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剣呪のウルティマ  作者: くつかけ
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第一章-4 フードの刺客

戦いは死神の一方的な攻勢が続いていた。だが、勝負の流れで言えば優勢なのは圧倒的に深夜の方であった。

獲物の大鎌から生み出された無尽蔵の風の刃が深夜を襲う。人間など触れただけで両断されるような巨大なそれは深夜に向かって一直線に飛んでいく。深夜はそれにちらりと目をやるがなにもしない。解き放たれた呪剣百禍日を構えるでもなく右手にだらりと下げたまま立っているだけだ。しかしまさに命中せんという距離に達した瞬間、風の刃は何もなかったかのように消し飛んでしまう。死神は苛立ち叫んだ。

「くっそぉぉぉ!なんでだ!」

そのまま数度大鎌をふるい深夜に向かって風の刃を飛ばすが結果は同じ。さっきからずっと同じ調子だった。

「(これは…思ったより大したことないな…)」

そう敵の力量を推し量る深夜の周囲はよく見ると微量の風が吹いている。深夜が振動の剣呪の力で周囲の大気を循環させているのだ。鋭利な風の刃とはいえ所詮は空気の塊。振動の力の前ではなすすべなく霧散してしまうのだ。だが死神の方はそんなことを知るべくもない。

「くそっ!どんな技つかってやがるんだ!」

悪態をつきながらあきらめずに風の刃を放ち続ける。だがそれも長くは続かなかった。そうやって風の刃を繰り出して何度目になったろうか。死神は変わらず気合の声とともに大鎌をふるう。しかしそこから生み出されたのは風の刃などではなく、小さなつむじ風だった。

「な、なんでだ!?」

「(…そろそろ頃合いか)」

深夜はこの瞬間を待っていた。相手が万全の状態で攻撃を仕掛けるなど愚の骨頂。相手が息切れを起こしたところを刈り取ればよい。いくら魔術、呪術の類とはいえ無限に打てるわけではない。深夜は死神が魔力切れを起こすその瞬間を待っていたのだ。

「魔力切れだろ!」

そう叫ぶと深夜は呪剣百禍日に力を籠める。それに呼応するかのように刀身赤黒く輝き、あたりが揺らぐ。剣呪の力があふれ出し周囲の空気が熱されているのだ。その熱は死神にも伝わり己を屠らんとする空気を「肌で」察した死神がおびえる。

「おい!ちょっと待ってくれ」

深夜はそんな命乞いには耳を貸さず呪剣をふるった。

「逃がさねぇっつったろ!」

呪剣百禍日の振動の力で小ぶりの熱波が生み出される。それは寸分たがわず死神の顎を打ち抜く。必要最低限の力で急所に打撃を受けた死神は「ぐべっ!」と悲鳴を上げながら上空高く舞い上がり、そして地面に落下すると動かなくなった。無力化を確認した深夜は呪剣の柄に込めていた力を抜く。同時に呪剣百禍日に宿っていた光が掻き消えた。一部始終を後方で見ていたアイシャが近寄ってきたのはそれとほぼ同時だった。

「ねぇ、大丈夫?」

「のびてるだけだ。そのうち目を覚ますだろ。そしたら煮るなり焼くなり好きにしろ。お望みの『異能バトル』の当事者様だぞ」

だがお目当てのもの(情報源)を手にしたはずのアイシャが不満そうに深夜の小脇を小突いた。

「いってなにすんだよ!?」

深夜は痛みに飛び上がる。アイシャは無言で小突いた場所を指さす。そこは制服が切り裂かれ、血が流れだしていた。何度も繰り出された風の刃のうちの一つがたまたま防ぎきれなかったのだろう。

「ほら、手当てするから。」

そういって服を引っ張るアイシャに、深夜は素直に上着を脱ぐ。そこにあらわになったのはやせ形で、傷跡だらけの上半身だった。なかでも目立つのは鳩尾あたりのまるで何かに貫かれたかのような痕…かつて神に体を乗っ取られた秋嶋哀歌との戦いで負った傷だ。

「さっさと叩けばよかったのに」

そういいながらアイシャが深夜の脇の傷に手を当てるとそこから呪力が迸る。見る見るうちに血が止まり、他と同じような傷跡に代わった。

「…ま、あれを見るに素人だろうし」

そういって死神の方をみるとそこに倒れていたのは金髪の少年だった。年の頃は同じくらいだろうか。やはり死神の格好も何かの異能の力だったのだろう。先ほどから変わらないのは獲物の大鎌だけだ。だが、あの戦いぶりをみるからに異能者の中でも余り戦い慣れはしていないようだった。自分と同じ、切ったはったが専門の異能者ではないはずだ。

「そんなこと言って手加減してるといずれ殺されるわよ?」

「…そうだなぁ」

気のない返事をする深夜はアイシャはため息をつくと、「はいおわり」といって脱いでいた服を渡した。

「わるい」

「いつものことでしょ?」

そういうとアイシャは死神であった少年を見やる。アイシャによってはここからが本題だ。

「どうするつもりだ?」

「目が覚めるまで待つしかないんじゃない?」

そりゃそうかと深夜は納得した。異能者といえど万能ではない。起きるまで待つしかないわけだ。そう納得した深夜は―あたりに聞こえるような大声でこう叫んだ。


「で、お前は何が目的なんだ!?」


アイシャが困惑するが、それを気にも留めず深夜は手に持っていた呪剣百禍日から熱の波動を生み出し噴水にむかって繰り出した。あたり一面の空気が揺さぶられ、噴水の水が吹き飛ばされる。そして…


「ほう…気づいていたのですか。」


そこに現れたのは先ほどの少年と同じ死神然としたフードの人間だった。だが、只者ではない。身なりは同じでも纏う雰囲気がまるで異なる。

「五感では見つからないようにしていたのですが」

「どうやって隠れてたまでかは知らんけどな。第六感がさえてるからな」

その何者かはフードの奥でクツクツと笑う。

「さすが…名ばかりの危険人物というわけではないのですね」

深夜は眉をひそめた。

「俺を知っているのか」

「ええもちろん…私の『ゲーム』に参加なさるとは思いませんでしたが」

その言葉にアイシャが反応する。

「あなた…ゲームマスターってこと?」

フードがアイシャの方をむく。その動作になんとなく嫌な予感を感じた深夜が叫ぶ。

「アイシャ逃げろ!」

だがその瞬間アイシャを風の塊が襲う。少女は警告むなしく吹き飛ばされていった。フードの何者かがやれやれと首を振る。

「私は三日月さんと話しているんですけどねぇ…」

「てめぇ…」

深夜はうなりながら牙をむいた。同時に呪剣百禍日に力を籠める。再び呪力を解き放たれた振動の剣呪があたり一面の大気を一気に熱する。フードの何者かはそれを見てせせら笑う。

「おやおや、思い人を傷つけられてご立腹ですか?」

深夜はフードの何者かをにらみつけた。

「ちげぇ、妹だ」

フードの何者かがそれを聞いて驚いたようなそぶりを見せる

「なんと、聞いていた話と違いますが…」

が、フードの何者かは思い直したように懐からアーミーナイフを取り出す。それは一気に分身し、無数の刃となって空中に制止した。そのすべての切っ先は深夜の方をむいて停止している。

「おまえ…何者なんだ」

「答えるとでも思ってるのですか?…まあいいでしょう。ちょっと遊んであげますよ。もし生きていたら教えてあげますよ。それまでは『ピラニア』とでも呼んでください」

深夜が威嚇するように呪剣百禍日を振る。熱波が放たれ、それだけで宙に浮かぶアーミーナイフのいくつかが溶け出す。

「無事で帰れると思うなよ」

「ほう、勝てるとでも思ってるのです?」

そんな言葉の応酬の終わり、戦いの火ぶたが切って落とされた。無数のナイフが深夜を襲い、熱された空気が爆発する。

鋸刺鮭ピラニア!食事の時間ですよ!」

「燃やせ、百禍日!」

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