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剣呪のウルティマ  作者: くつかけ
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第二章-3 剣か情か

同郷の転校生、大吾と千尋が現れた朝礼の後。深夜は授業をひそかに抜けだして、学校の屋上にいた。理由は簡単だ……二人に極力接したくなかったから。幸い、今は二人とも突然の転校生の報に沸くクラスメートに囲まれて身動きが取れないのであちらからのアクションは何もない。


「(というか、バレたら終わるな……)」


大吾と千尋……いや、すべての旧八区出身の剣呪使いにとって深夜は多くの同胞を殺した虐殺者、つまり仇敵だ。もちろんそれは実際には濡れ衣である者のそんなことを知っている人間は自分と異能管理局、そしてアイシャくらいしかいない。そんな状況で自分の存在が露見すれば……


「タダじゃすまないだろうなぁ……」


っというか十中八九戦闘になるはずだ。と、そこまで考えたところで背後から声がかかった。一瞬深夜がびくりとするが。振り返ってみるとアイシャだった。深夜はほっと胸をなでおろした。

「授業、さぼってていいわけ?」

長い黒髪を風でたなびかせながらアイシャはにんまりと笑った。深夜は目を反らした。

「それどころじゃねぇ……」

アイシャは表情を変えずに首をかしげる。

「強いの?」

大吾と千尋についてアイシャが問うと深夜は力なくうなづいた。

「ああ。大吾は…あいつの家、風美土里の一族は剣呪の名門だ。あいつはその跡取りだ。」

「あの千尋ギャルの方は?」

「あいつもなかなかだ。梅ケ谷家は風美土里の分家筋。実力はともかく素質は相当だろう。二人とも並大抵の異能者じゃない。」

暗に自分では敵わないという深夜の考えはおそらく正しい。正直、血統的に優れているわけでもなく、特に才能に恵まれなかった深夜の「素の能力」は異能者全般で見てかなり低い部類に入る。精々、霊的なものが人より見えて、簡単な呪いを使える程度である。どちらかというと霊感の強い一般人という枠組みに近い。そんな深夜が追手とは言わずとも異能で戦えるレベルの使い手に当たれば瞬殺されることは必定である。下手をすると相手が幼児でも血統さえ優れてればかくやといったものだ。

もし今、深夜が二人の手にかかれば間違いなく死ぬ、もしくは生きているといえるかどうかというところまでこの身に責め苦を追うだろう。たとえどんな事情があろうとも異能者の組織において脱走とは罪深いのだ。それに加えて深夜は剣呪の担い手にとっては史上最大の罪人なのだから。

「ま、そういうわけで俺じゃかないっこないな。」

「……それで?」

そう説明する深夜をアイシャは意地悪そうに見つめる。深夜がばつが悪くなった。

「なんだよ」

「大事なことを話していないんじゃないかしら」

「……なんでそう思う」

「あなたの実力は私が一番知ってるもの。」

深夜は自嘲気味に笑った。

「買いかぶりすぎだ」

「そうかしら。例え相手が名家の出とはいえそれが直接戦闘には生かされない。それはあなたがこれまで私に魅せてくれたことで証明されているでしょう?」

そういわれると深夜は押し黙ってしまった。

「呪剣百禍日とウルティマの二振りを使えばこれまで負けはしなかったじゃない。」

そうなのだ。確かに素質はない。しかし深夜には職業軍人系の異能者でも得られないような戦闘経験とそれを支える強力な呪剣を有している。そうそう負けはしないだろう。いや、戦闘訓練すらまともに受けていない異能者など片手間で屠れるはずだ。にも拘わらず深夜は二人を戦うことをためらっている。とそこまで考えたところでアイシャは結論を下した。

「あの二人に情があるわけね」

「……ああ。あの二人に負ける気はしない。だが、間違いなくあいつらを殺すことになる」

アイシャは首を傾げた。

「別に故郷を出た異能者なんて何がおきても不思議じゃないじゃない」

暗にさっさと殺してしまえというアイシャを深夜はにらみつけた。

「ふざけるな!あいつらをなんだと思ってるんだ!」

アイシャは口元を歪める。

「べつにぃ?しいて言うなら……」

そういうとアイシャはススっと深夜にすり寄る。そして深夜ののど元に口を這わせるとこう言った。

「愛しのお兄ちゃんを奪うような輩は地獄に堕ちればいいのよ」

「っ!」

深夜はアイシャを突き放すように距離をとった。

「さ、決めて頂戴。あの二人を始末するなら手伝うわ。もしその気がないなら私が片付ける。」

「お前……」

二人の間に険悪な空気が流れる。だがそれは話の渦中の人物の乱入によっていとも簡単に崩れ去った。

「見つけたぞ。深夜。」

屋上の入り口にいつの間にか立っていたのは、大吾と千尋。正にその人だったのだ。


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