プロローグ1-2蹂躙の剣呪
「やっぱり人を切るときは一気にやるんじゃなくて、時間をかけてやるほうがいいかも」
それは一瞬だった。哀歌の獲物、百禍日から噴き出す炎によってある隊員は踏み込んだ瞬間に消し飛び、あるものは切っ先から放たれる熱線によって両断され、爆風でめくれ上がった地面に押しつぶされた隊員もいた。数十人はいたであろう隊員のすべてがすでに死に絶え、残っているのは体調だけだった。だが彼も、百禍日の炎で片腕が炭化するまで焼き尽くされており、生きているとはいえすでに虫の息である。しかしそれは運よく生き残ったのではなかった。哀歌が長く楽しむためにわざと残したのだ。
「な…なんなんだあれは…」
20年以上のキャリアを持ち、国内外で幾度もの凶悪異能犯罪者と渡り合ってきた隊長でも哀歌のそれが人間の扱う技には到底見えなかった。物理アタッカー型の異能者10人が一斉突撃。相手が目の前に集中しているところを狙って妨害特化型の異能者により捕縛という王道の対処方法が通じるはずだった。
「あれが…本当に剣呪の力だというのか…」
剣を以って超常の力を生み出す剣呪。であればその力は近接攻撃に限定されるというのが共通認識である。だが己の部下を屠ったあの技はなんだ。そんな話をあざ笑うかのように広大な殺傷範囲で蹂躙していったではないか。
「ふふ、人生最後にいいものがみれたわね」
荒れ狂う剣呪を太刀と共にいったん鞘に戻すと、哀歌は徐々に最後に残された敗者のもとへ近づいてくる。その命を刈り取るために。管理局でも名うての武勇を誇る隊長は、本能からおびえた。もとからかなう相手ではなかったのだ。
「頼む…やめてくれ…」
もはや戦意のかけらもない言葉に哀歌の顔が愉悦と狂気に彩られる。
「大丈夫よ、私すごい上手なんだから。隊長さんは特別に痛くなく切ってあげる」
そんな全く諫めにもならない言葉に男はついに観念したのか目をつむる。
刀を振り上げ、終止符を打とうとする。しかし、その刃が振り下ろされることはなかった。