表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣呪のウルティマ  作者: くつかけ
20/60

第一章-1剣呪使いの逃亡者

新しく話を始める前に話をいくつか。


―結局、偽哀歌との戦いで気を失った深夜は死にはしなかった。


命を対価とする剣呪ウルティマを使ってなぜ深夜が生きているかは全くの不明だ。戦いの後、偽哀歌がどうなったかも不明。唯一分かったのは、旧八句郡で起きた一連の異能者虐殺の犯人が深夜に着せられているということだけだった。深夜は否応なく、逃亡をすることになった。


とはいえそんな話もすでに3年前の話になってしまい、新しい話の始まりも血で血を洗う戦いとはかけ離れたものだった。


「異能力バトル?」

「そそ、深夜はそうゆーの大好きでしょ?」


その日も「バイト」の算段を立てていた深夜は耳に入った眉をひそめた。目の前に座る「妹」が愉快げに微笑む。こんな風に話が来たときはろくな目にあったことがない。深夜はひとまず無関心を装って机の上に広げた「バイト」に関するメモに没頭する。

「…興味ないな」

「ほんとぉ?」

そういうと少女はニヤニヤと深夜のことを覗き込む。深夜は不快な様子で目を反らし―窓のほうにやった。窓から広がる眼下には校庭が広がり、そこには放課後の部活動に精を出す学生たちがちらほらと見える。


神奈川県横浜市の郊外に立地する藤山記念高校。東急東横線沿いに立地する県内では中堅クラスの進学校。日本の異能者史上、最重要危険人物になってしまった三日月深夜の潜伏先である。その教室の一室で二人は、少女の方が逆座りになる形で向かい合っていた。


旧八区郡にいた深夜がそこに至るまでの経緯に思いをはせていると、そんなことを許すはずもない「妹」がその頬をつねる。


「っ!なんなんだよ…アイシャ」

深夜は目の前の少女をにらんだ。少女の名は木瀬アイシャ。深夜の「妹」厳密にいうと「双子の妹」。角度によって深緑にも薄紫に見える無造作に伸ばされた黒髪は不気味なほどにつやがある。ファッションなのか片目を隠しているアイシャは地味子、不思議ちゃんとも言われかねないその容貌を圧倒的な素材の良さと強烈なオーラによって歳不相応な妖艶さに昇華させていた。つまり、セクシー系のギャルってやつだ。そんな美少女が隠されていない方の目を細めていら立ちをあらわにする。

「姉が話しかけてるのに随分生意気な口きくじゃない…あら、姉じゃなくて妹だったかしら。」

深夜はアイシャの手を払った

「妹だろ、まちがえんな」

「ま、どちらでもいいじゃない。それよりも―」

「興味ない」

アイシャがあからさまにため息を付く。

「つれないわねぇ…」

そういうとアイシャは深夜の机の上に乗り出し、深夜に顔を近づける。

「うぉっ!?なんだよっ」

予想外のアプローチ(と、アイシャの体勢の関係で制服がたるんで見えてしまった胸の谷間)に慌てる深夜。だが、アイシャの耳打ちは、深夜は別の意味で硬直させた。

「私たちの『関係』…終わらせてもいいんだけど」

深夜の瞳が揺れる。アイシャと深夜の関係。それは深夜が逃亡生活を送るうえで必要不可欠のものである。アイシャは深夜の耳たぶを噛んだ。深夜は逆らうことができないのだ。アイシャは耳たぶを噛む口元をさきほどまでとは打って変わって冷酷な笑みを浮かべる。


「『援助兄妹』の契約、まだ続けたいんでしょ?」


それを失ったとき、それは深夜の破滅を意味する

「…卑怯だぞ」

深夜はアイシャをにらみつけた。だが、アイシャのほうはと言えばそんなものにひるみもせず、深夜からぱっと離れてもとの椅子に逆座りする。そこいるのは数分前までと同じいたずらっぽく微笑む「妹」だった。

「ほーらぁ、素直になってもいいんだぞぉ。」

これだ。まるで自分は強制していないかのようなアイシャの物言い。深夜は腹を決めた。

「わかったよ!異能バトル…どこで出た噂だ」

「山下公園って話だけど…あら、やっぱり興味あるのかしら?」

「ああもうそれでいい。」

深夜は机の上に散らばるメモの一枚を取り出す。それは山下公園周辺の地図だった。

「どうせそのあたりで依頼があるんだ。まとめて調べてやるよ」

どうせ『援助兄妹』の話を切り出された時点でこうせざるを得なかったのだ。ならばさっさと片付けてしまったほうが良いだろう。その言葉を聞いたアイシャの顔が輝く。

「ほんと!?でも深夜ならそう言ってくれると思ってた!」

さっきまで脅迫していた女がよくもそんなこと言えるものだ。深夜は再びため息を付くとメモを片付けて立ち上がった。

「アイシャ、俺はもう山下公園に行く。異能バトルとやらについて何かわかったら帰って報告するから」

「なにいってるの?私も行くにきまってるじゃない」

「まじかよ…」

深夜は再びため息を付くのだった。「異能バトル」なぞ所詮は子供のごっこ遊びか、精々なにかの手違いで簡単な異能を手にしてしまった若者の火遊びだろう(そういったことは意外とよくあるし、火遊びのほうの火消しは深夜の「バイト」でもある)。だがその読みが外れていることを深夜が知るのは大分先のことになるのだった。


では、これより「剣呪のウルティマ」本編の始まりである。


やっと本編に入ることができました。ここまでくるのにざっと四ヶ月(!?)

駄文ですがお付き合いしてくださってる方ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ