第三章-10 起死回生の式紙吹雪
死神装束が肉食獣が獲物を狙うかの如くじりじりと深夜に近づいてくる。いくら深夜に実践の経験があろうと徒手空拳では太刀打ちできまい。今度こそ深夜に決定打を入れんと鋸刺鮭が号令をかけた。
「さぁ、我が子らよ屠りなさい!」
待ってましたとばかりに死神装束たちが深夜に躍りかかる。だがそのとき。
「なんだこれは……?」
異変に起きたのはその時だった。あたり一面に何かが漂い始める。それは白い花びらのような何かだった。夕方も遅くなり、街灯もついてきたあたりに舞うそれは、灯りを反射してよく目立っている。
「これは……紙ですか?」
目の前に舞うそれを摘んで見た鋸刺鮭が確かめる。深夜も落ちているそれを拾ってみる。それは学校ではよく見かける藁半紙だった。細かくちぎれた藁半紙が紙吹雪のように舞い、漂っているのだ。
そしてさらなる異変が起きた。
「うわぁ!なんだ!」
そこここで悲鳴が起こった。漂う大量の紙吹雪が死神装束たちに張り付き始めたのだ。必死で振り払おうとする者のすでに何人かは紙に体中を覆いつくされ、視界をふさがれてひっくり返っている。紙吹雪は狙いすましたかのように死神装束たちだけを襲っている。まるで意志を持ったかのような紙吹雪。それを見た瞬間目の前の現象を起こした主を深夜の思考がはじき出した。
「(これはアイシャの式神だ!)」
間違いない。見た目はどうみても式神には見えないがどこからかアイシャが操っているのだろう。
それに気づくと同時に最後の異変が起きた。深夜の背中に突然重量のある違和感が生まれる。手を伸ばすとそこにあったのは折れた日本刀だった。熱と振動の呪剣、百禍日だ。背中から呪剣を抜き取る深夜の口元に笑みが生まれる。
「気が利くじゃねぇか……」
鋸刺鮭の方を見るといまだに紙吹雪やそれに襲われる配下に目がいっている。こうなればこっちのものだ。異能者の戦いが数ではないことを教えてやる。深夜は歯をむき出しにして呻った。と、同時に刀が奇怪な金切り声を上げながら高熱を発し始める。百禍日の振動の力で呪剣自身の表面温度を急激に上げているのだ。百禍日の異常な熱を感じ、そして音を聞いた鋸刺鮭がバッと振り向く。
「なっ、いつの間に!?」
フードで隠されたその顔に驚愕と焦りがうかがえる。鋸刺鮭が深夜たちに向かって先ほど同様に無数の短刀を生み出した。深夜は口元に笑みを浮かべた。確かに……その技はその単純さに反して強力だ。だが……
「残念だが、そのマジックはもう使えないぞ。」
なぜならすでに深夜が繰り出す技は展開完了しているからだ。アイシャの無数の式神で形作られたそれを後は深夜自身があと一押しするだけで決することができるのだ。そして……深夜はその一押しを無慈悲にもためらわなかった。
「行くぞ百禍日!灰燼せ!」
深夜が呪剣に叫び命令する。その瞬間、あたりに舞う紙吹雪が一気に引火し、そして鋸刺鮭と死神装束たちは炎に包まれた。




