7話「観察は研究?」
お久しぶりです。
前回からかなり間がありての投稿となりました。
すみません、よろしくお願いいたします。
・・・ん?
何だろうか?動きづらい。
目が覚めたヴィーセは身じろぎしようとしたが、何故か動けなかった。
いや、動けるが動きが制限されていた。
どうなっているのかと思い、瞼を開けると・・・。
「腕・・・。」
しなやかな筋肉で構成された腕が、ヴィーセの後方から抱きすくめる形で巻きついていた。
同時に背中には体温が感じられるし、首筋には白い塊。
もとい、セフィドの頭が肩に向けて乗っている。
何してんの?この子。夜中に寂しくなったのか?いや、ならどうして大きくなっているの?
寝ぼけたままでボケ突っ込みをしながらしばらく考える。
考えながらも状況を観察する。
「・・・何で裸?」
セフィドが着ている服は手の甲までを覆うタイプの長袖の黒い服の筈だ。
ついでに言うと二の腕まで袖のある、ロングコートの様な上着とワンセットの筈なのだが、今巻き付く腕は何も纏ってはいない。
気になって無理矢理後ろを向くと案の定、しなやかな筋肉で構成された白い肌がさらされているわけだが・・・。
オマエ、何してんの?
何故、脱ぐ?
恐らく下は、穿いているであろう。
そう考えて、どうしたものかと視線を前方に向けると何だか異様な光景が。
「・・・え、何だ?」
思わずつぶやいてしまったが、目の前には小さなアルスとスヴァットが猫のごとく丸まって顔をこちらに向けている。
思い切り目を見開いて。
元の愛らしくきれいな顔が、変顔どころではない状態になっている。
同時に後ろでセフィドが動き、頭を首筋に押し付けるように頬ずりをしてくる。
可笑しなところが猫のようだと思いながらも目の前に2匹の目がさらに見開かれる。
そんなに見開いたら目玉が落ちそうだからやめておけ、と思いながらもその様子を見つめるヴィーセだが、突然「ハッ」としたように立ち上がり、ヴィーセの目の前には来ず、セフィドの手をスヴァットが。
セフィドの頭をアルスがどつき始める。
「一体、お前は何をしている!マスターに無礼だぞ!」
「セフィド!この手をどけなさい!」
ギャイギャイと騒ぎながらその小さい手や足で猫パンチや猫キックを繰り出す2匹。
何となく大きくなってすれば効果的だろうと思うヴィーセだが、同時にこのベットの上で大きくなられたら、狭くてかなわないとも思い言葉を飲み込んだ。
そうしている間に背後ではごそごそと動き出すセフィド。
「・・・う、ん?何だ、煩わしい・・・。」
一応、仲間の筈の2人にそれは酷くないか?
そうは思ったがしばらく頭もとで目をこすっているセフィドと、そんな彼をどつく小さな2匹を見つめる。
大きくなるとやはり大人びて見え、性格も落ち着くようだ。
昨晩の眠る前に見たセフィドはまだチョロチョロとヴィーセの周りを走り回り、甘えるようにすり寄ってきていた。
しかし、今の彼は先ほどの頬ずりこそしてきたが、小さい時の甘えたようなものではないように思う。
正確には何が違うのかはよく分からないと首をかしげるヴィーセだが・・・。
それに比べて小さな2匹はいくら勇ましく振舞いまくしたてようとも、その小さく愛らしい姿に見合ったチョコチョコとした動きで、ほほえましく見えてしまう。
精神的にも縮んでいる間は体に合った行動になるといっていたからこんなものなのだろう。
大きければアルスは生真面目でカチッとした印象であり、スヴァットも涼しげでアルスとは違う意味で知的な印象を受けるというのに。
一方このセフィドは涼やかで知的というワードは当てはまるものの、2人がインドアな印象なら逆のアウトドアな印象が強いように思える。
これは・・・ワイルドな肉食獣を彷彿とさせるものだ。
年齢も大きくなった姿の3人を並べてみると最年長であるように思える。
目覚めは同時であったはずだが、もしかしたらその前の時点では最初に発言したのかもしれないとも考えてしまうほどに。
「さて・・・。」
何時までも横になっているわけにはいかないとセフィドの腕をほどかせて上半身を起こすと、アルスとスヴァットが膝に乗って見上げてきた。
ああ、本当にかわいい。
不意に思い頭を指でつつくと、くすぐったそうな、しかし気持ちよさそうに目を細めて喉を鳴らす。
本当に猫だ・・・。
その様子を見ていたはずのセフィドが一気に起き上がってきて再び後ろから腕を回してヴィーセの方に顎を乗せる。
「何だ?」
「・・・別に。」
ワイルドでクール。
そんな単語がブラックボックスから湧き出てきた。
「・・・何の事だ?」
思わず眉をひそめて呟くと、眷属達は不思議そうに彼女の顔を覗き込むのであった。
バッシャッという水音を踏みしめて、都市の地下研究施設へと足を踏み入れるヴィーセ。
先日取った戦闘データなどを早速分析してみようと考えたのだ。
ひんやりと寒い地上よりもさらに寒い地下施設。
薄暗く通路のすべてが特殊な灰色の金属でできている空間。
勿論扱っているものがナマモノなのだから仕方がない。
あまり寒いのは得意ではないのだが・・・。
胸中で不満げに呟きながら女神に与えられた『素体』の培養室へ急ぐ。
それは手のひら大のカプセルの中で眠っていた。
人の皮をはいだような筋肉質な人型の存在。
これはカプセルの中で大きくなっていく。
それこそ人の身の丈の数十倍に。
今現在はいないが、後の時代で現れる巨大な破意と戦う為の対抗策となるのだ。
それが4体。
そして、その4体をベースに培養して、さらに”機体数”を増やしていく。
勿論、オリジナルの4体よりもはるかに劣るが、これも後の世には必要になるはずだ。
そうして巨大な円柱型のカプセルに培養液を満たし、そこに浮かぶ素体とコピーの核。
これを実戦データや因子を与えながら育て、同時に使役する方法を探すことと、使役の際に必要とされる適性を操者に身に着けさせるための方法も探さなくてはならない。
破意とこの素体は同じモノで出来ている。
そしてそれは、我々ウィンクルムのオリジナルである存在や、その亜種である一般の人々に最も近い遺伝配列を持ってもいる。
そんな存在が敵でもあり、敵を倒す為の兵器でもあるのだ。
女神様もよくもこんな事を考えられたものだと思う。
「・・・。」
目の前の培養液に浮かぶ他の『素体』とは異なる1体に目をやる。
少し色も違うその『素体』は特別な物らしく、持っているものも僅かしかいない因子が無くては使役は出来ないらしい。
その分非常に強力でもあるらしいが・・・。
「それが、女神様の言っていた『あの子』とやらの持つ因子か?」
特別な存在。
女神様でもそう言うのだからよほどなのだろう。
同時にヴィーセは考える。
その『あの子』に自身が似ていると。
一体何がそんな特別な存在に似ているというのか?
首をかしげながら次の作業に移るべく、コントロールパネルの電源を入れて管理室に戻る。
「・・・この『素体』はいずれ巨人のごとく大きく強力な存在になる。」
それまでに、ありとあらゆる因子を加え育てなくては。
その為に、今存在する様々な破意やそのほかの可能性あるものを見極めなくてはいけない。
「すべては研究対象。すべてを観察し、完成させなくては。」
誰に言うでもなく紡いだ言葉が、低い機械音にかき消されながらも響くのを耳にしながら、目の前のモニタのキーを叩く。
『GDバシレウス・アゾットフレーム-00』。
特別な機体にして、世界の運命を変える存在の搭乗機。
これが本来の操者のもとに渡る時、世界はどうなっているのだろうか?
そんな事を考えながら、因子投入作業を始めるのだった。
少しSFチックな響きが・・・。