4話「思考と遭遇」
遅くなりました。
すみません。
始まります。
引き裂かれる蒼の光が飛び散る。
砕けた”欠片”があちこちに飛び散っていく。
名前を呼ぶ。
引き裂かれる世界。
「・・・?」
おかしな夢だ。
いや、私の見る夢にただの、何の意味もない夢などありはしない。
そう考えながら起き上がるヴィーセ。
同時に別のおかしなことに気が付いた。
眷属3匹がいない。
この二日間、毎日目覚めとともにじゃれ付いてきていた眷属がいないのだ。
飽きたのか?
そう考えながらもベットから起きて着替え、ダイニング兼リビングスペースに降りていく。
まあ、ベッドのあるスペースが1.5mほど高い位置にあり仕切られているだけなので降りるも何もないのだが・・・。
考えながら壁の部分から顔を出すと、ダイニングテーブルの上にいた。
「・・・。」
果物や作り置きにしておいたパンを皿に乗せ、コップに飲み物を注いでいるところのようだ。
近くに歩み寄るとまずアルスが気づいて手を振りながら近寄ってくる。
続いてほかの2匹も飛んできた。
その顔は「ほめて、ほめて~」という様にどや顔だ。
何という事はない。
朝は軽めに作り置きのパンと果物で済ませる事にしたのだが、その準備を起きる前にして待っていたようだ。
寝る前に1度行っただけだが、随分と知能も高いようだと感心しながらテーブルの端前に移動し3匹の頭を撫ぜてナイフを取って戻り席に着くと、果物を切り分けて渡し、飲み物に口を付ける。
そのまま傍らのテーブルの上で果物をほおばって、そのままひっくり返ってもまだむさぼっている様子に目を細めながら食事に手を付けるのであった。
「随分と寒いな。」
この島で目を増した時は夜だからかと思っており、拠点づくりの最中は作業に集中していて気づいていなかったが、改めて考えるとかなり気温が低いような気がした。
勿論、すべてにおいて管理されている天界と同じである筈はない事も分かってはいるし、ヴィーセもこの程度の気温変化位どうということはないが。
考えながら幼い眷属に視線を向けると、森の入り口で転がりまわっている様子が見える。
どうやら寒さが苦になっているわけではないようだと安心して近づいていく。
深い森だ。
平原地帯でも『破意』は見たが、そう手間もかからない間に倒すことが出来た。
大きさもヴィーセより頭ひとつ高い程度ということもあったかもしれないし、攻撃も単調な物理攻撃でしかなかったというのもあるだろう。
その後も数種類の『破意』と遭遇したが、結果はあまり変わらなかった。
これはヴィーセが強いのか、相手が弱いのか?
考えた結果彼女が出したのは、まだサンプルが足りていないのだという答えだった。
実際、遭遇した敵の種類も10種類にもならないし、討伐数も30体以下ではデータ収集にもならないのだから。
未来の世界ではこれが増えるのだろうか?
見えた世界では種類も数も系統も、ありとあらゆるモノが今よりもはるかに多かったように見えた。
今より未来の方が人が生きる上では困難な世界になるのかもしれない。
だから、まだ試験的に行動できる今、未来に備えたいと女神さまは思ったのかもしれない。
しかし、一体なぜそんな事になってしまうのだろうか?
後の時代に何かが起きるのだろうか?
だとしたら、それは何なのだろうか?
そもそも”彼女”は何者なのだろうか?
女神も言っていたが、何となくヴィーセに似ているような気がしたし、見える未来はいくつもあり時代も違うはずなのに、何故か”似たような容姿の少女”が決まった役割のもとにいたように見える。
親子か何かなのだろうか?
そもそも、親子であってもそんなに似るものなのだろうか?
”ウィンクルム”には親兄弟の概念はない。
血縁というものがいないのだ。
だからどういうものなのかも当然分からない。
逆にいうなれば、1つの系統に別の要素を加えて作られた存在なのだから、全員が身内ということになるわけだが、お世辞にも家族関係があるようには見えない。
少なくともヴィーセは他の”ウィンクルム”に対し、他の者も彼女に対し友好的な態度であったことはない。
ここまで考えて、足元で3匹が鳴いている声で思考の海から浮上し苦笑いをする。
気になる事は尽きる事がない。
ここにきてからずっとだ。
今までは”何故?”などと問うこともないし、考えたこともなかったというのに。
少しは”人”になってきているという事だろうか?
何を考えているのかと思いながら足元の3匹の前にしゃがんでみると、各自が淡い鮮やかな色合いの花を手にしているのが見える。
何か嬉しそうな顔をしているから、良いものが手に入ったことを喜んでいるのだろうか?
そう思い視線を合わせると一斉に花を差し出してきたのだ。
「・・・?」
何だ?
3匹はにこにことしながら、動かないヴィーセにさらに花を近づけてくる。
これは受け取る様にという事だろうかと、魂の中のブラックボックスにアクセスしてみると”贈り物”という単語と意味が浮かび上がってきた。
この3匹はどうやらこの花をプレゼントしようと思ったらしいと理解し、もう1度彼らを見ると相変わらずにこにこしながら花を差し出している。
「私に”贈り物”か?」
言葉は通じるだろうが、どうだろうと3匹に呟くと、何やら嬉しそうに笑い大きくうなずく。
「そうか・・・。」
受け取るべきなのだろうと思い腕を動かしかけて再びブラックボックスへアクセスする。
そして花を受け取り口を開く。
「ありがとう。」
言いながら彼らを撫ぜてやるとわらわらと走り膝の上に乗って笑顔で鳴き始める3匹。
”ありがとう”て、何だろう?
感謝の言葉とデータにはあった。
何かをしてもらった際に口にする言葉であるとの事だが、今までそんな事はした事がないと思った。
同時にこれが普通なのであり、”天界”がおかしいのだろうという事に気が付いた。
「だから、”人”になれなかったのか?」
異常な場所でまともな事がある訳がない。
ブラックボックスはなおも彼女の疑問に回答し続ける。
そして、未来の異変のもとは、あの天界にあるような気がしてしまったのだった。
花は具現能力で作った入れ物に入れて納めておき、改めて3匹を抱えて立ち上がり森の方に視線を移した。
薄暗い森にはおそらく平原以上の種類と数の『破意』がいるはずだと考えながら歩きだす。
視界も悪く、立ち回りもしづらいのだろう。
先程までとは少し戦い方を変更するべきだと思いながら眷属達を肩へ移動させる。
湿った空気の漂うこの森は、本来はもっと明るいはずなのだが”破意”の影響で時空が歪んでいる為薄暗い。
同時に適性を持たないものは”破意”の近くでの行動を著しく制限されてしまう。
それは空間も同じなのだ。
そんな事を考えながら同時に思うのは、”破意”は一体どこからくるのだろうかということだった。
「確か、神界にも”破意”はいたな・・・。」
勿論、ここほど多くはなかったが・・・。
一体、”破意”とは何なのだろうか?
空間や時空や存在に直接的に干渉してくることが出来るなんて...。
そこまで考えた時、視界に今までにないほど大きな影が横切った。
「・・・!」
あまりにも咄嗟の事に武器を構えるのが遅れて、相手の放った打撃の直撃を暗いヴィーセ達は後ろに弾き飛ばされ、背を気に打ち付けて止まる。
「・・・油断、したか。」
スッと武器である刃を構え、目の前に転がる眷属達に視線をやる。
衝撃波ヴィーセがすべて受け流したので彼らは地面に転がっただけで済んだようだ。
慌てて立ち上がり、彼女の横に転がり込んでくる。
その様子を視界の端に確認しながら目の前の相手に視線をやる。
「・・・。」
何だこれは?
大きさは今までのものをはるかに上回る。
これも間違いなく”破意”のようではあるが、あまりにも違いすぎる。
何より先ほどの動きをこの巨体でしてのけたというのかと、目を見開く。
しかも、妙な感じがしているのだ。
コイツは何だ?
明らかに今まで相手にしてきた相手とは違いすぎるプレッシャーにチリチリと焼かれるような感じがする。
「・・・。」
しかしの端にいる眷属も身を縮こまらせているのが見える。
幼体なのだから当然で、この状況はまずいと思った。
同時に目の前の”破意”が咆哮したのであった。
少しずつ人の思考を手に入れていくヴィーセ。
くるくる動き回る3匹の眷属達。
そして、強敵現る!です!