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剣呪のウルティマ  作者: くつかけ
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プロローグ1-10 明かされる秘密

「哀歌は―いや、いまこうして話している『お前』は哀歌ではないいと思う。少なくとも、僕の知っている哀歌ではない。そうじゃないか?」

そう謎解き始めた深夜を哀歌はじっと見つめている。肯定も否定もあらわさないが深夜はそのまま話し続ける。

「『お前』は哀歌のことを『器』つまり入れ物扱いしている。つまり…どうにかして本物の哀歌から体だけを奪った状態なんじゃないか、と考えた」

そこまでいったところで哀歌が口をはさむ。

「確かに筋は通っているわ。少なくとも異能者であれば理解はできる話ね。でも、じゃあ私はどこから来たのかしら?」

深夜はその問いへの答えを指で示した。

「そこからきたんだろ。わかりやすすぎるね」

哀歌の目が深夜の指の先を追う。それは足元、ではなく哀歌の影だった。哀歌の影にうねるように流れ込んでいった影、それこそが今の哀歌の正体なのだとそういっているのだ。

「最初は何か精神に影響を与える幻術の類かと思ってた。でも違う。それでできるのはせいぜい相手の行動を縛ることぐらいだ。」

「ふぅん、お勉強は得意なようねぇ」

深夜はそんな皮肉交じりの反応を華麗に無視する。

「おそらく、あの影はバイパス。あの影を通じて、お前は自分の精神を哀歌の中に送り込んだんだ。それで…詳しい仕組みはわからないけど哀歌の本来の精神を打ち消して今の『お前』が哀歌の体を奪い取ったんだ」

「なるほど…それで私は偽物だって言いたいわけね?」

「まあね」

「…」

深夜の推測をきいた哀歌はしばらく沈黙していたが、何か感心するように頷くと手を叩いて賛辞を示した。

「よく見ていたじゃない。ま、おおむねそうね。」

微妙に引っかかるような表現だが、まあ的外れな回答ではなかったらしい。深夜は残る最後の質問に移る。

「お前…誰なんだ!なんで哀歌の体を奪ったんだ」

それは不思議というほかなかった。確かに哀歌は先天的、後天的双方を兼ねそろえた優秀な剣呪の使い手ではある。しかし、それは10代前半というくくりにおいての話であった。嫌な話、異能者全体といわずともこの地域一帯の異能者でみても哀歌より成熟した異能者は腐るほどいるのだから。

「随分とエゴ丸出しね…まあ答えてあげないこともないわ。」

そういうと、哀歌は日本刀を鞘に納めた。少なくとも話している間は攻撃する意図はないという表明だ。それを理解した深夜も渋々ながら武器を収める。

「感謝するわ。お互いこんな状況じゃ話する気にならないもの」

「…早く話してくれ」

「急かさないでちょうだい…。まあ、あなたの言う通り『私』はあなたの知っている女のことではないわ」

「…そ、そうか」

「あら、余りショックは大きくないようね?」

確かに深夜はあまりショックを受けていなかった。というか、日ごろ自分が知っている哀歌がこの惨状を引き起こしていなかったのだということを確信できた安堵の気持ちのほうが大きかった。だが、それはあくまで深夜の精神的な安定という話においてである。

「…じゃあ哀歌は、本物の哀歌はどうしたんだ?」

「本物?」

「だってそうだろ?いくら乗っ取るって言っても、精神そのものを消せるはずがない。だとしたら哀歌の精神、つまり魂はいまどこにいるんだ?」

「…本物の哀歌の精神、ねぇ。何と答えたらいいものか…」

偽哀歌(便宜上こう呼ぶとして)は深夜から目をそらす。それまでの不吉なまでに悠然とした表情はどこにもなく、本気で説明に迷っているようだった。それをみた深夜に不吉な予感が走る。

「おい、どうなんだよ!?哀歌はどうなったんだ?」

「…」

そう問い詰める深夜に偽哀歌は答えることができない。しかし、しばらくすると観念したようにため息をついて口を開く。

「まず、深夜の推論なんだけれどもね、間違っていることがある」

「…それが何か関係あるのか?」

「あるとも、おおいに。そしてそれは私の正体にもかかわってくる」

もはや偽哀歌の口調からはおどけたような女言葉がなくなっている。おそらく、それが本来の口調なのだろう。偽哀歌は目の前に指を一本立てると話を続ける。

「それは私がこの体を奪ったという点だ。残念だが、この体はもとから私のものだ。この体が母御から産み落とされた瞬間からね」

「…どういう意味だよ」

「口にしたままの意味さ。まあ受け入れがたいだろうけどね。」

理解が追い付かない深夜をよそに話は徐々に進んでいく。

「かわいそうなことなことに、この子は私への捧げものなのさ」

「ささげもの?」

「そうさ、しっているだろ。生贄ってやつさ。」

「生贄!?じゃあ哀歌は死んだってことか?」

意味が分からず生贄という言葉に激情する深夜する深夜だったが偽哀歌は落ち着けよと、一笑に付す。

「死んだんじゃない、元々お前の知っている哀歌などという少女は存在すらしなかったのさ」

「どういう意味だよ!」

「だから言っているだろう。この体は私に捧げられたんだよ。」

「それが哀歌が存在しないってことにはならないだろ!」

かみ合わない会話に深夜のボルテージが上昇する。しかし、偽哀歌はひるむことなく淡々と語る。

「それがなるんだよ。残念ながら。考えてみたまえよ。たとえ体を捧げられたからとはいえ、赤ん坊の体では何の足しにもならない。異能の器も、肉体的な成長もある程度満たしたうえで私がその体をもらい受ける。それでこそ円滑な引継ぎというものだろう?」

体は欲しい、しかし成熟した状態でほしいそんな家畜を扱うかのような考えに虫唾が走る。しかし一方で、深夜は今や影も形もない哀歌の本来の精神が何の役割を果たしていたのかを徐々に気づき始める。

「もう気づいてはいるだろう?深夜の知っている哀歌は、この体が成長するまで与えられた仮初の精神だったのさ。」

まるで臓器移植のドナーだ。そう深夜は心の中で例えた。しかし、本来のドナーが行うような崇高な行為ではない。生まれてすぐにその肉体すべてを明け渡すことを有無を言わさずに定められてしまっていたのだ。

「正直、私もむごいとは思うよ。ただ、そういう契約だった、そういうことだ。」

呆然としていた深夜がそれでも口を開く。

「一つ、教えてくれ!」

「いいだろう。私の知っていることならばね」

「…お前は、何者なんだ?」

それはこの問題の核心。なぜ、哀歌の体を捧げなくてはならないのか、そもそも捧げるほどの相手とは何者なのか。深夜はそれを知る決意をしたのだ。すべて知るために、そして決着をつけるために

「聞いてもどうしようもないが、知りたいかい?」

「ああ」

「ならばよいだろう」

そういうと、一息おいて偽哀歌は己の正体を明かした。

「八百万の一柱。この身を対価に現世に受肉した、ありていに言えば神だ」


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