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剣呪のウルティマ  作者: くつかけ
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第三章-21 ピラニアの正体見たり

うかつだった。アイシャが異変に気付いたのは大吾が凶行に及ぶその寸前だった。自分には知らせられない話をするなら仕方ないと反らした目の端で何かが煌めいた。普段だったら気にも留めないようなその光線を、刃物なのではないかとアイシャの本能が告げた。慌てて止めに入った目の前で深夜のどてっぱらにナイフが吸い込まれていった。深夜の身にその刃が埋まるその瞬間まで深夜は己がさされるということに気づきさえしなかっただろう。

「深夜っ!」

いっぱしの異能者とも言おう物が田舎のボンボンの短刀一本を見逃すとは情けない。アイシャは己を呪った。とにかく、まずは深夜を救出しなければとアイシャは走った。アイシャが駆けだしたことに彩八もやっと異変を察したようで共に駆け寄ろうとする。だが駆け寄ろうとするアイシャに大吾は抜き放った日本刀を突きつけて制する。

「おっと君、近づくなよ?前みたいにまた式神でまやかしを使われると厄介だからね」

思わず歩みを止めるアイシャ。その目の前で大吾は抜身の刀身に風をまとわせるとその切っ先を倒れる深夜に当てた。

「過去の朋友というだけでこうも隙を見せるとは思わなかったよ。『初めてここで会った』時からそうするべきだったのかもしれないね。異能の育成?ブリーディング?それっぽい与太話を作るのに随分手間だったよ。」

ずいぶんと思わせぶりな言い方だ。大吾のいいぶりにアイシャはそう感じた。

「『初めてここで会った』?……ほんとうは昔馴染みじゃないみたいなことをいうのね」

すると大吾はニヤリと笑った。

「ああ、そうだね。そうだよ。風美土里大吾と三ヶ月深夜は幼馴染だ。だが……」

そういうと同時にどこからともなく現れた黒布が大吾にまとわりつく。それは徐々に服のような形をとっていく。だが変化はそこだけに及ばない。大吾のまとっている雰囲気そのものが全く別人のそれに代わっていく。

「不思議なことに『私』と彼が出会ったのはまだここ数日の話なのですよ」

そう言い終わったときにアイシャの前にいたのは黒いフードを被った『何者か』であった。だがその人物はそれこそここ最近アイシャも見知った敵、そしてピラニアだった。

「こちらの見た目のほうが親近感……湧きますかねぇ?」

もはや口調すら大吾のそれとは似ても似つかぬ慇懃無礼。

「まさかあなたが裏切っているなんてね。できれば理由を教えてくれるかしら?」

「それは質問の仮定から間違っていますねぇ。いったでしょう私と深夜さんは数日前に初めて出会ったのだと。」

そういってピラニアは被っていたフードを上げる。暫く陰に隠れていたピラニアの容貌が明らかになっていくとおもにアイシャの目が大きく見開かれていく。フードの下にあるべき大吾の顔は、大吾の付き人である千尋の顔に代わっていたのだ。だがそれだけでは終わらない。『千尋の見た目をした』ピラニアの顔が徐々に歪み、微妙に目鼻顔立ちが変わっていく。その変貌が終わりに近づくにつれアイシャは顔をひきつらせた。暫くしないうちにピラニアの顔はアイシャの顔に代わっていたのだ。だがピラニアはもっと派手な反応を予想していたらしい。アイシャの顔で持って不満そうに鼻を鳴らした。

「……せっかくサービスしてあげたのですが、あまり驚かないようですねぇ」

「まあちょうど今日似たようなのを見かけたのよね」

「なるほど……時節がよければその方にも会ってみたかったですねぇ」

見かけたどころかいまもここにいるのだが。どうやらピラニアは夕方に出会った白髪の幽霊少女とここにいる彩八が同一人物だということを知らないらしい。

と、そんなときピラニアの変貌をみていたアイシャの脳裏にとある『怪物』が思い当たった。

「ドッペルゲンガー……」

もう一人の自分が目の前に現れるという言い伝えだ。

「ええ、この姿を見れば誰でも気づきますかねぇ……まあ人間の名前で呼ばれるのは気が進みませんがそうです。『我々』は人にあらず、怪異ドッペルゲンガー、すなわち影法師の一族です。」

正体を言い当てられたピラニアはあっけなくそれを認めた。だがドッペルゲンガーという伝承はそれだけでは終わらない。それを見たものは死ぬという怪談。だがその真実は人間を喰らい、そして喰らった人間に化けて成り代わって生き続けるという怪物だ。

「であればもうこの顔を見せた時点でお気づきでしょう?あなたはここで終わり、そしてこれからはあなたの生涯を我々が引き取る。」

目の前のピラニアと同種の気配が一気に増幅する。四方八方から刺さる視線にアイシャはあたりを見渡す。あちらこちらからピラニアの部下の死神装束……いやピラニアと同じ何者かに化けたドッペルゲンガーだろう者たちが近づいてきていた。

「……窮地ってやつかしら。やってくれるじゃない。」

完全に追い詰められたことを悟ったアイシャは苦々し気にそれでも強がりで笑って見せるのだった。


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