プロローグ1-17 終止の剣呪
不死身
どんな攻撃を受けても死ぬことがない体を有するということ。つまり…
「万が一私があなたに勝てないことがあったとしても、負けはしないのよ」
そう。深夜は絶対に偽哀歌に勝つことはできない、そういうことだ。
「あなたのこと、無能な異能使いだと思ってたわ…」
偽哀歌が冷徹に深夜を見据える。
「そのことは訂正してあげる。才能はなくても優秀な異能者よ。誇りに思いなさい」
そう称賛する。その言葉に嘘偽りはないようだった。「でも」と偽哀歌は切り出す。
「残念だけど、これでおしまい。あなたは私を止めることはできない…どうかしら、わたしのものにならない?いまならもう一度チャンスをあげるわよ」
偽哀歌は本気でそういった。どんな時代にも優秀な血統、素質を持った異能者はいる。だがそれだけでは二流三流にすらなれない。本当に異能使いに必要なものをかつて神だった者は深夜に見出していた。
「あなただったら、私のもとで、私の…世界で二番目の異能使いにはなれるわ」
しかし満身創痍の深夜は頷かなかった。
「…いやだ…くっ」
すでに青息吐息の深夜は痛みで言葉が途切れてしまう。しかしその意を察した偽哀歌は悲し気に頭を振る。
「残念ね」
そういうと偽哀歌は呪刀、百禍日を構える。『輪廻反転』の異能で瞬時に回復した呪力が刀に充填され妖しく輝く。
「これでほんととうに…お別れよ!」
その時だ。異変が起きた。ガチャリと音を立て刀が落ちる。
「うぐ…なんでっなにこれ!?」
落ちたのは偽哀歌の呪刀百禍日。ただ刀を取り落としただけではない。そこに落ちていたのは刀と、そして哀歌の右腕だった。哀歌は刀を取り落としたのではなかった。腕ごとちぎれ落ちたのだ。
「あ…た…し、…ん…で、こんな…」
哀歌の輪廻反転の力で腕はすぐに元通り繋ぎなおされる。だが、突然腕がおちたのはなぜだ?一方、その光景をみた深夜の目に再び光が宿る。
「そうか…そうか!」
「なにか知っているみたいね」
偽哀歌が深夜をにらみつける。
「そういや…こっちもお前に教えてないことがあったよ」
「何かしらぁっ…」
劣勢を悟った偽哀歌が牙をむく。深夜はありったけの気合で不敵な笑顔を作った。(実際のところすでに体力はぎりぎりだった)
「この呪剣…いや、人造剣呪の能力についてね」
「…これはあなたの仕業ってわけね?」
「まあね」
偽哀歌も悔し紛れに笑う。深夜は己の呪剣を前に突き出す。
「人造剣呪のウルティマ…停止の剣呪だ」
呪毒でもなければ念動力による物理的な破壊でもない。一切合切の停止。
「…停止?」
「そう。起動状態のウルティマで切りつけたものは何であれ停止する。」
それは『輪廻反転』という回復手段をもつ偽哀歌の絶対的アドバンテージを打ち崩す切り札。
「ま、直接切りつけないといけないし、相手を停止させた瞬間に使用者の生命活動も停止させるっていう欠陥品。でもまあ、起動してない状態で切りつけただけでもある程度は効果あるみたいだね」
偽哀歌は驚愕した。これまでの戦闘は偽哀歌が一方的に攻め立てていた。一撃でも食らったことはないはずだ。
「そんな!いつのまにくらってたっていうのよ!?」
「こっちも忘れてたよ。おかげで思い出したけど」
それはまさに最初の斬撃。偽哀歌がいともたやすく片手で防いだ深夜の渾身の一太刀。
『刀で直接切りかかるなんて、異能者の戦いぶりとしては最低最悪ねぇ…』
『剣呪を使わない剣呪使いなんて期待外れもいいところよ。こっちだって地球よりも重い命を刈り取ろうっていうんだから、せめて楽しませて頂戴』
不死身であるがゆえに気安く片手で受けてしまったその斬撃。標的の掌をかすかに傷つけることしかかなわなかったそれは間違いなく仇敵をむしばんでいたのだ。
「お前の『輪廻反転』はウルティマの力すでに弱体化している。もうさっきまでのようには戦えないはずだ」
そういう深夜に、偽哀歌は顔を歪める。
「じゃあ、どうだっていうのよ…」
「次で最後だ。絶対に『差し違える』この人造剣呪ウルティマを起動してお前を斬る」
「分かってるでしょうけど死ぬわよ」
「ああ、あの世でもよろしくな」
「重い男ねぇ…」
そういうと偽哀歌は再び呪力を開放する。
「残念だけど、切られなければそのウルティマとやらは不発なんでしょ?そのまえにとどめを刺してあげるわ。」
体中から赤い呪力のオーラを迸らせる。その力を感じながら深夜も刀を構える。
「いいねぇ」
そういうと深夜は起動呪文を唱える。かつて、戦争という行為の人命を奪うという一点のみを極限まで発展させた究極の欠陥兵器が再び目を覚ます。
「醒めよ!騙り偽る才気、凍てつく停止の異能…剣呪ウルティマ!」