プロローグ1-11 神の選択肢
「か、神様?」
「そうよ、神様。知っているでしょう?」
唐突に飛び出したワードに深夜は混乱する。気が付いたら偽哀歌の口調も元に戻っていた。肝心の正体を明かしたから安堵したのだろうか。ただ、聞いている深夜からすれば「私は神なんです」といわれて「はいそうですか」というわけにはいかない。
「いくら異能者だからって、神の存在を信じてると思うなよ。」
「たしかに?本当に神かと言われればそんなこともないけどかつて崇拝を受けていた存在という点ではあながち間違っていないわねぇ。」
なるほど、偽哀歌はおそらく何らかの方法で精神だけが独立してしまった人間なのだろう。そしておそらくはかなり強大な力をもった古代の異能者だ。卑弥呼に代表されるように歴史上、常人にない能力を携えた人物が単身で信仰の対象になるということは世界中で見られる。
「かつて、ということは今は神ではないってことなのか」
「まあね、昔の話よ。眠っていたんだもの。目覚めたのは一世紀ぶりってとこねぇ。」
哀歌は自身を憐れむように肩をすくめる。
「でもねぇ、せっかく呼び出されたからには神として返り咲くつもりよ。」
話を聞く限り、自分自身の意思でよみがえったようではないようだ。それを聞いた深夜には一つの疑問が生じる。
「だれがお前を復活させたんだ」
「ふふ、それは教えられないわ。信者の祈りを決してばらしたりはしないのよ」
いっちょまえに神様をやる気はあるらしい。深夜はそこで一通り聞きたいことは聞ききってしまったということに気づいた。偽哀歌のほうもそれを悟ったのだろうか。唐突に話題を切り替える。
「…で、あなたはどうするのかしら?」
「どうするって…どういうことだ」
「ここまで話を聞いたあなたには二つの選択肢があるわ。」
そういうと、偽哀歌は両方の手を差し出す。
「一つ目は、このまま私のことを受け入れるか」
そういうと、左手を己の胸に当てる。そして、右手で器用に剣をとるとこういったのだった。
「それともこの場で殺されるかよ」




