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剣呪のウルティマ  作者: くつかけ
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第二章-6 名家の剣、裏切り者の剣

アイシャと大吾、二人の間に挟まれるような形で押し入った深夜は背後にアイシャをかばいながら折れた刀―呪剣百禍日でつばぜり合いしながら大吾をにらみつけた。

「あんまり騒がしくするなよ。」

「深夜……邪魔をするな!」

一族の仇が割っていったからか、それとも単純に獲物にとどめを刺す機会を奪われたからか、大吾は理知的な顔を歪めて敵意をあらわにする。深夜はニヤリと笑った。

「そんなにやりたい……というなら俺が相手してやるよ」

大吾は目を見開いた。その一瞬、隙が生まれる。それは戦いなれた者…つまり深夜には十分すぎる隙だった。深夜はすかさず足払いをかける。

「なっ!?」

異能者の戦いとは異能の技の応酬、そう学んできた大吾に白兵戦の経験はないに等しい。なすがままに態勢を崩す。それでもなんとか二本足で立ち続けるが、それだけで深夜は許さなかった。大吾をはらった足をひくとそのままみぞおち近くに足刀蹴りをお見舞いする。急所にもろ蹴りをくらった大吾は口から息を吐き出しながら突き飛ばされるように引き下がった。

「ゲホゲホっ……くそっ!」

せき込み、たたらを踏みながらもなんとか立つ。

「ふ、ふん、やっとやる気になったか」

なんとか声をだしてそういう大吾に深夜は手をパーの形にして大吾に見せた。

「ああ、やってやる。5秒だけな。」

その宣告に大吾は怪訝な顔をする。

「なんだと?」

「いっただろ。騒ぎにはしたくない。ずっと遊んでやる気はないからな」

それを聞いた大吾は激高した。

「この僕を馬鹿にしてるのかぁぁぁぁ!」

だが深夜はそんなことはどこに吹く風とばかりのすまし顔だ……つまり本気で5秒をかたをつけると、そういっているのだ。それに気づいた大吾は歯をむき出しにして呻った。

「お前……自分が落ちこぼれだったことを忘れたわけじゃないだろうねぇ」

剣呪の里、旧八句での深夜、そして一族の扱いをあげつらった挑発。だが、

「さぁな。昔のことすぎて忘れたな。」

深夜はそんなことは意に介さずに呪剣百禍日を構えなおし、それで地面を横一文字になでた。まるで自分の縄張りを宣言するように。

「そうか……じゃ、この僕が思い出させてやらないとな!!」

大吾はそう叫ぶと得物の呪剣をかまえて深夜に飛び掛かった。


1秒


その歩みにあわせるように深夜は後ずさりする。大吾はそんな深夜をあざ笑った。

「おいおい!もう怖気づいたのかい!?」

深夜はそのまま後ろに下がっていく。


2秒


しかしそんな深夜の引きは思わぬところで阻まれた。

「!?」

深夜の背中にかしゃりと音を立てて何かがぶつかる。後ろをみるとそこは屋上のフェンス。深夜は知らぬ間に追い詰められてしまっていた。


3秒


大吾は呪剣に風をまとわせて深夜にむかって襲い掛かってくる。その刀身に触れただけでも腕の一本簡単に消し飛ぶだろう。

「もらったぁ!!」

勝ちを確信した大吾が叫ぶ。


4秒


だがその瞬間、


ボシュッ


襲い掛かる大吾の首元で何かがはじけた。

「あっ……」

延髄に衝撃を受けた大吾がうつろな声を上げながら崩れ落ちた。ここまで、5秒。

「大吾!!」

一部始終をみていた千尋が悲鳴を上げて大吾に駆け寄り、助け起こした。深夜にかばわれ、いったん距離をとっていたアイシャも近づいてくる。

「アイシャ、怪我はないか?」

「あ、うん……いったい何をしたの」

風で乱れた髪を整えながらそうきくアイシャに深夜は百禍日を見せて答えた。

「罠を仕込んでたのさ」

アイシャが怪訝な顔をする。

「仕込んだ?」

「振動の力で収縮した空気をこの位置に作っておいたんだ。ちょうど、どっかの馬鹿が風の力で刺激したらはじけるくらいのをな」

それは大吾が深夜に襲い掛かる直前、深夜が百禍日で地面をなでたそのときであった。呪剣の動きで空気の対流を作り上げ、それを振動の力で内側に押し込んだのだ。あとはそれがはじけるのを待つのみ。襲い掛かる大吾から深夜は逃げるようにその場を離れ、そうとも知らなかった大吾が風をまとわせた呪剣をもって近づいた結果こうなったわけだ。

「こ、こんなんでやられるとはな…」

意識を取り戻した大吾が憎まれ口をたたく。

「いっただろう。5秒だ。」

表情を変えずにそういう深夜。大吾は舌打ちをすると深夜をにらみながらなんとか立ち上がり深夜に背をむけて歩き出した……屋上出口のほうへと。どうやら今回は引き下がるようだ。

「千尋、用は済んだ。いこう。」

「わ、わかった」

大吾に呼ばれた千尋もそれに続く。だが、


「ちょっと待ってくれ」


立ち去ろうとする大吾を深夜はいったん呼び止めた。

「大吾……一つだけ聞かせてくれ」

大吾が歩みを止める。

「……なにかな?」

「お前……どうしてこんなところに来たんだ」

「それがどうかしたのかい?」

「風美土里家は剣呪の中でも名家の中の名家。唯でさえ、里の外にはあまり出ない剣呪の名家の人間の中でもその後継者となれば一生を里を過ごすといっても過言ではないだろ?」

大吾は深夜のほうに向きなおった。

「それで?」

「大吾、風美土里の跡取りともなれば、15歳を過ぎればどこかの女に子を……さらに未来の跡取りを産ませろなんていわれてもおかしくない。剣呪の名家にとってはその血筋を伝えるのが何よりも先決だからな。千尋がそばにいるのも『その為』なんだろ?」

千尋と大吾はそれを聞いて何も答えない。それを無言の肯定だととらえた深夜は再び、こう問うた。

「大吾、どうしてお前がここに来たのか教えてくれ。名家の人間がこんなところにくるはずはないんだ。」

大吾はしばらく黙っていたが。再び踵をかえすとこう言った。

「それを君に……裏切りものに教える必要はないな」

やはり、というか深夜の予想通りの返答を残すと大吾はそのまま屋上から下階への入り口に姿を消した。

「……」

残された深夜はしばらく何もせずに立ち尽くしていた。ある一つの予感を感じ取ったからだ。それはアイシャも同じだったらしい。

「風使い……最近似たような相手がいたわね」

「そうだな……ちなみに、千尋の実家、梅ケ谷は幻覚系の剣呪を使う家だ。それこそ分身とかな」

深夜は目を細めた。できれば同郷の人間は疑いたくない。それは故郷を捨てた深夜にとって最後心の砦なのだ。だが今回はそれは許されない。その甘さはどれほどの被害を生み出すかわからないのだ。深夜は苦渋の判断でこう結論付けた。

「あいつが……あいつらが『ピラニア』だ」

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