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5話「覚醒と自我」

遅れて申し訳ありません。

始まります。

3匹の眷属は威嚇するような細い声を相手に向けているが、数度放たれた咆哮にかき消されてしまう。

それでも毛を逆立てて威嚇しているが敵う訳はない。

どう見ても目の前の破意は今までの相手とは段違いに強い。

何処をどうすれば勝てるのかと考えて戦ってきたそれとはあまりにも違いすぎる。

「お前達は下がっていてくれ。」

視線は破意に向けたままで、威嚇を目の前に出てする3匹に声をかけると何やら不満そうな顔を一瞬してちょこちょことヴィーセの少し後ろに走り込む。

敵う相手か否かは分かっていても、納得は出来ないといった顔なのだろうと思いつつもこればかりは同省もない。

”あの人”から授かった眷属をこんなところで潰されるわけにはいかないし・・・。

「・・・?」

何だろうか?この感じ。

授かりものの眷属を潰せないという義務的な考えの端に、別の感情なにかが映り込んだ気がして内心首をかしげる。

義務や責任意外に何があるのだろうか?

破意ばけものを前にしているというのに、このモヤモヤとした感覚がぬぐい切れない方が気になって仕方がない。

本当に何故だか分からないが・・・。

だから、破意がヴィーセの思考の隙をついて飛び掛かって来た事にも、それを阻止せんと3匹が前に出た事にも反応が大きく遅れてしまった。

本来ならばこういった時の回避行動もすっ飛ばして。

「・・・。」

言葉が出ないほどに急にめちゃくちゃな行動に出てしまっていた。



視界の端から急速に赤く染まっていく。

それを認識するのにも時間がかかるほどに。

私は何をしているのだろうか?

”あの人”の命で天界の外へ出て、行動していたはずだと言うのに・・・。

目の前にはあの破意がまるで戸惑いがあるかのように動きを止めている。

いや違う。

『私にかぎ爪を刺しているから動けないのか・・・。』

自身の腹部前方から、おそらく背中まで貫き達しているであろうかぎ爪がギシギシと揺れているが、一向に動かない。

この破意の武器はこのかぎ爪しかないらしく、次の攻撃の為に引き抜こうとするが抜けず、動けないでいるようだ。

『・・・好都合。大変結構。このまま耐えることはしばらくできるだろう。それだけの時間があれば・・・。』

腹に力を入れて、口角を釣り上げる。

こんな事をした事は今までなかったと思うと妙に笑いが込み上げてきたが、そもそも今までの生に”誰かをかばう事”も”かばいたいと思うほどの相手”もいなかったのだからこれが初めてに決まっている。

「アルス・・・スヴァット、セフィド・・・。森を出て拠点に戻って、祈りの間で”あの人”に指示を仰げ・・・!」

自身がここにきて何も成し遂げる事が出来なかったのは非常に情けなくはあるが、先行部隊だったと考えれば無意味ではない。

拠点はあるのだから彼らを託し後は後続の者に繋ぎさえすれば・・・。

そうすれば、眷属このこたちも生きていける。

だから、この何をしても倒すことが出来ないと思われる破意てき相手に自分が今出来る事は・・・!

『めいいっぱいの悪あがきと、時間稼ぎだ!』

考えが達した瞬間、今までにないほどに目を見開き刺さったかぎ爪を両手でつかむと力を込めていく。

途端、手元に光の粒子が集まっていく。

『恐らく、今使える術式で最大出力のものを放ったところでこの破意は倒れない。』

ただし、弱らせる位にはなる。

足止めになるのだ。

さらに翻弄するなどの行動に出ればもっと効果がある筈だと、妙に冷静な地震に不思議な気持ちになりながらも術式を展開していく。



手元に集まる光の粒子が形になり爆発寸前となる。

遅くも気づいた破意は必死に抜けないかぎ爪を引っ張りまわすが一向に外れない為さらに焦ったように暴れ出す。

『破意も焦ったりするのか・・・。まるで感情があるみたいだな。』

意識が朦朧としたまま術式発動最終段階の手順を終了する。

光が一気に強くなる。

体に光がまとわりついて光がさらに強くなった気がして眉を顰めるヴィーセだが、光が慟哭して強くなった時に自身の体にも電撃がめぐったような衝撃が走り目を見開く。

『ここまでフル出力で発動したことないから仕方がない・・・。』

初めての最大出力が、最後の一撃になるというのに何故か上がったままの口角に気付きながらもその口のはたから流れ落ちる血が地面を染めるのが見えた。

『一応、”生き物”としてはやり切ったか?』

そこまで考えて、一度背後にいるであろう3匹の眷属のことを考えて、自身の手元の術式に意識を集中する。

そして、割れんばかりの声が響くのであった。

「・・・お前達!祈りの間へ走れ!この事を”あの人”に報告しろ!こいつは私が何とかする!」

刹那、世界を覆うほどの閃光が視界を多い、体の内より何かがあふれ出していくのを感じながらヴィーセは瞼を下ろした。






「・・・。」

濁った意識が晴れていく。

負傷しているからかとも思ったが、今までだって自我なんてあってないようなものだったのだから関係ないわと悪態つく。

悪態?

可笑しいと気づいたのは意識が浮上していく途中だった。

何で思考が回っているの?

いや、そもそも今までにない感覚が頭の中でせめぎあっているのは一体何?

訳が分からないと体を動かしてみると、ギシギシ言いそうではあるが動きそうだと瞼を開けた。

気持ちのいいくらいの晴天。

世界が閃光にのまれるような錯覚の前以上の。

雲ひとつ見当たらない。

なぜ自分はそんな天気のもと、空を見上げているのか?

そもそも・・・。

「あの後どうなった!?」

今まで上げたことの無いくらいの素っ頓狂な声を発しながら起き上がると、一気に目の前が回る感じがしたが、直後に喰らっていたあのかぎ爪の傷らしきものが無いと腹部をさする。

「・・・一体、どうなって?」

最大出力で術式を発動させたはずだ。

暴発させたり誘爆させるようにコントロールして。

そんな使い方をする奴は今まではいなかったが、時間稼ぎをするならその方がいいだろうと思ったのだ。

ただしそんな事をすれば、命だって消し飛んでしまうだろうけど・・・。

「何で、生きてる?眷属は!?破意は?」

あの破意は当然仕留められなかっただろう。

ならば、時間稼ぎはうまくいき眷属は撤退。

自分は幸いエネルギー切れを起こして意識は落ちたが生きて転がっていたというところだろうか?

いや、それでは塞がった傷の説明がつかない。

幾らウィンクルムが屈強且つ強靭な肉体を持ち、驚異的な回復力を持っていたとしてもヴィーセの力はそちらに特化していない。

せいぜい通常のウィンクルムよりやや上程度なのだ。

とてもではないが風穴の空いた腹を数刻で回復できる訳がない。

それにあの破意が自分を生かしたままその場を去るだろうか?

一応ウィンクルムの生命力は彼らにとっても極上品の筈だが・・・。

そんな事を考えている彼女の耳に衝撃音が入ってくる。

正確には目が覚めた時から聞こえていたのだが・・・。

一体どこからするのかと、ふらつく足に力を入れながら歩き出す。

周りの風景はあの草原だろう。

では、森はどこへ行った?

「・・・ああ、そういう事。」

草原から森になる前にあった岩が目に入る。

そしてそこから少し進んだところにボロボロの、多分・・・木だったもの。

そこよりさらに数メートル先からはなかった。

正確には地下数十メートルの円形にえぐられている。

ヴィーセが術式を発動した場所を中心に消し飛んだようだ。

では、そこから吹き飛ばされたのだろうかとのぞき込むと衝撃波がほほをかすめていく。

「・・・!?」

何だ今のは?咄嗟に体位をずらしていなかったら首が飛んでいたのでは?

鋭く切れたほほに触れてみる。

同時に言いようのない違和感を感じた。

この衝撃波が纏う魔力は・・・セフィド!?

思わずえぐれた大地に乗り出す。


眷属が戦っているの!?

逃げなかったの!?

勝てるはずがないのに!


頭を流れていく”感情”があふれ戦闘中であろう当たりに視線を素早く向かわせる。

恐らくボロボロになっているはずだ!早く救出しなくては!

「セフィド!今の攻撃はマスターに当たったぞ!」

視線が向かうより先に、聞き覚えの無い涼やかな声が響く。

・・・何だ?

自分たち以外に誰かいただろうか?と、声の方に改めて視線を向けると・・・。

「・・・ん?あー、あれは・・・。」

何となく面影がある。

纏う気配で間違いないのだろうとも思う。

ただし、どう考えてもサイズが違う。

「眷属達?なぜ、デカイ!?」

思わず漏れた言葉にすら気づかず、自身では倒せなかったらしい破意と戦う”3人”に目をやる。


深い青色に真っすぐにそろえられた髪の真面目そうな顔の青年。

ツンツンと外向きの黒い髪に涼やかな印象の青年。

そして、2人よりも若干年上な印象で異質な白く、背中を隠すほど長い髪の青年。


「・・・お前たちよね?」

多分成長したのだろうが、いきなり何故?

とにかく訳は分からないが、全員が無事である事は確かだと立ち上がり彼らのもとに急ぐヴィーセだった。

眷属達が、大きくなりました。

ヴィーセ、大混乱です。

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