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剣呪のウルティマ  作者: くつかけ
19/60

プロローグ1-19 終結、消滅、そして

突進する深夜が上段から偽哀歌を斬りつける。哀歌は逃げることなく刀でその斬撃を防いだ。刃と刃がぶつかり合った瞬間、火花と共に金切り声のような音を立てて蒸気が起こる。振動の剣呪で一気に熱された空気が、停止の剣呪によって急激に冷やされているのだ。

「あまいわよっ!」

蒸気に一瞬ひるみながらも、偽哀歌は深夜の斬撃を完全に受け斬りあまつさえ押し返さんとする。初撃は不発だ。

「ほらほらぁ、射程圏内じゃない!」

力を出し切って一瞬深夜に生まれた隙を逃さない。偽哀歌が鍔迫り合いする呪剣を通して熱波を放つ。

「くそっ」

深夜は横に体を反らしてすんでのところで攻撃を避けた。完全にかわすことはできず、熱波が深夜の服を焦がす。しかし、深夜はそれを気にも留めず二撃目を放つ。しかしそれも偽哀歌に防がれてしまう。再び両者は鍔迫り合いの状態に戻る。

「さっきから成長がないようねぇ!そんなんじゃいつまでたっても私を斬れないわよ!」

「それはどうかな!」

拮抗している状態を偽哀歌があざ笑う。しかし、深夜は表情を崩さない。そのままぐいぐいと刀を押し込む。

「くっ、うっとおしいわねぇ…百禍日、燃えなさい!!」

業を煮やした偽哀歌は呪剣に力を込めた。刀身が赤熱する。

「その呪剣ごと焼き切ってあげるわ!」

そういうと偽哀歌は呪剣で押し込んだ。だが瞬間、


バキィッ


と嫌な音をたてて偽哀歌の呪剣が折れた。

「な!?」

偽哀歌の目が見開かれる。だがこれは偶然ではない、度重なる偽哀歌の剣呪の乱用により呪剣百禍日はすでに限界を迎えていた。そして、そこに剣呪ウルティマの停止の力による急激冷却によって自壊してしまったのだ。剣が折れた今、守るものは何もない。

「喰らえっ!」

鍔迫り合いの均衡が一気に崩れ、深夜の呪剣が偽哀歌に迫った。予想外の事態に偽哀歌の顔に焦りが浮かぶ。焦り身を引くが、深夜はそれを逃さなかった。

「うらぁ!」

深夜の「人造剣呪ウルティマ」が白煙と共に偽哀歌をなで、肩口を切り裂いた。

「あ゛ぁぁぁぁ!」

偽哀歌の顔が苦悶に歪む。偽哀歌はそのまま地面に倒れ伏した。続いてバランスを崩した深夜もその場に尻もちをつく。

「そんな…、まさかこんなことって…くっ?」

倒れる偽哀歌の体から白煙が立ち上る。ついに剣呪ウルティマの停止の剣呪の力が発動したのだ。もはや不死身の力は発動することができない。徐々に、偽哀歌の魂の鼓動が弱まっていく。

「どうだ、ウルティマの力は…うっ!?」

勝ち誇る深夜の体からも白煙が立ち上る。ウルティマの発動の対価は使用者の生命エネルギー。その効果が発動するとともに容赦なく対価を奪っているのだ。

「ゆるさない…こんなこと、絶対に許さないわよ…」

偽哀歌は怨嗟の声を上げるがそれも徐々に弱まっていく。命を吸い取られながら、霞む視界でそれをとらえた深夜は、本物の哀歌との約束を思い出す。

『もし…もし私が次おかしくなったら…』

「約束…まもってやったよ」

深夜は少し満足げにため息を付くとそのまま意識を手放し動かなくなった。



2010年3月15日、「剣呪使い」と呼ばれる異能者を輩出する旧八句郡きゅうはちくぐんは何者かの襲撃をうけ上級異能者を中心に数百人の死者を出した。世界でも数少ない異能者の定住地域コミュニティが打撃を受けたことは世界中の異能者たちに衝撃を与え、そして権力バランスにも大きな影響を与えた。


しかし、この惨禍が地域の有力者の末裔である少女の手によって引き起こされたことは書き替えられ、今では別の人間が起こしたことになっている。犯人の名は三日月深夜。当時12歳。能力に劣っていた少年は力を渇望するあまり、戦前に作成され秘匿されていた「ウルティマ」と呼ばれる異能兵器を手にし暴走、一帯を災禍に追いやった挙句自滅して行方不明となった、ということになってる。その真相はいまや闇の中である。当の本人、深夜少年が闇に消えてしまったのだから。


~プロローグ編、完~


これにてプロローグ編終了です(見切り発車で始めてしまったのでものすごいダラダラしてしまった…)。

初投稿でしたが個人的には楽しく書けました。閲覧してくださった方(後、一瞬だけブクマしてくれた非常に奇特な方)、話を進めるモチベーションになりました!ありがとうございます。

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