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剣呪のウルティマ  作者: くつかけ
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第一章-7 偽りの家族

数分歩いたところで気が付くと二人は自宅の前にいた。木崎家、東急東横線多摩川駅からほど近いところにある二階建ての一軒家を構えるそこはアイシャの住まいでありそして、深夜の仮の住まいでもある。思いのほか近くまで来ていたらしい。二人は手慣れた動作で家に上がり込む。


「ただいまー」

「…」


最初のがアイシャで後のが深夜だ。なにも言わずに家に入る深夜をアイシャはとがめるような目つきで見るが、いつものことなので何も言わずに足を進める。そのときだ。


「おかえりなさーい」


パタパタと音がしてリビングダイニングからアイシャとよく似た髪質の女が顔を出した。木崎涼子、木崎家の母。温和な顔立ちに身長160cm程度の程よく引き締まった体躯は1児の母だという年の重みを感じさせない。

「(いつ見ても俺の母親とは大違いだな…)」

深夜はいつもそう思う。そうやってたびたび家族を思い出すこと自体、ただのホームシックなのだが。そんなことをおもっているうちにも涼子とアイシャはどんどん話を進めていく。

「遅かったじゃない。もうご飯食べちゃったわよ?」

「あー、深夜と食べてきたから大丈夫。」

「今日も?ほんっと、あんたたち仲いいのねぇ…ほんとは恋人かなんかなんじゃないの?」

そういいながら下卑た笑みを浮かべる涼子に深夜は冷や汗をかく。

「(すみません。俺アイシャと実の兄妹じゃないです。というかあなたの息子ですらありません)」

そんな深夜を置いてアイシャと涼子はがやがやと会話を進める。深夜は二人がつくづく家族なのだと思う。


「(そうか…もう二年になったんだな)」


深夜が故郷から逃れ木崎家の一員になりすましてからもう2年がたつ。旧八句の虐殺の濡れ衣を追っていることが分かり、逃亡を余儀なくされた深夜の最初の1年はほぼ毎日が追手の剣呪使いとの死闘の連続だった。果てには公安や宮内庁、自衛隊付きの異能者から命を狙われながらひたすらに南下する深夜を救った人物こそ、木崎アイシャだった。


「ねぇ…助けてちょうだい。その代わりに救ってあげる」


お互いが出会い、お互いに窮地。そんなときにアイシャがそういったことを深夜は忘れない。剣呪使いの三ヶ月深夜、陰陽師の木崎アイシャ。深夜はアイシャの剣となって望むままに戦う。アイシャは呪術によって世を欺き、深夜を偽りの兄として受け入れかくまう。それこそ二人が交わした『援助兄妹』の契約だった。ま、そんなせいで深夜はアイシャに生殺与奪を握られてしまったのだが。

「(おっと、思い出に浸りすぎたか)」

ついつい、そのときの情景まで思い出そうとしていた深夜は頭を振ってそれを追い出した。過去を思い返すのはまた別の機会でいいだろう。アイシャと出会ったその時のことを思い出すのは今でなくてもいい。


なんやかんやで二人が話し終わると深夜とアイシャは2階にある大部屋を襖で仕切った二人の部屋に戻った。かつて広い畳敷きだったその部屋は半分に区切られ、深夜側はベッドやデスクがある和洋折衷の様式で畳敷きを維持しているものの、アイシャ側はフローリングにリフォームされている。出口側が深夜の部屋で奥がアイシャの部屋だ。アイシャが乙女の秘密を守るためとか何とかで深夜が不要にアイシャの部屋を見れないように強硬に主張したのだ。結局何かあるときはアイシャが深夜の部屋に入り浸るようになり、青少年の秘密は守られなくなったのだがそれは別の話。


「いいかげんフレンドリーになったら?家族なんだし」

先ほどの涼子への態度をアイシャがとがめる。

「…なんかな。ほらボロが出たらまずいだろ?」

適当に言い訳する深夜にアイシャはため息を付く。深夜は暗示で偽りの家族となった木崎家で2年たった今も居心地が悪い思いをしていたのだった。

「まあいいけど」

そういうと、アイシャは深夜の部屋のベッドに座り込む。何か重要なことを話したいというサインだ。そのままアイシャは勝手に話し始めた。


「今日は久々に押されてたんじゃない?」

「いや…虚を突かれただけで負けちゃいない」

そんな深夜の強がりを聞いたアイシャがフフンと笑う。

「衰えたものね」

返す言葉もない。ま、そもそも人間の異能者相手などそれこと警察の、というよりか異能管理局の仕事なのだが。

「…まあ『人間』と戦うのは久しぶりかもな」

暫く剣呪使いの追手に襲われることもなかった。いつ来てもいいようにそちらの訓練も欠かすわけにはいかない。そのうちアイシャや黒浦に付き合ってもらうか。


「ま、私のほうは収穫があったからいいんだけどね」


「なっ!?ずっと気を失ってただろ?」

考え込んでいた深夜が驚いてアイシャをみると、丁度その時アイシャのもとへ何匹かの「折り紙の」小鳥が飛んでくるところだった。そのすべてに「録」という文字が記されている。

「…式神か」

アイシャが自慢げに頷く。

「ま、それならいい。今回の依頼は終わりだな」

暫くはアイシャから解放されそうだ。そう思っていた深夜だったがアイシャの反応は全く異なるものだった。

「いいえ、まだ終わってないわ」

手元に飛んできた式神…もとい折り紙を開きながらいうアイシャ。深夜は目を細めた。

「…異能バトルの当人は見つけたろ」

結局、最初に戦った風使いの少年は警察に引き渡された。なんと少年は異能者ではなくただの人間だった

ま、特に罪状はなさそうなのでそのまま自宅に帰るだろう。身元も確認したのでいくらでも話は聞けるはずだ。そこまで考えて深夜は一つの答えにたどり着いた。

「おいまて、まさか…」

「そのまさかよ」

そういうアイシャに深夜は首を振った。

「やめとけ。あいつはガチだ。好奇心で突っ込んでいい問題じゃない」

「ええ、でもこれは私たちだけですむ問題じゃない。この町の、いえこの国を揺るがすことになりかねない問題なのよ」

そうだアイシャは遊びでこの件に首を突っ込んでいるわけではない。警察を信じないアイシャはこの町で起こっている『異能バトル』とやらを自分で暴き、そして解決するつもりなのだ。

「(これは…面倒になりそうだなぁ)」

そうおもいながらも深夜は腹を決めた。こいつには弱みを握られている。逆らうことな不可能なのだ。そんな深夜の思いを見て取ったのかアイシャは首をかしげてシナを作りながらこう切り出した。

「『お兄ちゃん』実はお願いがあるのだけれども」

これはアイシャが深夜に何か命令するときのテンプレだ。この話し方をした場合、断るとそれ相応の制裁が下る。深夜はため息をつくと棒読みでこういった。

「おーなんだ。なんでも言ってみろ」

それを聞いたアイシャは、満足げに口元を歪めると一息ついてこう言ったのだった。

「『ピラニア』…あのナイフ使いを始末して頂戴。あれこそ私が追っている『異能バトル』の首謀者よ」

女子高生とは思えない指令、そして先ほど己を下した相手を抹殺するという内容に深夜は頭痛を覚えながら、しかししぶしぶこういうのだった。

「わかった…俺に任せろ」



(第一章 終)

わざわざ駄文に目を通してくださった奇特な方。今回もありがとうございます。

世間はクリスマスですね(これといって特筆することは何もありませんが)。


次回からは章を更新して話の展開を進める予定です。

またよろしくお願いいたします。

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