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剣呪のウルティマ  作者: くつかけ
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第三章-15 風美土里家の血

旧八句の剣呪使い達にテロ、つまり反逆の疑いがかかった。それはつまり警視庁、ひいては国家と敵対するということか。深夜自身も似たような境遇とはいえ、一個人がが罪人として追われるのとはスケールが違うことの大きさに深夜は身震いした。

「とはいっても剣呪の里はほとんど気にかけてなかった。本当なら大事だけど所詮誤解だろうってね。例え管理局が束になってかかってきても余裕で返り討ちにできるだけの戦力はあるからね。」

「なんだそれ、俺の身震いを返せ」

「それだけの差があるってことさ。確かに君が剣呪使いをたくさん殺したかもしれない。それでもまだ剣呪使いは沢山いるのさ。それこそ国が雇っている烏合の衆なんかとは比べ物にならないくらいにね」

なるほど。それならば気にする必要はないかもしれない。だが、それならばなぜその嫌疑が今回の話につながってくるのだろうか。

「だが管理局から話が漏れ伝わるにつれて話が変わってきた。反逆の嫌疑がかかった理由。それはここ、横浜付近で異能者たちが徒党を組んで戦闘行為を行っているものがいる、ということだった」

「それは……鋸刺鮭ピラニアのことか」

「そうだと思われる。そして……彼ら管理局曰く鋸刺鮭ピラニアとその配下の『異能バトル』を繰り広げている者たちは剣呪使いらしいんだ」

「なっ!?あいつらが俺たちと同じだっていうのか?」

深夜は信じられない、という顔をした。

「そうだろう?剣呪の力が持つ者たちが武装集団と化しているかもしれない。旧八句の人々も誰も信じなかった。否、信じることができなかった。それを認めることで里に亀裂が入る可能性があるからだ。旧八句の、剣呪の里の中枢部は大いに焦った。」

なるほど、剣呪使いだということが本当であれば彼らは旧八句の剣呪使いの誰かの子であり、そして友人であるということになる。それが本当だということになれば彼らをかばう者、彼らを断罪するものと文字通り剣呪使い達が二分されてしまう可能性もある。とはいえ一笑に付することもできなかったんだろう。

「結局、管理局の言うことは信じることができない。だが、最近妙に多い剣呪使い行方不明者の件とも妙に時期があっているから不安はぬぐい去ることができない。とりあえず剣呪使い自身の目で見なければ話にならんということになった。それで……僕と千尋が転校という名目で調査に来たわけさ。」

なるほど。それでここまで来たわけか。調査にはある程度の信頼が求められる。剣呪使いには同世代もたくさんいたが家格の高い大吾が来るのにはそこら辺の事情もあるのだろう。

「それで、あいつらは本当に剣呪使いだったのか?」

そう深夜が問うと大吾はしばらく言い淀んでいたが言いにくそうに切り出した。

「おそらく、それで間違いない」

「……何かの間違いとかじゃないのか」

深夜とてもう同族と戦いたくはない。そんな望みをかけたものの大吾はそれを切って捨てた。

「戦った瞬間わかったよ。なぜかって?……あの鋸刺鮭ピラニア、そしてその配下の死神装束たちが使う風の異能は、あれは未熟で初歩的なものだったが風美土里家、つまり僕の一族のものと同じだったんだ」

ほかの異能と同じで剣呪の力は基本的に血で繋がる。つまり見る人が見ればわかるのだろう。

「そしてもう一つ。鋸刺鮭ピラニアはものを分身させる能力を有している」

「あのナイフをたくさん出すやつか……」

「そう、実体を有しているからに単純に分身と断定していいのかはわからないけどすくなくとも風美土里家の能力にそんなものはない。これまで旧八句で生まれた風美土里家の縁者を全員調べたが他家と交ざった子でもそんな組み合わせはなかった。」

深夜はだんだん話が呑み込めてきた。剣呪からの出奔者、未知の剣呪使い、そして能力の交雑。

「大吾、つまりお前はこういいたいわけだ。風美土里家の血が、剣呪の力が盗まれているってな。」

大吾はうなずいた。

「そうだ。恐らく鋸刺鮭ピラニアは旧八句から消えた剣呪使い、そして風美土里家の人間と誰かほかの異能者の子で、そして剣呪の里が反逆の疑いをかけられることにになった張本人だ。」

そしてこう続けたのだった。

鋸刺鮭ピラニアが風美土里家の力を引いていることはまだ旧八句には伝えていない。伝われば剣呪使いと国家の信頼を損なった一族とそしりを受けるからね。だから……この問題はなんとしてでもここで解決しなければならない。例え彼らを皆殺しにしたとしてもね」

そう、悲壮な決意を固める大吾。深夜は突然目の前に現れた剣呪というつながりに言いえぬ不安を覚えたのだった。


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