プロローグ1-14 必至の突撃
「なっ!?」
偽哀歌の目が見開かれる。
「ざまあみやがれっ!」
深夜は単純に偽哀歌が呪力を使い切ることだけを期待していたのではなかった。偽哀歌は肉体を完全に掌握してないがゆえにその呪力の疲弊を読み切れない。本来、異能者は己の呪力の残量に応じて術のレベルを調整する。しかし、目の前の敵にはそれがない。なんのためらいもなく最後まで大技を出し続けるだろう。で、あれば必然、呪力切れを起こすとき致命的な隙が生まれる。そしてそれが―
「いまだ!」
全速で深夜が突っ込む。いくら魔力が途切れたとはいえ、間が開けば回復してしまうだろう。この機を逃すわけにはいかない。
「くっ!?」
窮地を悟った偽哀歌は再び呪剣に力を込める。しかし、既に力を使い果たしたそれからはプスプスと煙が上がるばかり。その双眸に焦りと、そして初めて「恐怖」が浮かび上がる。
「(いける!確実に仕留める!)」
勝利を確信する。3メートル、2メートル、1メートル、近づいていくたびに刀に体重が乗っていく。戦意を喪失したのか偽哀歌が首を項垂れる。ならばご希望通り、頭からたたき切るだけだ。
「うぉぉぉぉぉ!」
深夜が必至の間合いに入る。この間合いからならば逃れるすべはない。全身全霊で大地を蹴り、声を荒げて飛び掛かる。
だが、項垂れる偽哀歌は
「本当に、お馬鹿さん」
と不敵に笑みを浮かべていた。
「な!?」
まずい予感が脳を駆け抜ける。しかし全体重で切りかかる深夜はそれを止めることができない。そして次の瞬間、偽哀歌の体に呪力がまとわれた。
「(なぜ!?もう使い尽くしたんじゃ!?」
偽哀歌がうつむいていたその顔をこちらに向ける。嗤っていた。戦意など失われてはいなかったのだ。
「(いくか?引くか!…いや、行くしかない!)」
混乱する頭で深夜が次の一手をはじき出す。上段に構えていた刀を振り下ろさんと体躯をさらに反らせる。だがそれは致命的なミスとなり深夜に襲い掛かった。偽哀歌の不敵な笑みが獲物をしとめるときの狂喜の笑みに代わる。
「最初から、こうやって誘い込めばよかったんだわ!」
偽哀歌は刀を横に構える…そしてその刀にまで完全に呪力が満たされる。
「ふふふ…神がねぇ呪力切れなんて…起こすわけないじゃないの!」
深夜の上段に構えているがゆえにがら空きになったどてっぱらに飛び込む。
そして、
「うらぁぁぁあ!」
絶叫しながら貫く。
「ぐっ…がぁ!?」
苦悶の声を上げる深夜のみぞおちに剣先が吸い込まれる。そして、真後ろから刀が突き出る。
「うっ!?あぁぁぁぁ!」
一瞬の後に深夜の体に激痛が走る。
それを見た偽哀歌は満足げに笑みを浮かべながら勝鬨を上げた。
「神を侮った罰よ…その身で贖いなさいな!」