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2話「3匹の子猫」

慌てて2話投稿です。

「ニーッ」

「ニャーッ」

「フニャーッ」

三者三様、ではなく3匹3様に泣きまくる眼下の耳としっぽが付いた生き物。

今しがた誕生させた眷属なのだということはよくわかっているが、これは何という生き物なのだろうと見つめる少女。

ヴィーセは眉を寄せる。

まだ小さい体は20cmほどしかないが、耳は大きくしっぽは長い。

恐らくそういう種族なのだろうと思う。

小さな2等身のデフォルメされた人間に耳としっぽがついているという形で、こんな種族がいるのかと首をかしげてしまう。

しかし、いくら不思議がっても目の前にいるのだからそういうものなのだろうと理解する。

「お前たち、名前はあるのか?」

少女は3匹に話しかけるとコロコロと転がりながら彼女の前にぽてぽてと走り寄ってきて見上げると、一斉に「ニャーッ?」と鳴く。

「・・・しゃべれないのか?」

いくら幼体でも眷属がしゃべれないことなんてあるのだろうかと眉を寄せるが、『あのお方』は”これで精一杯”だと言っていた。




かなり切羽詰まっていた様子だったのだ。

今まで『女神様ヴァロ』はあの聖地で世界を導いていく為に鎮座しており、そこにギョクザ様達が連なっているものだとばかり思っていたのだが、実は違うという事も教えられた。

実は『女神様あのおかた』は捕らえられていたのだ。

そして、人柱として封じられ利用されて生かされている状なのだという。

世界を統べる『聖王母神』に何という事をと思ったが、それでも未来で起きる事の為に自分は使命を与えられたのだと理解し気を落ち着けた。



「理解したが・・・。」

相変わらず「ニャーッニャーッ」言っている3匹に視線を向けながら、さらに眉間のしわを深くする。

「意思の疎通ができない・・・。」

どうしたらいいんだ?眷属とは付き従う存在で、自分が全うするべき使命の手伝いをするんじゃないのか?

本気でうずくまりたくなった。

なったが、フッと気づくと3匹はヴィーセのついた膝によじ登りよじ登り、上着の中ほどまで登ってきていた。

「・・・。」

近い。



とりあえず、3匹について確認することにした。

ついでに名前も付けておこうと思ったらしく発光術式を具現させ、その近くに3匹を抱えていき座った。

眷属は3匹いるので、改めて観察をして見る。


まず目についたのは一番近くに座らせた深い青色の髪と目を持つ眷属だった。

どこか真面目そうな顔立ちに、真っすぐな髪の毛を持つ眷属で名前を『アルス』とした。

「アル・・・。」

何となく成長したらそう呼んでいそうな気がした。


2匹目は黒い髪と目の眷属だ。

ツンツンと先が外向きに反ったような癖はあるもののまっすぐな髪の、どこかすましたような印象の眷属だ。

名前を『スヴァット』として、『スウ』と略してもいいだろうと思った。


3匹目の眷属は何となく他の2匹とは印象が異なった。

何というか、本当に”猫”なのだ。

例えば目とか・・・。

思わずまじまじと手の上に乗せて顔の前に連れてきて見入ってしまった。

銀に近い白い髪は真っすぐで、立ち上がっても地面につくほど長い。

目の色は冷ややかな青だった。

何となく他の2匹より力が強そうに見えるうえ、大人びて見える。

幼体だが。

名を『セフィド』と付けた。



3匹を観察し、名前を付け終わると今後の事を考え始める。

まずここでどう生きていくか。

地形に関してはここは”島”のようだ。

ずいぶん大きいのだと思うがよく分からない。

今いる場所は切り立った山の見える草原で、山の周りには深い谷があるようだ。

「とりあえず『具現能力』を応用して、物質変換しながら術式を組み込んでいくか?」

そう思い立ち上がったはいいが、同時に「ぐるるぅ」という、音が響いた。

「そうだな、空腹だ。補給をしなくてはいけない。」

ヴィーセは言いながら考える。

何時から食べてないのかと。

正確には、ほとんど意識を失っている状態だったのだからどのくらい眠っていたのかと。

「考えても分からないな。」

言いながら眷属達を抱える。

「そういえば、お前達の補給はどうしたらいいんだ?」

同じものでいいなら楽だが、特別なものであればどうにも手間だと天を仰いだ。



「こんなものでいいのか・・・。」

傍らで揺れる焚き木の緩やかな熱を感じながら、食べ終わった果物や肉の残骸を具現させた炎で一瞬のうちに消し炭にしながら傍らの3匹を見つめる。

やはり夜は視界が悪いので、日が昇るまでゆっくりしようと思い食料を採取した後火をおこし食事をとっていたところ、ナイフが指をかすめてしまったのだ。

傷はすぐに跡形もなくふさがるので気にもしなかったが、出血が思ったより多く滴り落ちる血を拭き取ろうと思い、布を取り出そうとしていたら3匹が寄ってきたのだ。

それこそ群がる様に。

そして、奪い合うように血をなめとり始める。

同時にヴィーセの目には魔力が増していく3匹の姿が映った。

「主の血。いや、体液なら何でもいいのか?」

彼らの補給に動き回らなければならないと思っていた矢先、思わぬ出来事で食事の内容が判明したので肩を落としつつも観察する。

ウィンクルムの血や体液には多くの力が宿っているのだから当然なのだろうが・・・。

「・・・猫にマタタビ。」

グンニャリして転がる3匹に「毎回こうなるのか?」と心配になるのであった。




しばらくすると、ふにゃふにゃだった3匹も再び動き回り始めてヴィーセの膝や肩によじ登り始めた。

重い訳では無いが、やたらまとわりついてくる3匹。

肩の上でまるまったセフィドの耳を指でこすってやると、気持ちいいのかゴロゴロ喉を鳴らしてほほにしがみついてきた。

本当に猫以外の何物でもない仕草に、思わず苦笑いが漏れてしまう。

「・・・。」

しばらくセフィドをつついていたのだが、不意に視線を感じてそちらに目を向けると膝の上の2匹が眉を寄せてもじもじしているのが見える。

何だ?

訳が分からないが、とりあえず抱き上げてセフィドのように耳を撫ぜてみると同様にのどをゴロゴロ言わせ甘え始める。

甘え始めたのだがその甘え方が尋常ではない。

まるで、今まで我慢していたとばかりに甘え始めたのだ。

「・・・くすぐったいんだが。」

言っても聞いてはいない。

その様子を見ていたセフィドもさらに甘え始めてきたので何事かと思いながら3匹を膝に下ろすと、両手を伸ばし「もっと遊べ」と言わんばかりに鳴き出した。

え、どうするんだコレ。

可愛いとは思うんだが、毎度構わなくてはいけないのか?

若干困り顔で動きを止めたヴィーセに3匹も鳴くのをやめて手を下ろしてお互いを見回しあうと、膝の上で彼女にすがって座り込んだ。

3匹の後ろ頭が見え、耳がピコピコ動き、しっぽが揺れている。

どうやら困っているのだと気づいて落ち着いてくれたようだ。




そろそろ就寝した方がいいだろうと横になると、3匹がヴィーセの腕の中に潜り込んできた。

それはもう駆け込んできた。

そしてまるまって彼女の方を向く。

どうしたらいいんだろうと首をかしげながら、何となく3匹の背中を指で撫ぜてやると気持ちがいいのか目を細めて耳を動かして目を閉じた。

寝る前のあいさつでも欲しかったのか?

思いながら、いまだ小さい3匹の眷属を見る。

随分と愛らしい、猫のような眷属は既に夢の中のようだ。

彼らから見て自分はどう映っているのやら?

一応、主なのだが。

そう考えながら、ヴィーセも身を横にして目を閉じるのであった。

眷属と主ではなく、飼い猫と飼い主になってます。

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