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3話「拠点づくり」

遅くなり申し訳ございません。

タイトル通りですが、ニヤリ演出第一弾(?)です。

「・・・。」

瞼の裏からでもわかるほどの光が降り注いでいる。

だが、眠りから引きずり出されたのは別の理由だった。

視線が、おそらく顔に突き刺さっている。

同時に小さく、か細い「ニャー・・・ミャー・・・」という鳴き声がする。

いる。

いるのだろう。

たぶん、目の前に。

おそらく、結構近い位置に・・・。

瞼を上げてみると、やはりいた。

3匹がどうしてだか正座?

お行儀よく横1列に座っている。

空腹なのだろうか?とも思ったが、たぶん違う。

ヴィーセが瞼を開けた途端に、ぱあッと表情が変り、そのまま立ち上がってしがみついてきた。

おでこや喉元やらに。

そのまま頬ずりをしたり甘えたりしている。

これ、起き上がっていいんだよな?

何となく後ろめたいが、3匹を少し離して起き上がるとそれでもなお構えとばかりによじ登ってくる。

本当に子猫である。

だが、今日はそれどころではない。

拠点となる場所を整備していかなくてはならないのだから。

補給しょくじは昨日の残りがあるな。」

言いながら残りを詰めた袋を広げて、まず果物を出しナイフで切り分ける。

「・・・?」

その様子をかなり近い位置で「ジッ」と見つめる3匹。

「危ないから離れていろ。」

言いながらどかそうとするが、一向に離れない。

まさか、普通に同じものを口にするのだろうか?

考えながら小さく切ったものを3匹に渡してやる。

一応人に近い形をしているので、どうもここは普通の猫にするように放り投げたりはしづらい為、小さな手に握らせてやる。

すると、最初は鼻をクンクンさせながら匂いをかいでいたが、1度ペロッと舐めると「!」という顔になりかぶりつく。

そのままシャクシャクという音をさせながらかじりついている。

何だ、食べるんじゃないか。

同じものを食べるなら、楽でいい。

そう思いながら、昨晩の血を口にした時とは違い、一気に魔力が満ちていくことがないという事も確認する。

やはりウィンクルムの血液とその辺の食べ物では含まれている魔力量が異なるという事なのだろうと納得する。



一通り食事を終えて片付けをしながらヴィーセは横目で転げまわって遊ぶ3匹を見る。

相変わらず「ニャー」としか言わないが、こちらのしゃべっていることは理解しているし、何となく意味不明な一部の行動以外は何がしたいか分かるので、しばらくこのまま様子を見ようと思った。




さて、本日本題となる拠点の整備に入ろうと立ち上がるヴィーセに3匹もくっついてくる。

「・・・そういえば、何ができるのだろう?」

ヴィーセも”才なき者”とは呼ばれていてもウィンクルムである以上、持っている能力も拠点整備などとは相性がいい為ある程度はいろいろ出来る。

この3匹にしても眷属なのだから幼体ではあっても何かある筈なのだがとしゃがみこみ、持ち上げる。

「お前たちは何が出来るんだ?」

まさか、ある程度育成が進まないと何もできないという事はないだろうと3匹を観察すると、若干「ん?」という顔をして間をおいて彼女の手から飛び降りるとまずアルスが手をかざす。

直後水や氷がいきなり表れて降ってきた。

しかも大量に。

水は壊れたシャワー並みの勢いと量で、氷は人ほどのものがその重量ゆえにいくつも地面に突き刺さる。

続けてスヴァットは目の前の岩に手を掲げる。

同時に岩が浮き上がる。

ついでに周りの石も。

最後にセフィドはその浮いた岩や石に向かって手を振る。

同時にはじけ飛ぶ岩と石。

「・・・。」

アルスは水や氷全般の術式を。

スヴァットは操作系術式全般を。

セフィドは衝撃波などの術式を使えるようだ。

流石女神様の下さった眷属とでもいうのだろうか?

幼体にしては優秀すぎると内心驚きを見せるヴィーセ。

能力そのものは単純なものだが、だからこそ応用が様々な方向にしやすい。


さて、どうしたものか。

ヴィーセは目の前にドッカリそびえ立ついただきを見上げた。

とにかく広い台地に深い谷があり、その谷も頂を囲むような円形に見える。

谷の内側にも頂の周りに山があるので全くの平地という訳では無い。

「・・・まず、橋を架けるか。」

呟くや否やスヴァットの方を向くと「どうしたの?」という顔で見上げてきた。

「足場となる岩を一列に浮かせてくれ。」

指さしながら指示を出すと、ヴィーセの指と現場を交互に見て大きくうなずき崖の淵までポテポテと走っていくと小さな両手をかざしす。

小さな頭と背中しか見えないが集中しているのはわかる。

その証拠に魔力が集まり始めているのを感じる。

「ニャッ!」

掛け声のようなものが聞こえた、次の瞬間。

ヴィーセの頭上を、横を大きな岩が通り過ぎていく。

もちろん四方八方から。

ガコガコガコっという音を立てて岩はどんどん橋を造る予定の空間に並んでいく。

それはあっという間の出来事であった。

「これは、空間固定もしてあるのか?」

浮遊物をその空間に固定しておけるほどの力。

これだけの事となると『ウィンクルム』でもどれだけのものが出来るだろうかと感心していると、何か視線を感じて下を見る。

そこには一仕事終えて戻ってきたスヴァットがジッとヴィーセを見上げていた。

「・・・。」

さて、どうするべきなのか?

何かを期待するようなまなざし、のように見える。

この場合、ほめるべきなのだろう。

そう思いスヴァットの前にしゃがみ込み、指で耳をこすりながら声をかける。

「よくやった、スヴァット。助かった。」

そのまま頬もなぜながらつついてやると目を細めて喉を鳴らしている。

鳴らしながら指をつかみしゃぶり始める・・・。

「・・・スヴァット。とりあえず放してくれないか?」

こそばゆい。

しかし、当のスヴァットは「まだ!」と言わんばかりである。

やれやれとも思ったが、幼い眷属に仕事をさせたのだしと、しばらくされるがままにしていた。


具現術式によってスヴァットの作った足場を覆うように滑らかな橋を架けていくと、ようやく中央の頂付近に立つことが出来た。

結構長かったのだ。

スヴァットがなかなか放してくれなくて・・・。

思いのほか大きくて立派な橋が架かったので気にはしないが。

「次はこの頂の上に祈りの場を建てよう。」

これは外せないとヴィーセは思っていたのだ。

本来研究に必要な施設は材料豊富な地下に作る気ではあったし、手ごろな鉱石の眠る穴も見つけたのでその奥に地下研究施設を作ることは決めてあった。

だが、自分を見出してくれた女神様への感謝の意を表すべく、礼拝堂のようなものが欲しかったのだ。

もちろんただの礼拝堂ではなく、この不安定な時空の安定装置のような役割にするために『異空間』につなげるつもりでもあるのだが・・・。

その場所はこの地で一番高い場所がいいと決めていたのだ。

その結果、頂に沿ったこの中央の地に巨大な螺旋階段の入る建築物兼住居を立て、その天辺に聖堂を建てようと考えたのだ。


スヴァットに元となる岩を呼んでもらい積み上げ足場を作り、セフィドに余計な岩を砕いてもらい大きさを整え、アルスに水圧を使って滑らかにしてもらったところに具現化を使って巨大な円柱の塔を作り、同様にして内側に螺旋階段を設けていく。

途中途中に大きめの部屋と通路を作りながら頂を上り、一番上に広い土地をもとからある土地を中心に作り出す。

同時に様々な居住区域を作りその一番奥に、女神さまの聖堂を建てる。



光降りしきる長く広い回廊を思わせる聖堂は床に緋色のじゅうたんを引き突き進む。

そして一番奥に祭壇を置き『異空間』に繋げ、さらにその空間で拠点周辺を見渡せるように上空からの映像を映し出す術式を発動させる。

透き通った素材で作り出された宮殿のようなそこは不思議な色合いを持ち、女神さまの宮殿としては申し分ないと満足げに見渡すヴィーセであった。


そこまで作って自身の住居も聖堂の近くに作ると、次に取り掛かったのは住民の住居である。

この世界は『破意』に脅かされている。

原始的な文明しかないこの世界の人口はそれなりに多いが、村や町はない。

ではどうするか?

ここに巨大な”城壁都市”を作り、人を集めて共に戦っていこう。

昨晩見た”夢渡り”に写った未来でも、多くの人とともに『破意』と戦う様が見えた。

ということは、こういったケースで対応するシステムの開発にも役に立つかもしれないのだ。

同時にどれだけの人が集まるか分からないから、とにかく多くの住居を用意することにしたのだ。


最初に目にした谷はかなり深いがその壁部分に住居を作ることにした。

スヴァットに基礎となる岩を集めてもらおうとも思ったが、思いの外つらそうにしていたので現在あるもので作ろうと思ったのだ。

谷の壁を柱にしてわずかに使える物質浮遊術で岩を呼び、具現で部屋を作っていく。

壁に空間を設けて壁を渡す作業の応用なので負担も少なくすぐできる。

大きな階段で谷底へと向かえるようにして、谷は恐ろしく幅が広いので両方の壁にかなり広めに住居を作っても通路はどこぞの大通りのように広いままだった。

「・・・あとは、水?」

近くには海はあるがとてもじゃないが飲めはしない。

海の水は『術式具アーティファクト』で潮にできるようにして、いっそのこと工場にしてしまうことにした。

もちろん水質管理施設も、上下水道も主だった工業施設に至るまで巨大『アーティファクト』でオートメーション管理していく。

里山のような場所もあるので様々な自制植物も育てることにした。




夕暮れ時、この土地を覆うような壁がかつての平原にそびえ立っていた。

大きな門が外界とを遮る円形の城壁で守られた土地。

―――城壁都市国家・スキエンティア―――

「・・・?」

頭に響く少女の声。

「・・・”夢渡り”の残り香か?」

どこからか降ってきた、”未来いつか”の声が耳に残る。

この城壁都市は、のちの世では『城壁都市国家・スキエンティア』と呼ばれるようになるらしい。

「どういう意味だろうか?」

聞きなれぬ言葉に首をかしげる。

「この頂は、霊峰『スパーダ』と名付けたのだが・・・。」

正確には、これから作る地下研究所も『リベレの乙女』と付けるつもりだ。



地下深くに強化術式をかけたうえで、回復したセフィドの衝撃波で穴を掘り進めてもらい地下深くに大きな空間を作り出し、数々の『アーティファクト』を設置していく。

入り口付近の壁は少ししゃれた物にしたのだが、作り始めて少し経ったところで面倒であることと、研究施設の壁や床をなぜしゃれたものにしているのか分からなくなってきた為、無機質な灰色の金属で作り始めたのだ。

要するに飽きただけだと後で思ったが、作った分はもう放っておくことにした。



施設の設営などが終わり、ようやく長い1日が終了の時を迎えた。

聖堂近くに設けた自室で食事を済ませ、昨日までの野営とは異なる心境で寝台に横たわると3匹の眷属達は眠らずに待っていた。

「・・・疲れただろうに。寝ていてよかったんだが。」

声をかけながら、労う様に1匹ずつ撫ぜてやると目を細めてて甘え始める。

「明日から忙しくなるのだし、休もう。」

言いながら手を止めるとかけ布団の中に飛び込んできて丸まった。

やれやれと思いながらも、彼らのおかげで作業が一気にはかどったのだと思い目を細めるヴィーセ。

「明日は、この都市周辺の結界装置の設営と時間があれば住民の確保か・・・。」

呟きながら、やはり疲れていたのだと瞼を閉じた。

猫達3匹が思いの外優秀で、驚いてます。


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