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剣呪のウルティマ  作者: くつかけ
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プロローグ1-7 残酷な依頼

数分もしただろうか。哀歌が覆いかぶさったまま口を開く。

「深夜、お願いがあるの」

「な…なに?」

どぎまぎと少年が聞き返すが、それ深夜にとって残酷極まりないお願い事だった。

「もし…もし私が次おかしくなったら…」

そういうと哀歌は深夜の服を強く握る。


「これで私を斬ってちょうだい」


最初、深夜は何を言っているのか理解できなかった。しかし、時がたち頭がその言葉を受け入れていくと同時に血の気が引いていく。

「哀歌…なにいってるのかわかってるの?」

「わかってる。あなたにしか頼めないの。」

「…」

「できるよね。その刀、特別製なんでしょ?」

そういうと哀歌は服を握っていないもう片方の手で深夜の持っていた刀に触れる。

「大戦の負の遺産、無銘にして禁断の剣呪特攻兵器…そうでしょ?確か連合国側からはコードネームが付けられていたらしいよね。確か…そう『ウルティマ』じゃなかったっけ」

深夜は素直に驚いた。この刀は確かに特別製だ。しかし、まさかばれていると思わなかった深夜である。

「し、知ってたんだ…」

「もちろん。弱いくせに無駄に物知りな深夜だったらいつかやるかなって思ってた。まあ、わたしに使うとは思ってなかったけど逆に良かったのかもね」

力なく、しかし興味深いものを見たからかくすくすと笑う少女。

「いったいどこから調達したのかしら。終戦後に残ってた分は全部アメリカに接収されて廃棄されたって聞いていたんだけれども。」

「ひ、秘密…」

気まずげに目をそらす少年。まあほぼほぼ泥棒同然に盗み出してきたのでなんとなく言いずらい。哀歌はそんな深夜の頬を笑いながらツンツンとつつく。

「へー、好きだって言ったのに教えてくれないわけね。秘密主義の男って案外かっこ悪いわよ」

「ひ…秘密は秘密…ってかそこまで知ってるんならこれで切ったらどうなるかも知ってるんじゃ」

「間違いなく死ぬ、でしょ?」

「なっ!?それならなんで…」

「そうしなくちゃいけないの。あなたさっきの影を見たでしょ。あれは消さなければならない。」

そこまでいうと哀歌は一息付けて吐き出した。

「私と一緒にあの影を殺すのよ」

「そんなのできないよ!なんか別の方法があるんでしょ!」

当然ながら拒絶の意を示す深夜だったが哀歌が意を翻すことはなかった。

「別の方法なんかないの。ねえ、深夜…」

哀歌の手がいとおし気に深夜の頬を撫でる。

「約束…してね。私、あなたに好きって言ってもらえてうれしかった。本当はもっと一緒にいたかった…まあもう無理だけど」

「む、無理だなんてわからないし…」

「あなた死んだ人間とどう遊ぶわけ?ま、いいけど。あと、さっきの告白の返答はしないことにしておくね。あなたにとって『呪い』になってしまうから」

「…」

まるで今生の別れかのような言葉ではないか。そう言おうとした深夜だったが、口にすることはなかった。その代わり深夜は気づいた。影が、哀歌に流れ込んでいた何者かの影が消えている。そして哀歌の異変がその体に及び始めたのもそれと同時だった。

「もう…、無理。抑え…切れない」

少女はガタガタと震え、苦しみだすと深夜から体を引き離し、体を引きずるように距離をとった。

「まさか!?」

深夜は苦しみにのたうち回る少女を凝視する。スカートから延びる脚やセーラー服のすそから覗く腹部にその異変は確かに起きていた。まるで黒いうろこのトライバルのような文様が滲み一つない白肌にうごめいている。影は消えたのではない。すべて入りきったのだ。

「哀歌、しっかり!」

駆け寄る深夜に気づいた哀歌が焦り叫ぶ。

「く、深夜!?近づいちゃダメ駄目っ」

だが実際に出てきた声はあまりにも弱弱しく、叫びとはお世辞にも言うことができず、そして目の前で哀歌を開放する深夜の耳には届くことがなかった。

ふいに、哀歌が苦しむのをやめた。うつぶせに這いつくばる少女がむくりと顔を上げ、深夜が安堵の表情を浮かべる。

「哀歌…もう大丈夫なのか…!?」

悪寒。その時に感じたものをあらわすとしたらそういうほかない。少年がその場を飛びのく。間一髪、深夜がそこまでいたところに炎が薙ぎ払う。

「哀歌…哀歌!?」

少年の呼びかけに応じるかのように炎が掻き消え、少女が現れる。まるで先ほどまでの苦しみようが嘘であるかのように悠々と二足で立っている彼女はこの一帯を襲撃した破壊者そのものだった。

「おまたせ、楽しめたかしら。でも、もう時間切れよ」

凶悪な笑顔で美貌をゆがませる。そこに少年に告白されて赤面していた乙女はいなかった。

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