第三章-7 深夜の名推理
ピラニアはフードの奥で口を開いた。
「それにしてもこんなところで会うとは思いませんでしたねぇ」
それはどちらに向かっていったのだろうか。深夜か、大吾か。
深夜の腕の中には息も絶え絶えの大吾。そして目の前にはおそらく大吾に攻撃を仕掛けたのであろう鋸刺鮭。「大吾=異能バトルの首謀者=鋸刺鮭」だと思いこんでいた深夜はこれ以上不意打ちを受けないように周囲に視線をやりながらも思案した。真相はいまだ分からないが平和に事を終えることは難しそうだ。深夜は後ろに控えていた少女のほうを向いた。
「離れてろ。できれば隙を見て逃げろ」
正直ここまで包囲された状態で二人もかばえる自信はない。であるならば大吾をかばうのに専念したい。そんな深夜の心中を察したのだろう。少女は何も言わずに頷くとおずおずと距離をとった。そんな様子をみたピラニアが驚いたような声をあげる。
「46番?46番ではないですか!?まさか生きていたとはねぇ。」
後ずさりの最中に鋸刺鮭にそう呼ばれた少女は困惑した症状でピクリと浅井を止めてしまった。
「46番?それはお前の名前……なのか?」
それとも識別番号か何かだろうか。深夜がそう問うが少女のほうは戸惑ったままだった。
「わからない……でも……」
そこまでいうと46番と呼ばれた少女は鋸刺鮭のほうをにらんだ。
「聞き覚えはあるってことか」
ビンゴだ。「異能バトルの首謀者=鋸刺鮭」ってところのラインはあたっていたらしい。少女に睨まれた鋸刺鮭は笑った。
「そんな目をしないでくださいな。私にとってはあなたは子供のようなものですよ」
「それはその娘に異能の力をくれてやったという意味でか?『異能バトル』のゲームマスターさんよ」
深夜がそういうと鋸刺鮭が不快そうに鼻を鳴らした。
「異能バトル?ああ、巷ではそう呼ばれているのですね?」
「ああ。大方の手口も知れている。」
「ほう?興味深い。当たってたらこの場を見逃してもよいですよ。」
外れだったらこの場で殺しますが、と最後にそう付け加えた。だがそれにしても良い取引になりそうだ。深夜は目の前に人差し指を立てた。
「理屈は簡単だ。お前は……呪具をつかってこいつらに異能の力を与えた。だがそれだけでは説明はつかない。」
「でしょうねぇ……呪具は異能者が使うもの。すなわち使用者が魔力なりなんなりを呪具に通すことによってはじめてつかうことができる。つまり異能者ではない人間はそれでは異能の力を得ることはできません。」
「だが剣呪なら……それが可能だ。剣呪特攻兵器ならばな!」
太平洋戦争中、物量に劣る日本軍が生み出した一般兵に命と引き換えに異能の力を与える呪剣。それならばどんな人間だろうと異能の力を手にすることができる。
「多くは戦後のゴタゴタで散逸しているが、それでもどこかには眠っているだろう。」
「なるほど、あなたの兵装剣呪ウルティマのようにですか」
手の内まで知られていたか。いよいよこの男、鋸刺鮭の正体が不思議だが深夜は一先ず話を続ける。
「鋸刺鮭、お前と前にやりあった時のことを思い出してな。随分たくさんナイフをバラまいてたな。分身、複製の異能の使い手だ。」
最初は大吾と一緒にいた千尋の能力だと思っていただ、この状況を鑑みるにそうではなさそうだ。
「お前はウルティマのような特攻の呪具を盗み出したと。そして複製してばらまくことで異能者を増やしたってことだ」
鋸刺鮭はそこまで聞くとふはっとため息をついた。
「確かに……それならば理屈は通っています」
深夜の口角が持ち上がる。
「まあな、伊達に異能者やってない」
だがその後深夜の耳に入った言葉はその顔を引きつらせるのに十分たるものだった。
「残念ながら、あなたはここで死んでもらいます。約束通りね」
「えっ」
深夜があんぐり口を開ける。どうやら深夜の予想は外れらしかった。




