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剣呪のウルティマ  作者: くつかけ
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第一章-3 死神と折れた呪剣

「異能バトル」とやらの当事者と思しき死神と、深夜とアイシャが対峙する。その雰囲気は先ほどの屍人と向き合っていた時とは比べ物にならないほど剣呑だ。大鎌をかかえる死神が獲物と定める二人、深夜とアイシャににじり寄りながら狂ったように舌なめずりする。

「キヒヒ…ハンデがつくってこたぁ…昇格もまったなしってとこだなこりゃぁ」

昇格?どういうことだ。そんな疑念を抱いたのは深夜だけではなかったようだ。

「ただの小競り合いじゃないってことかしら…」

と横にいたアイシャが呟く。恐らく噂の「異能バトル」を横浜に隠れ住む異能者の縄張り争いだと想定していたのだろう。その言葉にひっかかりを覚えた二人だったが、それを反芻する間もなく気が付くと死神との距離は十メートルを切っていた。剣術試合ならいざ知らず、異能の戦いであれば十分戦闘圏内である。不思議なことにこれだけ近づいても外套の下の顔を確認することはできない。

「(あの死神装束も何かの呪具なのか…いや。今はどうだっていいか)」

深夜は疑問を言ったん頭の隅に追いやった。これは「異能バトル」などといういかにもファンタジックなオブラートに包まれてはいるが、遊びで済むようなものではない。少なくとも相手の手が読めないうちは命のやり取りだ。油断したほうが、死ぬ。

「(今は、こいつを倒すことだけに集中するんだ)」

深夜は自分自身にそう言い聞かせると戦いの中で培われた勘を研ぎ澄ませた。あたりに人はいない。こいつだけだ。こちらに不利がないことを確認すると、両手を上げて降参のポーズをとった。

「なぁ、死神さんよ…じつは聞きたいことがあるんだけどさ…っ!?」

その答えは風の刃だった。ブゥンと唸りを立てて襲い掛かる刃を深夜と哀歌は難なく横っ飛びにかわす。どうやら、不意打ちを狙う間もなく相手はやる気満々だったらしい。深夜とアイシャは互いに目くばせしあった。

「深夜!」

「ああ、やるぞ!」

そういうと深夜は学生カバンの中から棒状にくるまった布……否、布にくるまれた棒状の何かを取り出した。その長さはざっと50センチほどか。それを深夜の得物だと察した死神が狂喜の叫びをあげる。

「いいじゃねぇか!!このまま派手に斬りあおうぜ!」

深夜は手に持った布にくるまれた棒に力を込めた。

「(頼むから応えてくれよ…!)」

するとそれに反応するかのように布の包みの切れ間から赤い光が漏れ出す。だが、死神はその隙を逃しはしない。手に持った鎌から、深夜の命を刈り取るべく風の刃を繰り出す

「へへっ!準備不足は命取りだぜ!」

「チッ!?」

目の前に迫る風の刃に深夜が焦りの表情を浮かべる。だが、その刃は横から現れた紙吹雪によって遮られた。

「させないわ!階乗符っ行きなさい!」

アイシャがとっさの機転で一枚の人型の式神を繰り出したのだ。紙人形ごとき、気にするにあたわない、そうたかをくくっていた死神だったが。

「くっなんなんだこれ!ふ、増えてる!?」

そう、式神は増殖し始めたのだ。アイシャの手を離れた一枚の式神は、二枚、四枚、八枚…まさに階乗の勢いで分身して死神に襲い掛かる。死神は一瞬で視界を奪われる。

「ちっきしょう…邪魔だ!」

死神はあたりかまわず風の刃をまとわせた鎌で周囲を薙ぎ払う。無数に増えるといえど所詮は紙。本体を切り裂かれると、紙吹雪は一瞬に消え去った。小手先の目くらましに見事ははまったのだと理解した死神の頭に血が上る。

「あのクソ女、後で嬲り殺しにしてやる…」

だが、その瞬間死神のどてっぱらを熱波が打ち抜いた。

「ぐぼぉ!」

そのまま死神はごろごろと転がった死神は顔を熱波が飛んできた方向に向ける。そこにいたのは戦闘態勢を整えた深夜だった。今や、手にした棒状の包みからは轟轟と妖気が立ち上っている。

「アイシャ!助かった。」

「ほんと、見てられないわ。じゃ、あとはよろしく。」

そういうとアイシャは戦いの中心から身をひるがえし距離をとる。

「ああ、お兄ちゃんに任せとけ」

深夜はそういってアイシャに一瞬微笑むと、死神のほうに向きなおり棒状の包み…己の得物を解放した。秘匿用の布が一気に燃え上がり、中から本体が現れた。

「お前にこいつは使いたくなかった…大事な借りものだからな。」

深夜が手に握った得物をなでる。それは、折れた日本刀…剣呪使いが己の異能を発揮するために鍛えた剣、呪剣だった。柄と30センチほどの刀身しか残っていないその呪剣はどうしたことかあちこちに熱で溶けたような跡がある。もはや刃物としては使用できないだろう。

「な、なんだよそれ…」

余りに異様な得物に死神が驚く。

「ああ、わかるか?こいつは百禍日って呪剣でな…形見なんだよ」

そう。それは振動と熱を自在に操る剣呪の姫君、そして深夜が激戦の末に打倒した秋嶋哀歌の呪剣、百禍日であった。

「か…形見だって?」

それを聞いた死神がうめき声をあげた。どう見てもガラクタにしか見えないそれが、凶悪な呪具に映る。深夜はそのまま続ける。

「俺が殺したんだ」

「!?」

突然の告白に死神が一歩後ずさる。

「な、なんだよこれ…こんな奴が相手だって聞いてねえぞ」

「そりゃそうだろうなぁ…ただまああれだ」

そういうと深夜は口元を歪めてこういった。

「『いいじゃねぇか!!このまま派手に斬りあおうぜ!』…な。言っておくが、逃がしはしないぜ」

「てめぇ…!」

先ほど死神が言ったセリフをそのまま返す深夜。それに気づいた死神があからさまに怒りをあらわにする。

「馬鹿にしやがって…いいぜ、やってやるよ!」

どちらにせよ戦うほかないのだ。そう腹を決めた死神が一気に己の力を解放する。解放された力があたり一面に豪風を起こす。深夜もすでに臨戦態勢だ。

「(悪いが俺も死神には一つ二つ聞きたいことがあるからなぁ…)」

相手は偽物であろうに、深夜の頭を一瞬そんな考えがよぎる。しかし、深夜はそれを頭の隅に追いやるとこう言って戦いの火ぶたを切った。


「灰燼に塵れ…百禍日ひゃっかにち!」


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