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剣呪のウルティマ  作者: くつかけ
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第一章-5 幻影の刃

鋸刺鮭と呼ばれた無数のアーミーナイフがその名を体で表すように一斉に動きだす。一本一本が必殺の威力をもったそれは機械のような精度で深夜に襲い掛かった。だがそんなものでひるむような深夜ではない。


「なめるなよ!」


そういうと深夜は手に持った呪剣百禍日を横に薙ぎ払った。その瞬間、あたりの空気が歪み分身していたアーミーナイフがすべて消し飛ぶ。最後に残った最初の一本が地面に転がり落ちた。

「消えた…幻影、か?」

厄介だ、と深夜は感じた。投げつける大量の幻の短剣の中に本物の一本を忍ばせる。初歩的だが強力な技だ。幻であるがゆえに場所を選ばず、数も制限がない。しかし攻撃を受ける側はそれを本物の前提で守らなければならない。

「じゃ、もういっちょ行ってみましょうか!」

そういうとピラニアと名乗る何者かは再びアーミーナイフを取り出した。同時に無数の分身が空中に浮かび制止する。今度は先ほどの2倍の数だ。しかし深夜は…

「(見切る!)」

深夜は全神経を視神経に集中する。たとえ分身したとして本物の一本は一本。ならばそれを見逃さなければ、その一本だけをよければよいのだ。

「さあ鋸刺鮭!こんどこそやりなさい!」

そういうと再びアーミーナイフが深夜に襲い掛かった。それを見た深夜も意を決してピラニアに向かって突進する。そのさなか深夜は己に襲い掛かるアーミーナイフに目を走らせる。

「(本物は…あれだ!)」

無数の刃の一本、どれよりも速く、一番地面すれすれを飛んでいたそれを深夜の目がとらえる。今この時、ぐんぐん深夜に迫るナイフの先頭にたつそれこそ最初にピラニアが分身させたアーミーナイフだ。

「見切った!」

限界まで本物のアーミーナイフが近づきまさに足を切り裂かんとした瞬間、深夜は地面をけり高く跳躍した。ナイフがすれ違うように通り過ぎていき…推進力を失ったナイフはそのまま地面に転がった。消えていない。やはり本物だったのだ。

「くっ!」

ピラニアが焦りの声を上げた。幻は本物と混在するからこそ真に力を発揮する。偽物しかない幻影はその存在意義を失うのだ。

「いくぞ!!!!」

深夜は走りながら呪剣百禍日に力を籠める。百禍日から呪力が放たれ周囲に熱された空気がまとわりつく。この突撃を受けたが最後生身の人間はひとたまりもないだろう―もっとも手加減をしているので気絶程度で済むはずなのだが。

「やりますねぇ!」

冷静を装いピラニアは再び懐からナイフを取り出す、再び分身させるつもりなのか。そうはさせまいと雨あられのように降りそそぐナイフの幻影の中、深夜は加速する。その顔に一本のナイフが迫る。だが

「これも偽物だ!」

深夜はそう叫ぶと頬をかすめるナイフに気にも留めずに走り続ける。だが…


「いっ!?」


突然深夜の頬に痛みが走る。「分身の」ナイフがかすめた場所だ。そこはすっぱりと切れて血が流れていた。それを見た、ピラニアが勝鬨の声を上げる。


「引っかかりましたね!」


深夜は混乱した。

「(今のは本物だったのか!?)」

確かに本物の一本はよけたはずだ。深夜はいまだ襲い来る無数のナイフを見るととっさの判断で呪剣百禍日を横に振り払う。剣から生み出された熱波が不可視の壁を作るが完全に防ぎきることはできなかった。

「ぐぁっ…!」

熱波の防壁を潜り抜けた数本のナイフが深夜の体に刺さる。深手にこそならなかったが体中を切り裂かれた深夜は苦悶の声を上げながらその場に倒れ伏した。

「全部本物だったのかって顔をしてますねぇ…いえいえ、全部さっきと同じ、分身です」

立ち上がることができない深夜に近づきながらピラニアが嗤う。

「ただ…分身だけど幻ではないんですよ」

深夜は目を見開いた。

「実体を分身させてるだと…?」

いまだに正体がつかめず、己を『ピラニア』と名乗る刺客は想像以上の手練れなのか。

「まあ、そんなところですね。消費が激しいのでそこまで多用はできませんが…」

だがその分、効果は絶大だったようだ。ピラニアはナイフを逆手に持つと倒れ伏す深夜に近づく。

「じゃ、まあ死んでもらいましょうかね。あなたの首を持ち帰れば『あの方』もお喜びになるでしょうし…」

「ちっきしょう…」

深夜は体に力をこめるが、激痛で体を動かすことができない。だがその瞬間、思いもよらぬ助っ人が現れた。静謐の山下公園に突然サイレンが鳴り響く。

「こっこれは!?」

深夜にとどめを刺さんとしていたピラニアがサイレンが下方向を見る。そこにいたのは一台のトヨタクラウン…否、サイレンを上げるそれはパトカーだ。そこから一人の屈強な男が飛び出てくる。男はピラニアに銃を構えると警告の声を上げた。


「異能管理局だ!今すぐ武装を解除しろ!」

「なに!?」


異能管理局、それは警視庁に属する異能者対応部門であり、日本で最も強大な異能者組織でもある。それを知るか知らぬか、ピラニアが後ずさる。

「これはすこし分が悪いようで…まあいいでしょう。今日はあいさつ程度ということで」

そういうとあたりにナイフの分身をまき散らす。

「くっ!」

視界を遮り、ナイフが消え去る。ピラニアは姿を消してしまっていた。危険が去ったことを確認すると男は深夜に駆け寄った。

「大丈夫か!!」

「まさか助けにくるとは思わなかったぜ…黒浦さん。仕事は大丈夫なのか」

黒浦と呼ばれた男は深夜の傷を確かめると、肩を貸して起こす。

「まあな、お前には『旧八区』で命を助けられた借りが残ってるからな」


黒浦玄次―警視庁異能管理局長…彼こそかつて旧八句郡で剣呪の姫君、秋嶋哀歌が起こした異能者虐殺の鎮圧に対応した警官の「唯一の生き残り」だ。


「お前を捨ててはおけんよ」

と黒浦はにやりと笑う。

「仕事は全部丸投げしてきた」

「お前な…」

深夜があきれ顔になる。だがすぐに真顔になる。

「アイシャは…」

「大丈夫だ、お前らがドンパチやってる間に車に運び込んだ」

「…変なことしてねぇだろうな」

「信用ねぇな!?…まあひとまず話はあとだ。傷を治すぞ。救護ヒーラーもつれてきてる」

「お、気が利いてるねぇ…」

深夜は痛みで気を失いそうになりながらも笑う。二人はパトカーに向かって歩いて行った。


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