ぶらっくで徹夜するだけの簡単なお仕事です。
「ねね、今日は身体検査しましょう」
女神社チョーのそんな一言で地獄は始まった。
◇■◇■◇
「社チョー、今度は何の漫画に影響されたんですか?」
「今回はね~、『それゆけ写築君!胃に空いた穴は何故に!』ってやつなんだけどね~」
名前を聞くだけで感じる地雷臭。よくそんなのあるな。
「貸してあげようか?面白いんだよ?仕事に追われる写築君がね―――」
「いえ、結構です。というかそんなの誰が書いてるんですか?」
聞くと後悔しそうなので、無理矢理遮りながら話題を変える。
「ん~?確かイッツマイエンジェル?だっったはず」
「何か心当たりありそうなんですけど......」
もしかして、さぼっているのって、漫画書いてるからじゃ......いや、ないか。ないよな?
「とりあえず、身体検査やりましょ。もしかしたら胃に穴が空いてるかもしれないわよ!」
「いや、神になると常に健康体とか言ってたような。というか仕事は......」
「さあ、皆に知らせましょう!」
そして、張り出された壁紙にはこう書いてあった。
『身体検査するよー!一人ずつ来てねー!順番を守らないとお仕置きね♪』
お仕置きという言葉に戦慄を覚えた式神達。何故なら少し前に、彼女の楽しみにしていたゲームを勝手にやってしまった天使が仕事を真面目にし始めたのである。あの天使が、だ。自他共に認めるサボリ魔の彼女がそれはもう真剣に仕事を始めたのだ。これを異常と呼ばす何と言うのだ。後に何があったのか聞いたのだが、彼女はただ、何も言わず体を震わせたのだった。
そして、いつもふざける式神達はまるで軍隊のように医務室の前に並ぶのだった。
勿論、その間も管理し続けないと世界のバランスがどうたらで大変なことになるので、残された(半分以下)の人数でデフォルトがブラックなお仕事をしなくてはいけないのだ。鬼畜にもほどがある。
もしかしたら、胃に穴が空いてるかもな。などと考えながら手を動かす。喋っている暇も、現実逃避する時間もない。もはや笑えないレベルだ。
「こいつを頼む、天使。......天使?」
隣で仕事をしている筈の天使。今回は縄で椅子に縛り付けたのだが、見事に解かれている。隣に向いていた視線をそのまま周りへ向けると、
「こいつぁ、ハードだぜぇぃ」「あれ?まだ5分もたっていないの?」「み、右手がうずく......!」「私、この仕事終わったら結婚するんだ」「ヒャッハー!」「やってもやっても減らないんだけど、何これ」「アカーン」「あれ?皆分身の術出来たっけ?」「メーディク!メーディク!」「僕、光が見えるよ」
全員目が死んでる。いつもと違い、ふざけてるのでなく疲労で荒ぶってやがる。身体検査よりメンタルケアを早急にした方がいい気がする。
「部長~、まだ終わらないんですか?私たち疲労でそろそろ死にそうです」
「俺もだ。それはもう社チョー次第だろ。あと天使は何処行った」
式神も天使の居場所は知らないらしく、首を無言で振る。
俺も式神も死んだ目で仕事をしていると、一人の式神が騒ぎ出した。
「てぇへんだー、てぇへんだー!!」
「ど、どうした!?」
「勇者キタコレーーーーー!」
......は?俺?
◇■◇■◇
「は~い、次ね~」
「よ、よろしくお願いしますデス!」
「ん~漫画じゃあ此処はこうして」
「な、何でしょうかそのでっかい注射......ミギャアァーー!」
「あら、間違えちゃった。テヘ」
こっちもこっちで地獄だった。
◇■◇■◇
「何だ、俺のこと言ってるのか?確かに言われてたけど、もう数十年前だぞ」
「と、とにかくモニターを見てください!」
言われた通りに世界を映し出すモニターを出す。
モニターには、現れたモンスターが数秒で倒され、アイテムが出る前に次のモンスターを倒している。アイテムには興味がないのか、そのままにして先に進んでいる。アイテム作成部からすれば、徹夜で作ったアイテムを放置である。当然発狂する。そしてイケメン。モテナイが騒いでいる。
「ナニアレ」
「聞いたことがあります」
急に横に立ち、眼鏡をかけた通称博士が説明し始める。
「勇者。世界から認められた公式チートにして、理不尽を許された存在。まさに理不尽オブ理不尽です」
「え、じゃあ俺もそんな感じだったのか?」
「いえ、部長はレベル1から成長していく系勇者。つまり、よくあるテンプレキャラです」
殴った俺は間違いではない。
「というかやばくないか?」
「ええ、アイテム、モンスターの在庫がすでに半分を切りました。早急に手を打たなければ一週間は徹夜かと」
「今すぐ何とかしろー!」
書類をほっぽりだして、すぐにモンスター開発部に急ぐ。普通のモンスターではダメだ、ラスボス級でもないと。勇者は諦めないだろう。だが、それなら都合がいい。
モンスター開発部の扉を乱雑に開く。
「状況は分ってるな。あれを出すことを許可する。2体でも3体でも俺が許す」
「ふっふっふ、あれの封印を解くときが来るとは」
「ほとばしるロマン、今解き放つとき」
「ヒャッハー!やっちまうです!」
深夜のテンションで作りあげた、改造ボスランクモンスター。別名ぼくのかんがえたさいきょーのもんすたー。普通なら何このクソゲーと呼ばれるほど強すぎて封印指定したのだが、此処で使うとは思いもしなかった。
「よし行け!勇者を倒せ!......いや、追い返すくらいでいいから、マジで頼む」
全身が鋼鉄で出来たドラゴンが勇者の目の前に現れる。
『甘い!』
斬られた。
「「......」」
「いや、まだだ。たかが一匹だ。それに奴はボスモンの中でも最弱。行け!9つの首から異なる属性のブレスを使うヤマタオロチ!」
「何で説明口調?」
モニターにバカでかい9つの首を持ったモンスターが現れるが、
『くっ、ブレスは厄介だが問題ない。切り捨てる!』
「次だ!」
「今度は斬撃では絶対に倒せない耐斬制ゴーレムだぁ!」
ゴーレムが現れた瞬間、勇者が剣で切りかかるが弾かれる。
「よし!行けるぞ、これ!」
『ならばこの拳で叩き伏せるのみ!でやぁぁああああ!』
「次ぃ!」
次に現れたのはふざけたHPと防御力を持つ、超巨体モンスター。
『大きさ、硬さなど関係ない。ただ斬るのみ!はあぁぁぁぁ!!』
「......」
「もうやだ、あいつ」
◇■◇■◇
「終わったわよー!う~ん、中々難しいのね。やっぱ漫画みたいにはうまくいかなかったわ。あら、どうしたのそんな暗い顔して」
「......社チョー。もう今後一切こんなイベントやめましょう」
「え、何で~楽しかったのに~」
「 断固禁止です 」
「......あらあら?め、目が怖いわよ~」
珍しく社チョーが焦る。だが、此方も譲れないものがあるのだ、簡単には引けない。今の俺は部下達の思いを背負っているのだから。泣きながら作業をする作成部、死んだ目でうわ言を繰り返す開発部、大量の書類に囲まれた会計部。
「わ、分かったから~、その怖い顔をやめて~」
「絶対ですからね」
「わ、分ってるわよ~......うぅ、怖かったわ~」
「では、この書類お願いします」
「え?この量を一人で?」
目の前に積み上げられる書類は優に百を超える。社チョーが泣きそうになってるが、しょうがない。悪いのは全部あの勇者だ。俺じゃない。許すまじ勇者。
「じゃあ、頑張ってください」
「ええ、手伝ってほしいなぁ~」
「......俺も、その倍はやらないといけないんで」
俺が笑うって言うと社チョーが引いていた。失礼な。さて、今日も徹夜か。ああ、そういえば、
「また栄養ドリンク買いに行かないとな」