様になる事。

もちろんほかの2人は知的な印象故、無駄ににあっているがいかにも戦士と言った感じのセフィドが白衣を着ると意外なギャップが逆にしっくり来てしまうという現象が起きてしまった。



「経過は順調だな。」

受け取った端末の内容を確認して返事をすると、セフィドも頷く。

同時にスヴァットがセフィドにもヴィーセに出したの同様にカップを渡してやる。

何だかんだ言って3人は仲が悪い訳では無いし、連携もすれば協力もするのだ。

ヴィーセがいない時の3人を物陰から見ていて思ったのが、普通に会話もしているし、世間話や冗談なども飛ばしあったりもしていた。

まあ、この3人は言うならば血の繋がらない兄弟のようなものなのだから親しみがない訳では無いだろうし、ヴィーセ争奪戦で騒いだとしても、実はじゃれているだけという事もあるようだ。

むしろ、喧嘩ではないが何か1つの話題で熱くなったアルスとスヴァットをセフィドがなだめるという事も多いようだ。

ヴィーセがらみではそろって騒ぐものの、これは意外でもあり、それ以外ならば特に騒ぐでもないしという事なのだろう。



ホールには自販機が置かれている。

実はこれ、神界の街には普通にある物なのだが、未来予測で診てみて驚いた事に遥か先の世界でも似た物が存在していたのだ。

しかも今よりバリエーションが多い。

未来なのだから当然かとも思ったのだが、神々の世界にある物をまさか通常世界の生物が作り出しているとは思わなかった。

だが、逆にできないということもないのでここにも置いてみることにした。

中の飲み物は新たに作った地上のアーティファクトでランダム形成されるのでそれを詰めたのだが・・・。

これに何故かアルスがはまっていたりする。

そんな缶に入った飲み物を手に戻ってくるアルスを加えた一行は観測室を1度出て、他のフロアへ移動した。

居住エリアを出て『記録物保管エリア』の休憩室のテーブルに座る一行。

エレベータを降りてまず居住エリアを通り、その向こうの区画に『記録物保管エリア』が存在する。

なぜこんな構造なのかだが、この地下においてこの居住エリアはヴィーセ達専用エリアである。

そこにこの先人が増えたとしてもこの4人以外が入ることはまずないのでそのエリアをワンクッションにして『記録物保管エリア』を作ったのだった。

同時にいつでも記録物を置いたり、記録できるようにと機材ごとこのエリアに置いておこうという事になったのも理由の1つである。

とはいえ、音声、ものによっては映像ごと専用機器を使用することが出来れば個々の施設のサーバーに送り込み記録することも可能なのだが。

そんなこんなで休憩というとこの区画にやってくることになるので先に食事などの準備が整っているのであった。

「マスター。このところ根を詰めすぎだったが大丈夫なのか?」

アルスが缶を置きながら訪ねてくるので頷くと、傍らで食事をとり分けていたスヴァットがおかずをそのまま差し出しながら続けて口を開く。

「顔色が悪いという事はありませんが、無理はしないでくださいね?マスター。」

これにも頷きながらおかずを受け取る。

「順調に進んではいるが、一気に運びすぎたな。1度経過記録を取っておいた方がいいかもしれん。」

横でセフィドが資料を見ながら言う。

確かに必要だ。

記録は万が一の為に必要なのだから。

そんな事を話しながら地下研究施設『リベレの乙女』の夜は更けていくのであった。



『これを聞く、遠い先の世に生きる者に伝えよう。』

何時もヴィーセが、どの記録の最初にかならず口にする文句を今日も口にして記録は始まる。

それは、いつかの為にという思いを込めて。

同時に残したい。

ヴィーセという人が生きた記録でもあったのかもしれない。

それが後の世につながることを信じ、彼らの記憶は刻まれる。

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