プロローグ1-16 神の所以
異能の戦いであたり一帯が焼き尽くされたその場所に横たわる2人の少年、少女。深夜と哀歌だ。その少年のほう、深夜がもぞりと動く。
「終わった…」
深夜はそう呟くと何とか立ち上がり、あたりを呆然と見渡す。そこには偽哀歌と深夜の死闘の爪痕が生々しく残っていた。
「…終わった」
まるで自分の言った言葉が嘘でないか確かめるように繰り返す。深夜は傷だらけの体に鞭を打って歩き出す。が、いくらも歩き出さないうちに足がもつれる。
「ぐっ!?」
転んだ衝撃でこれまでマヒしていた痛覚が再び目覚める。戦いに勝ったとはいえ、深夜はいくつもの致命傷を負っていた。このままではもう長くは持たない。
「あ゛っ、いってぇ…」
深夜は震える手で携帯電話を取り出して電話をかける。しかし、既になき者となってしまったのか誰にかけても応答がない。
「だ、だれか…誰でもいいから」
焦る気持ちを抑えながら一人ひとり、あてになりそうな番号に発信し続ける。そんな心境が手元を狂わせたのか、はたまた既に肉体が限界なのか携帯電話を取り落としてしまう。咄嗟に拾おうとする深夜。だが、深夜が携帯電話に手を伸ばしたその瞬間、一筋の光線が薙ぎ払い携帯電話を塵に変えた。
「!?」
深夜はバッと光線が飛んできた方向に身構える。
その視線の先には。
「よくも…よくも私をこんなにもしてくれたわねぇ!」
偽哀歌がまるで受けた傷をものともしないかのように立っていた。
「そんな…」
深夜の目が見開かれたまま表情が凍り付く。まさか、そんなはずはない。振動の剣呪の力は首筋から流し込んだはず。その証拠に目の前の哀歌も体中に重傷を負っているではないか。たとえ死に至らないとはいえ、しばらくは起き上がることはできないはず…。
「とでも思ったかしら!」
偽哀歌が鬼気迫る笑みを浮かべる。
「じゃあ、なんで…」
完全に虚を突かれた深夜はうめくことしかできない。もっとも、満身創痍の深夜には精神状態がどうであろうと何ができたか知れたものではないが。
「信じられないって顔ねえ。考えてみなさい?あなた、いったい誰を相手にしていたのかしら?」
偽哀歌が満面で凄惨な笑みを浮かべると同時に深夜は一つの考え落としていたことに気づいた。そうだ、哀歌の力は何なのかは知っていた。振動の剣呪の力。ありとあらゆるものの波動を制御し、その振動によって熱まで操ることができる力。
だが、
「そういえば、私の…神の力が何だったかってまだ教えてなかったわねぇ…」
そう、偽哀歌の中身、つまり神の力が何なのか全く考えてなかった。せいぜい、強力な大技が使えるんだろう…としか。だが…目の前で起こっていることがその能力だというのであればそれで納得できる。かつて神とあがめられていた理由も。そしてそんな深夜の予測はたやすく当たってしまった。
「私の力は、『輪廻反転』。ありとあらゆる生死を巻き戻す力。」
それは不敗という名の勝利宣言。偽哀歌は勝ち誇った笑みでこう付け足した。
「分かるかしら…私はね、不死身なのよ」




