第三章-24 暴力系陰陽師本領発揮のとき
アイシャ、彩八の二人組と風美土里大吾、ドッペルゲンガーたち。二つの勢力が真っ向から対峙している。戦いを知るものならばその合間にバチバチと散る火花の幻を見ることができるだろう。そんななかで戦いの火蓋を切り落としたのは深夜を傷つけられたことに怒り猛る少女、アイシャだった。
「生きててくれて嬉しいわ……死んでたら殺せないものねぇ!」
その言葉が言い終わらないうちにアイシャは手元から銃弾のようなスピードで式札を飛ばした。一見ただの紙だが、陰陽師が放った式札ともなれば話は別だ。危機を察したピラニアはさっと体を交わす。標的をとらえられなかった式札は徐々に推進力を失っていき、そのまま落ちていった。思ったよりは大したことないと大吾が頬を歪めたその瞬間、その背中を異様な熱気が焦がした。思わず振り返った大吾はうめき声を漏らした。大吾の前に広がっていたのは焼夷弾でも落とされたかのような焼け野原だった。そこにあるはずの山下公園の美しい眺望は一瞬で消し飛ばされていた。それだけではないよく見ると彼方此方に人のような形をした炭のようななにかがいくつも突っ立っている。それが己の配下のドッペルゲンガーだったものだと気づくのにさほどの時間はかからなかった。彼らは声を上げることもなく焼かれたのだ。それも大吾が式神を交わし、そして熱を感じるその一瞬で、だ。
「着弾と同時に付近の土壌を粗製ガソリンに錬成し、そして式そのものを火口として着火すしてあたりを燃やし尽くす……名づけるならばナパーム式神といったところかしら。」
「!?」
背後からかけられた声に思わず向き直る大吾。
「いかがかしら?私の式は。鳥だ虫だにちまちま変えるよりも、まあ見てくれは悪いけど威力、信頼性、即効性どれも一級品ね?」
「ちまちまやるのは性に合わないといったところですか……」
これまで何度か手合わせした経験で勝手に搦め手専門だと思っていた大吾は時間稼ぎとばかりにそう尋ねた。
「……あたし、すっごく怒ってるの」
それが答えだとばかりにアイシャは式札の二投目を解き放つ。燃やされてはたまらんと十分に距離をとったが今度は式が着弾すると円形に強烈な爆風が広がった。突き飛ばされるようにあごろごろと転がる大吾はなんとか顔を上げるとそこにアイシャが立っていると気づいた。大吾がはっとするのとアイシャが大吾の腹を蹴りあげたのはほぼ同時だった。
「ぐっ!?」
思わず腹筋に力を込めるが間一髪で間に合わない。鈍痛と衝撃を感じると同時に大吾の体は宙を舞い……そしてそのまま力なく崩れ落ちて動かなくなった。
一部始終を見ていた彩八は舌を巻いた。こんな暴力的な戦い方をする陰陽師など聞いたことがない。
「あなた……本当に陰陽師なんですの?」
そう漏らす彩八にアイシャは少しだけ得意げにこういうのだった。
「当然よ。これでも深夜の『妹』で雇い主だもの。」




