プロローグ1-9 獄炎
「さぁ!消し炭になりなりなさいな!」
爆風ではるか彼方まで吹き飛ばされていく深夜の全身を熱風が焼き焦がしていく。全身の神経を抉る苦しみに深夜は悲鳴を上げるが音にならない。口を開くや否や爆風が深夜の肺の空気を奪い取り声すら出すことができないのだ。
「これよこれよぉ!この器が欲しかったのよぉ!」
己が生み出した異能の威力に驚きを隠せない哀歌さは破壊の力に酔いしれる。
「術式を発動しなくてもぶっ放すだけでこの威力っ、クフフフフフっ!さすがは剣呪の姫君の肉体といったところねぇ、私の形代として十分すぎる素質だわぁ。」
歓喜の声を哀歌の右手で、いつの間にか抜かれていた日本刀から放たれる赤い光が、爆風が哀歌によって生み出されたのだということを物語っている。そのまま深夜は50メートルも吹き飛ばされただろうか。ブスブスと嫌な音を立てながら丸焼けになった深夜は地面に転がった。
「ぐふっ、げほっ…はぁ、はぁ…くそぉっ」
爆風から解放され、深夜の肺に急激に酸素が入り込む。そのせいか、うまく息を吸い込むことができない。体全体でゼェゼェと息をしながら身を焼かれながらもなんとか手放さずに済んだ刀を支柱に立ち上がる。
「あらぁ?生きていたのねぇ」
「消し炭にしてやるって割には大したことなかったよ…」
そう深夜が憎まれ口を叩いた瞬間、再度爆風が深夜を襲う。5メートル上空に打ち上げられた深夜は受け身をとることもできず、そのまま地面に激突する。その姿を眺めながら哀歌は愉快そうに笑う。
「そんなに死に急がなくてもいいんじゃなぁい?」
そんな哀歌への意地で深夜はまた立ち上がる。すでに死に体、てっきりもう起き上がれまいと思っていた哀歌の片眉が上がる。
「…さすが、落ちこぼれだとまともに死ぬことすらできないようねぇ」
「し、死ぬ方法なんて教わってこなかったからね」
減らず口をたたく深夜に、哀歌がニヤリとする―これまでの笑みとはまた違った感じに。
「ふふっ、ほかのやつらと同じ異能しか頭にない脳筋だと思っていたけど、案外そうでもないようねぇ」
一応、冗談が通じるらしい。
「哀歌、意外とジョークとかってわかるんだな」
「あらそう?まあこの『器』はお堅そうなものねぇ」
「……」
やはり聞かずにはいられない。今、目の前で何が起きているのか、それを確かめなければ。深夜は単刀直入に問いただした。