1話「私の始まりは・・・?」
初めましての方も、お久しぶりの方もよろしくお願いいたします。
『本編前夜祭シリーズ』の重要作品、始まります!
ちっちゃい猫耳しっぽ3匹が理性だか本能だか相手に奮闘したり、
主人公が人らしい感情を理解していったり、
未来との邂逅があったりとバタバタで、
進みも遅いですが始まります!
よろしくお願いいたします。
″私″は視線をしっかり合わせて目の前に立つ″彼女″に驚き、″彼女″はどこか困った様に微笑んで口を開き呟きともつかない声を放つ。
「君に″コレ″を託す。」
何を言っているのか分からない。
そして、これは″いつもの夢と違う″ものだと思った。
何がと言うんじゃない。
けど、これは違うものだった。
ーーーこれは僕の生まれるよりずっと前の事。
始まる為の時間。
未来に託す為の物語。
そして、″彼女″が”人”になる物語・・・。
『竜の詩人(語り部)』
「ワタシは叶えられない。だから、叶えてくれ、君が・・・。」
何時のころか聞こえ続けていたこの言葉の意味を、私はまだ知らない・・・。
誰もが同じような恰好で並ぶそこは、″女神様″を祀る聖地、『天の神界』。
勿論、″女神様″が本当にいるのは『地の神界』の方だが。
私達は、その姿を知りはしない。
主たる″ギョクザ″以外は目にする事も叶わない。
いくら私が″上位ランカー″でも・・・。
もしかしたら″最上位ランカー″たる、″ヴァイ・モーティス″なら分からないが。
そしていつもの声が耳に響く。
いつから聞こえていたのだろうか?
時折、誰かに呼び止められた気がして振り返る。
「・・・。」
感情のない瞳で声のしたと思われる方を見るも誰もおらず、薄ら寒いほどに美しい庭園の石畳が尾を引いている。
「綺麗な声、だ。」
思わず、というか。
気が付いたら声が出てしまっていた事に驚いて、唇にふれる。
私は目立った能力を持っていない。
正確にはいくつか特殊能力はあるが、「ヴァロ」に仕える戦士としての能力とは無意味な力なのだ。
『未来予測』と『具現能力』という力だ。
ただ、そんな私がどうして実力主義である『ウィンクルム』の上位ランカーなのかというと、フィジカルの数値が異常に高いのだ。
基本的な能力全般が驚異的に高く、通常の行動が特殊能力を極めた者たちの一点突破に等しいのだという。
バランスがいいともいわれるが、努力しても伸びしろは微々たるもので現状維持のランカーなのだ。
だからだろうか?
周りは皆、私を見て『才なき者』という。
特別役に立つ力がないのだから、せめて雑用全般で貢献するように、と。
私は業務システムの1つでしかないのだ。
そう思うことで日々を過ごすようになっていた。
そんな私に、時々聞こえてくる声がある。
―――ワタシは叶えられない。だから、叶えてくれ、君が・・・。―――
これをどうしてヴァロの声だと思ったのかは分からないけれど、でもそう思うのだった。
それが今日は一層強い気がした。
「・・・近くに、いるのか?」
そんなはずはないと分かっていてもその思いが口をついて出てくる。
あたりを見回す。
平然と並ぶ美しい風景。
しかし、どこかいつもと違う。
何かが。
目に見えない何かが漂っているように感じるのだ。
1度瞬きをしてみる。
やはり変わらない“はず”の風景。
しかし、それは突然起きた。
―――君は持っている。「未来」を見通す力と、それを形にしていく力を。―――
痛みを伴う声が、頭の中に流れ込んでくる。
咄嗟にしゃがみこみ頭を抑えるが全く痛みは治まらない。
どうして自分はこんな痛みを与えられているのか?
分からない感情が渦巻くが、それすら処理しきれずに口を押える。
刹那、意識が白に消えた。
「君はこれから先、崩れ逝く世界を救うために必要なものを生み出していくんだ。」
自分にそんなことが出来るのだろうか?
頭に響く声に、無言で対話する。
私はどうなってしまったんだろうか?
「君は先が見える。多分、『あの子』に近い力だ。」
“あの子”とは誰だ?
私の知る存在だろうか?
「未来で泣く『あの子』を少しでも前に進めるように。君には力を借りたい。」
誰かが生きていくために私が何かしなくてはいけないのか?
どうして?
「未来から『あの子』もみている。君がこの時代で成したことは、必ずあの子は引き継いでくれる。」
見ている?
何を?
「君はほかの“ウィンクルム”とは違う。だから出来るんだ。」
私は基本型のウィンクルムだから、出来ないことばかりだ。
役には立たない。
何もできないし、何も分からない。
私は、ギョクザの所有物に過ぎない。
「君は“人”だ。モノではない。今がもしモノでも、いつかは“人”となることが出来る。」
そんな事が可能なのか?
私も、“人になる事が出来る”のか?
「なってくれ。何より君は、『あの子』によく似ている。」
似ているから、なれるのか?
「分からないが、君は不思議な子だ。頼む、未来を紡ぐ助けをしてくれ。」
対話がそこで途切れた。
私は相手の声の、『あのお方』の声の余韻を反芻しながら次を待った。
―――君を、かの地へ送ろう。―――
声が再び、痛みを伴いながら響く。
眉をしかめて耐えた。
同時に、様々なことが頭の中に流れ込んできて・・・。
これは知識か?
知識の流れに溺れるように、私は意識を手放した。
肌寒い。
そんな言葉が頭の中に浮かび上がる。
少女は重い瞼を開く。
「!?」
瞼の隙間に見える不思議な黒。
その中に散らばる無数の光の粉。
何だこれはと慌てて飛び起き瞼をこすると、再び天を見つめる。
3つの光る天体が頭上にあるのでこれは空というものだと同時に理解する。
あの時流れ込んだ“知識”だろうか?
だがそんなことはどうでもよかった。
3つの月がこの世界にはある。
世界に名前はなく、ここは聖地のあった次元の扉をいくつか超えた場所だと分かる。
文明は、どのくらい進んでいるのか?
魔法技術や精霊力を駆使した技術の発展がみられるが、大した規模ではないのだと彼女の中に流し込まれた知識の部分が答える。
その後も、世界について自問自答を繰り返し、整理し始める。
この世界には“人”がいる。
この世界には“他種”がいる。
この世界は“破意”に脅かされている。
「・・・これは“未来”と同じ?」
呟いて、『あのお方』が授けた使命が頭に浮かぶ。
“未来”に起きる状態と限りなく近いこの世界で、『あの子』の役に立つものを生み出して後世に伝えることだと。
ただし、後世に伝えると言っても必要なものを作って、それが“未来”で使える状態である程度転移させるというだけでいい。
全てを『あの子』は見て把握しているから、いくつかの情報さえ残していれば、活用してくれるのだ。
「未来で起きる、“破意”との戦いにいる物を作り出す。」
今生きる世界での生活をもとに、何を創ればいいかを考えることが基本だが、彼女は“ある程度未来”が見えるのだから、それと照らし合わせて考えることになるのだと『あのお方』が言っていた。
「私は、ここでまず生活していかなくてはいけない。」
今起きているこの世界の窮地に挑むことそのものが、未来で必要なものを作り出す研究そのものになるのだと彼女は理解したようだ。
同時に、付け加えられたメッセージに眉を顰める。
それは・・・。
「・・・『幸せになりなさい』・・・?」
幸せってなんだ?
その情報は詳細まで記されていない。
流れから得た情報は魂の中に独自の安置所が形成されているので、何度も自問自答という形でアクセスを試みるが、常にエラーが発生する。
「・・・?」
これが解明されることが、その『幸せになりなさい』なのか?
彼女はしばらくそのまま眉をしかめていたが、すぐに『あのお方』の与えた使命を完遂させなくてはと頭を上げる。
そして、自分の立っている位置から少し離れた場所に浮いている3つの光の球体に目をやる。
この3つの中に“眷属”というものが入っているらしいと情報にはあった。
何か制約があるのか『あのお方』は“今の状態で精いっぱい”だと言っていたのを思い出す。
どうやら、“未完成”の状態であるらしいと考えて彼女は近づいていく。
要するに、ある程度は自力で育成して使えるようにしろということだろうと理解したのだ。
「・・・まだ生まれてもいない。」
卵の状態なのだと理解する。
「自力で調節を加えながら育成を開始する・・・。」
そこで言葉を切って歩いていく。
「・・・。」
3つの眷属の卵の前に立った時、視界の横に反射するものが見えた。
何かと思ってそちらを向くと、何ということはない。
真っすぐな長い銀髪に暗い赤色の右目の少女が経っている。
鏡に映った自分の姿に眉を寄せる。
“色の無い”上位ランカー。
そんな事を言われたことを思い出す。
大体のウィンクルム達は濃く、鮮やかな色彩を体に宿しているが、自分にはなかった。
悪いとも思ったことはなかったが、他の者はそうは思わず“才なき者”は色も持たないのだとあざ笑っていく。
でももうそんな事は別に良いのだ。
自分はもうあの場所にはいない。
これからは『あのお方』の使命のために生きるのだから、と目の前の3つの球体に向き直り、手を掲げる。
掌からあふれる光、『具現能力』。
その光が球体にまとわりついていき、吸い込まれてなじみ色を帯びていく。
青、黒、白。
3色の光。
ああ、やはり私に色がないから、鮮やかな色は出なかったのか。
落胆に目を伏せる。
そのまま強弱のテンポで光る球体の傍にどのくらいいただろうか?
光が常に強くなったまま球体が躍動し始める。
「・・・生まれる。」
呟きにこたえるように球体は「ビキッ」と音を立てたと思ったら、一気にはじけ飛び3体の“何か”が転がり落ちてきた。
おそらく眷属の幼体だろうとまき散らされた光の粒子を払いのけながらしゃがみ込み口を開く。
「おはよう、眷属たち。私はヴィーセ。お前たちの主だ。」
徐々に光が収まって姿がまぶしく思う彼女。
ヴィーセは目を少しずつ開いていく。
ずいぶんと小さい眷属だ。
獣か何かの耳としっぽが見えるので獣人なのかもしれないと思いながら視界が正常に戻るのを待つ事数秒。
ようやく光が収まり、強い光にさらされたせいでマヒした目も“彼ら”をとらえた。
「・・・。」
だが、何も言葉を発する事なくヴィーセは凝視していた。
しばらくの間。
そんな彼女に気づいた小さな“3匹”は「くああっ」と可愛らしくあくびをして、頭上の主に一言。
「ニャー?」
小さな、小さな猫耳としっぽを持つ眷属の誕生であった。
「・・・。」
そんな彼らを、ヴィーセは目が落ちるのではないかというくらい見開いて、しばらく凝視していたのであった。
はい、舞台にヴィーセが経ちました。
そして、猫が鳴いています(笑)。
まだしゃべることも出来ません。
どうやって意思の疎通をしていくのでしょう?
続きます。
よろしくお願いいたします。