プロローグ1-18 死なば諸共
深夜が構える呪剣、「人造剣呪ウルティマ」が起動した。羽虫のような音を立てて金属片が寄木細工のように組み合わさってできたような刀身から白煙のようなオーラが立ち上る。その白煙は刀を覆い、そして深夜自身をも纏いついていく。
「(…冷たい、な。)」
肌で感じる煙の感触に深夜は震えた。冷たさからではない、これが命を奪われる前触れなのだと本能的に感じたのだ。
剣呪の使い手が扱う呪剣は、ありていに言えば「魔法の杖」だ。異能を使うという観点で言えば使い手が意図した異能を安定して繰り出せるように出力調整する装備でしかない。例えば、哀歌の「呪剣百禍日」も剣自身が振動の力を生み出しているように見えてその発生源は哀歌自身だ。「呪剣百禍日」は剣呪のトリガーに過ぎない。振動の剣呪のために特別に鍛えられているのでそれを使えばより強い技が出せるが、ほかの剣でも剣呪を発動することは可能だろう。
しかし、今起動した「人造剣呪ウルティマ」はそれと根源的にことなる。停止の剣呪は「剣呪ウルティマ」自身から生み出される。使用者の命令によって起動し、その生命力をエネルギーに設計時に指定された剣呪の力を発動する。つまり、「剣呪ウルティマ」にとっては人間こそがトリガーと出力補助を兼ねる装備なのだ。
「(くっ、なんだこれ!まだ使ってないのに命を持ってかれるような気がするぞ!?)」
そう感じる深夜はあながち間違ってはいない。「剣呪ウルティマ」は起動呪文を唱えることで休眠状態から起動し、待機状態に移行する。そして対象に刀身で触れることで効果を発動、つまり対象を永久に停止させる。そしてその効果発動とともに「おおよそ人間1人分」の生命エネルギーを消費する。だが待機状態だからと言ってリスクがないわけではない。状態を維持するだけですでに生命エネルギーを徐々に消費しているのだ。
「欠陥兵器ってのも頷けるね…」
そう苦々し気に呟く深夜の頬を冷や汗がしたたり落ちる。なるほど、生還を意図せず使用した兵士は例外なく死ぬ。つまりこれも特攻兵器の一種なわけだ。
「啖呵を切った割にはお辛そうねぇ」
「…余計なお世話だよ」
既に剣呪を発動できるだけの体制を整えた偽哀歌を深夜は邪険に切り捨てる。しかし言っていることは本当だ。このままだと、一戦交える前に「剣呪ウルティマ」に命を吸い尽くされてしまう。そうでなくても生命力を吸い取られるせいで一刻一刻深夜は不利になっていくだろう。ならば、と深夜は呪剣を上段に大きく構えた。
「さ…決着をつけようぜ」
それを見た偽哀歌も軽くうなずくと呪剣百禍日を正眼に構える。恐らく…すでに偽哀歌も限界が近づいている。これまでのようにむやみやたらと遠距離攻撃を打ってこないのがその証拠だ。
「(再生能力が衰えているなら、なれない体で攻めてはこないはず…)」
再生能力が衰えているとはいえ、まったく回復していないわけではない。いったんはこちらの攻撃を受けてくれるだろう。そして、受け切った後は残る体力の利を生かしてこちらを屠ってくるに違いない。
「さ、いつまで待たせるのかしら。こちらは準備万端よ?」
まるで深夜の読みを裏付けるかのように偽哀歌が挑発する。ならば…
「その誘い、乗ってやろうじゃねぇか…」
深夜は獰猛に口元を歪めた。その生意気な口事叩ききって、二度と動けないように「停止」させてやる。返り討ちにされて死ぬか、それとも…討ち果たして哀歌諸共死ぬかどちらかだ。
「いくぞぉぉぉっ!」
深夜は咆哮を上げるとまるで最初の剣戟を繰り返すかの如く偽哀歌に向かって突撃した。




